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初恋は無情の少年と  作者: あづさ
2/5

光は闇を受け入れる

 ゴーンゴーン...

「ん......」

いつもとは違い重く響く鐘で目が覚めた。

この辺りでは店の閉店の時間である8時30に鐘が鳴る。

薄暗い部屋に目を凝らすと、自分のすぐ横のベットには昨日自分が手当した少年が規則正しい寝息をたてて寝ていた。

「そうだ...俺、あのまま寝て...」

小さくつぶやきながら昨日の記憶を思い出す...

腹部だけだと思っていた傷は、明るい場所で見るとほぼ全身傷だらけだった。

それらを1つ1つ手当てしていると夜明けまでかかってしまい、呼吸が安定しているのを確認してから死んだように眠りについたのだ。

「どうやったらこんなにたくさんの傷ができるんだろう...」

疑問に思いつつ唯一包帯のまかれていない無傷の頭を撫でた。

「さぁ、この子が起きた時のために朝食を準備しますか」

ゆっくり立ち上がった夏輝は客室を後にした。


.....子供の嫌がらないもの、かつあの子でも食べやすい物...

「...よしっ、決めた!」

そう言った夏輝は袖をまくりさっさと調理を開始した

ものの数分するとその料理は完成した

「卵がゆかんせー、久しぶりに作ったけど上手にできた♪」

上機嫌で皿によそっていると

カタッ

と音がした。

「起きたのかな...?」

夏輝はあの子の分の食事を持って客室へ向かった。


「は、入るよ...?」

ひとこと断って扉を開けた。

部屋へ入ると男の子は起き上がっていて、昨日のように鋭い視線を向けてきた。

あ、この子...やばいかも...

俺が、そう感じ取ったとき

「ここはどこだ」

唐突に質問を投げかけられた

「俺の家だよ、きみ裏道に倒れてたんだよ」

夏輝がそう答えた瞬間背後から異様な威圧感を感じ取った、体が動かない...

「お前は何処まで知っている...?」

さらに質問を返される

「特には...というよりこの異様な威圧感...やめてくれない?」

そう言うと男の子は軽く目を見開き伏せた、その瞬間何かにはじかれたように体の拘束が解かれる

ゆっくりと振り返った先にあったのは大きな獣の手だった。

下から伸びたそれは今まさに夏輝を切り裂かんという距離まで来ている

い、威圧感の原因はこれか...

静かに納得すると俺は食事の乗ったお盆を男の子の膝の上に置いた。

「恐れないのか?」

男の子は不思議そうに聞いてきた。

「いや、怖いは怖いけど今は威圧感がないから、大丈夫かなって...」

「......」

それについての答えはなく男の子は視線を俺から卵がゆに向けた

「これは何だ?」

自分に向けられたし質問に耳を疑った。

”これは何だ”?俺の作った卵がゆは世のお母さんたちが具合が悪くなった子供に作るそれだ。

「た、ただの卵がゆだけど...」

「卵がゆ...?」

オウム返しをする顔がやけに真剣で口から静かに笑いがこぼれた。

「何だ...」

ムッとした顔は年相応で正直かわいかった。

「煮込んだご飯に溶き卵を入れて味付けしただけだよ」

そう教えると後ろの気配が動いた。

何だと思って振り返った時にはあの巨大な足は跡形もなくなくなっていた。

グルルルルゥゥ

そしてまた気配を感じて振り返ると男の子のすぐ近くに今度は獣の大きな顔があって「ほい」っと獣の口に卵がゆを入れていた。

意味が分からず固まっているとフワッと獣の輪郭が歪みあっという間に消えた

そして、当の本人はさじで粥をすくうと口へ運んだ。

そこでやっと気づいた。あぁ、そっか変なのが入ってないか確かめてたのか...

頭の隅で理解しつつ卵がゆをゆっくりと口へ運ぶ男の子を見ていた。

「おいしい?」

そう聞くとコクリと頭が動いた。

ぐぅぅぅ

「あ」

驚きの連続で忘れていた空腹が戻ってきて自分も卵がゆを食べることにする。

「いただきます」

夏輝が手を合わせ食べ始めると食べ終わったらしい男の子が皿を置いた。

あ、そういえば...

「ねぇ、君 名前なんて言うの?」

少し顔を覗き込みながら聞くと

「好きに呼べば」

という返事が返ってきた。

「じゃあ...(こん)、紺って言うのは?」

この子の髪と瞳の色は少し薄めの紺色ですごく綺麗だったからそう言ったのに「どう?」と夏輝が聞くとフイっと顔を背けられた。

どうしたのか気になって覗き込むと

「殺してほしいのか?」

そう威圧感のある声で顔を押された。

そして目に入ったのはまたあの獣でノシッと近づいて来た。

獣の目に自分が移り飛びかかって来ると思って構えた、瞬間...

「グッ...ゲホッゲホッ...」

紺がひどい咳をして、こちらに向かっていた獣がドロッと溶けた

「え」

驚いて紺を見ると口を抑えていた手に赤い液体がついていた、血だ...

「!?どうした」

立ち上がろうとすると

「来るな、離れていろ!ゲホッ」

こっちを見た紺の目は恐怖の色が滲んでいた。

「あぁ...くぅ...あぁぁーーっ」

悲痛の声が聞こえると紺の後ろに黒く不気味な影が見えて、それは紺の体に巻き付いていく。

紺は包帯だらけの手で自分の首をおさえていてその隙間にチラッと赤黒い痣が見えた気がした。

なんでそんな目をしているんだろう...離れていろって、そんなに苦しそうなのに...?

その時ブワッと冷たい風が吹いた。

”怖い...怖い...”

え.....

その声は不思議と耳ではなく頭に直接響いてきた。

”嫌だ、行きたくない...もう嫌なんだ...”

まだ幼いその悲しい声に俺は聞き覚えがあった。

この声は...紺.....?

「っあぁ...あぁぁ...」

”嫌だ、嫌だ...だれか、助けて!!”

そんな声が聞こえたときひときわ強い風が吹いた。

ガタンッ

夏輝は立ち上がると、ゆっくりと紺に近づいた。

「っ...うぅ...近づく、な...っぅ」

紺は目で威圧してききて、背中に冷や汗がつたった。

けれど、夏輝は歩みを止めなっかた...そして...

「っ...っ、ぅぁ」

ギュッ

夏輝は紺をきつく抱きしめた。

なんとなくだがあの黒いものに自分も巻き付かれているような感じがした。

「大丈夫、大丈夫だから...」

「あぁ...くっ、ぅぁ...離、せ...」

そんなことを言いながら、最初紺は腕の中で暴れていたが、呼吸が安定していくうちに暴れなくなり冷たく激しい風も気付くとやんでいた。

「っ...おい、もう離せ...苦しい」

「え、あ、うん...もう大丈夫?」

「あぁ、というか、お前離れてろって言ったろ」

良かった、もう元気だ。スッと離れるともうあの黒いものもいなかった。

「俺の名前はお前じゃなく夏輝、分かった?」

返事はなかったが、俺のほうをジッと見つめていた。

あ、そういえば...

「首!ちょっと見せて」

夏輝は紺の着ている服をグッとずらした。

確かこのあたりに変な痣があったような気がしたんだけど...やっぱり気のせいか...?

見終わってすっと力を緩めると紺が

「終わったなら離れろ」

と押されたがその手に力は入っておらず、逆に動いたのは紺の体だった。

「紺...?」

「見ただろ?さっきの...危険なんだ...手当てしてくれたのは感謝するが必要以上俺に関わるな...安心しろ、俺は明日出て行く...」

さっきのというのはあの黒いもののことだろうか、それとも他のことだろうか...

正直、いろいろ聞きたいこともある...けど...

「...大丈夫、確かに初めて会ったときの獣君は驚いたよ、でもそれ以外紺に危険は感じない...紺はこれから行くあてでもあるの?」

「...」

紺は何も言わず視線をそらした。

「俺、この通り1人暮らしなんだ...」

夏輝はそう言って紺に手を差し出した、そしていたずらっ子のような笑みを浮かべ

「良ければ一緒に住みませんか?」

そう言い放った。

紺は、あまりのことに固まっていた。

きっと今、何言ってんだ、コイツっとか考えてそう...ハハハっと頭の中で笑っていると予想外の答えが返ってきた。

「分かった」

「へ?」

「住んでやるって言ってる...ただし、お前が死のうと俺は知らないからな」

「うん、じゃあ紺はこの部屋使っていいよ...っとその前に傷の状態見せて?」

「...」

特に返事はなかったが紺は黙って上着を脱ぎ始めた。

夏輝が包帯を取っていくと突然驚きの声が上がった。

「えっ、嘘...」

「どうした?」

「い、いや、その傷がなくて...」

そう昨日夏輝が一生懸命手当てした傷は跡形もなく、なくなっているのだ。

「あぁ、切り傷や刺し傷なんかは1日もあれば治る」

「よくできた体で...」

本当、何者なんだろ...いつか教えてくれるかな...できればその時にでも本当の名前も教えてもらえるといいな...

「よし、次は足ね」

そう言って折れていた左足の包帯を取っていると

「っ...」

紺の口から痛そうな声が聞こえた

「あ、ごめん、痛かった?」

俺がそう聞くと

「大丈夫...」

という返事が返ってきた。でもその顔は苦痛に歪んでいて...

骨折はさすがに1日じゃ治せないよね、逆に治せたらちょっと怖い...

夏輝は腫れているところに湿布薬を塗り添え木を入れて再び包帯を巻き始めた。

「...ぁ「はい、終了っと何?」

紺の声と俺の声がかぶって、聞こえなかったので再度聞くと...

「...ぁ、ありがとう」

もごもごと口ごもりながらそう紺は言った。

「どういたしまして」

何だ、ちゃんとお礼言えるんじゃん...

「じゃあ、俺からも...これからよろしくね」

「......よろしく」

こうして俺たちの生活が始まった。

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