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やっちゃった

前回のまとめ

「見かけるだけで殉教者気分になれちゃう虐殺兵器YUSYAさん来る」

最初に感じたのは、違和感というより、危機感だった。



勇者は確かに強い。


例えばその剣だ。

髪の毛ほどの傷でも特級呪詛のような汚染をくらう。

そのため、魔王の肉体であってもまともに組み合う事ができないチート武器である。


その鎧もやはり凶悪なチートだ。

魔族の攻撃は、上級以下の魔術と体術を強制的に無効化される。

数秒あればその無効化を無視できる技は出せるだろう。

とはいえ、タイマンの戦闘中に大技を狙う隙なんてあるはずが無い。

タメている間に十回くらい殺されるだろう。


ゆえに、こちらが三本ほど腕を失っているにも関わらず(あと三本は有るのだが)、相手の鎧には傷一つないのが現状だ。

こちらは消耗、相手はほぼ万全。

このままだったら削りきられてジリ貧間違いなし。



と、そんな状況にも関わらず、『危機感がまるで感じられない自分』がいたりする。

危機感のない自分に対して危機感が湧いてくるなんて初めてだ。



「……アルファ、精神魔術の汚染を前提にステータス再チェック」

『イエス、マスター。――口頭で要点を。腕については再生妨害の祝福を強度7で確認。しかし、精神魔術の痕跡は12通りの確認方法、全てで否定』

「怪しくなさすぎるのが逆に怪しいくらいだな」


ため息を漏らす。

勇者はそれが気に入らなかったのか、攻撃が一層激しく強くなる。

一撃ごとに雲を切り、地を割るような強引な攻撃。

逆に言えばそれは、子供が棒きれを振り回しているような大雑把さだ。


強力な装備に、貧弱な技術。

「――っ! っ――れっ!」

そのあまりの拙さに、怒りさえ感じてしまう。


こんなのが勇者か。

こんなのが、僕を殺すのか?


世界の理に従う事は仕方が無いと思う。

魔王は世界を守るために勇者に討たれるのだ。

僕にはそれを拒否するほどの理由もない。

とはいえ、戦士として満足して死ねるくらいの期待は許されるはずだ。


「ふざけるな!

本気を出せ、勇者よ!

殺す気でやれ、真剣に向き合え!!

世界を救う力を見せろ!!」


僕の挑発に勇者の攻撃は激しくなる。

が、今まで以上の粗雑な連激だ。

やけくそという言葉でさえもったいない。


戦士としての技量も誇りも感じられない、ただただ、荒っぽいだけの攻撃だ。


ここまで来ればもう、この勇者は脅威でもなんでもない。

いっそ哀れに思う気持ちさえ湧いてくる。


予定変更だ。

流石にこれでは、死ぬに死ねない。



大地を蹴って空に上がり、超級魔術に使う魔力を練り上げる。

そんな余裕さえ、与えられてしまっている。

「悪いけど、これは弱すぎる君に罪がある」


片手を高く空に掲げて、指を鳴らす。

周囲では、絶えること無く雷光をまき散らす魔界の暗雲が、ズルズルと渦を巻く。


「ーー『暗き淵より来るもの、神の怒りと呼ばれし光、疾走し貫通する白き汝に捧ぐ』」


詠唱に気付いた勇者が慌てて盾を構えるが、そういう所も三流だ。

仮にも魔のつく種族の王。

その詠唱を完遂させれば勇者の盾でも守りきれるはずがない。

魔法でも武術でも、勇者はこの詠唱を止めなければいけなかったのだ。


「ーー『駆け抜けて、駆け抜けて、駆け抜けて、ただ戦場を駆け抜けて、私の前に敵はなく、この身のあとに、祈りが残る』」


渦巻いていた暗雲は既に闇の塊のような濃度だ。

その力を借りて創った拡張系の超級魔術【召雷絶華】を、怯えたように後ずさる勇者に向ける。


「――……」

「悪いけど、命乞いなら聞かない主義だ」

幾百もの稲妻を束ねてた黄金の槍を、勇者に向けて投げつける。


次の瞬間、

あたり一面の森ごと吹き飛ばす爆風が発生し、常闇の魔界を白い光で煌々と照らす光の柱が地面から伸びた。


「……やったか?」

そうしてしばらく魔術の余波が収まるのを待ってから、せめて鎧の欠片くらいは墓に入れてやろうと地面に降り立つと、そこに有ったのは予想を完全に裏切るモノで……。

具体的には、壊れた鎧の中にいたのは、今にも死にそうなほどの怪我をした、幼女としか呼びようのない女の子だった。



「え、えぇ? ……やっちゃったー?!」







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