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勇者来る

よろしくお願いします(*´ω`*)

僕の展開した拡張系魔術【千里眼】の視界の中で、キラリ光るものが見えた。

「来た、か」


猛然と走るそれは、金属製の塊だ。

稲光以外は真っ暗な魔界の空の下で、不気味な木々の覆う大地を、凄まじい速度で駆けている。


少し待って近づいてくれば、焔の刻印が刻まれた鎧だということも見えてくる。

焔と言えば浄化の聖神だ。

その祝福を受けた奇跡級(ミソロジー)の輝く鎧といえば世界でただ一つ、ただ一人のために作られたモノ、


――すなわち、勇者の鎧以外にはありえない。



鎧、兜、具足、剣の揃った勇者は強い。

装備に刻まれたおよそ100にも及ぶ奇跡の庇護を受けて、魔に属するものを剣の一振りで灰に変えながら駆け抜ける。

魔族の天敵、いや、対魔族用決戦兵器だ。


味方であれば何より心強い姿だろう。

叶うのなら、せめて敵にならないようにしたいと誰もが祈る迫力がある。



ただ、残念ながら僕はその敵であり、さらにいえばその親玉だ。


「……思ったよりも、今代は早かったな」

「お逃げくださいませぬか、魔王様」


長年連れ添った宰相のアークリッチの気遣わしげな言葉に、首を振ってから白々しく笑う。

「あはは、アレが僕を逃がすと思う? ……無理ならせめて、この首で手を打つように頼むのが王の勤めでしょ」

「……」


仕方ないよねと笑って見せる。

仕方ない。どうしようもない。

魔王になったのも成り行きだったし、仕方ない事だった。

魔王を終えるのも、またそういう仕方ないものなのだ。


世界の理。

それが保たれるための一番合理的な方法が、この魔王の死なのだ。

だから、まあ、殺しに来たというなら殺されるべきなのだろう。


アークリッチはギリギリと奥歯を鳴らして何かをこらえながら、深く頭を下げる。

「……とはいえアレだ、何も必ずしも無抵抗で負けなきゃいけないワケじゃないからね。精一杯のおもてなしくらいはさせてもらおう」


ちょっとくらいの意趣返し。

その程度なら許されるだろう。

魔王としての最後の見せ場だ。

死闘の一つもしておかなければ、あの世で先代様に怒られてしまう。


「だから、派手にいく」


両手の指を同時に鳴らす。

その音によって生まれた空間の歪みを利用して、無数の拡張系超級空間魔術【深禍球】を生み出し、城の前にばらまいて勇者の足を止めさせる。


「それじゃ、行ってくる」

「……晩御飯までにお帰りください」


普段は真面目なアークリッチの見せた最後の悪あがきのような言葉に、僕は感謝と謝罪と別れの気持ちを込めて「美味しい料理を期待してるよ」と応えて跳んだ。

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