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追求

『婚約者候補の大会は中止』


そう告げられたのは一時間前。

これまでフレッドとタクと一生懸命勉強してきただけあって、そのショックは絶大だった。

その落ち込みは自分でもわかるくらいにずどーんっと。

先ほどからタクが心配そうに視線を熱くして私を見ているのが分かる。

ちなみに斜め前にはフレッドも同じようにうなだれてしまっていた。


「……私、ちょっと出かけてくるね。いいでしょ、フレッド?」


重い空気が私にとって嫌で気分転換に外出を試みる。

タクもそうしましょうという目で訴えてきて私が外出することに賛成のようだ。


「ああ、もちろんだ。気分転換にキッフェンでも買ってくるといい」


しおれた笑顔を向けられると、なんだか可哀想に思えるが、キッフェルンかぁ、いいかもと思いながら外出目的にした。


キッフェルンというのは、現代のドイツの焼き菓子で、この世界にも伝統のお菓子として伝わっている。なんか、この世界ってヨーロッパ風のもの多いなぁなどと思いながらタクに外出の支度を整えてもらい、城を後にした。


「外に出られるのは久しぶりですね」

「そうね。この間からパーティーの準備やなんやらで外出できなかったから」


タクがそう爽やかな笑顔で話を盛んにしてくれる。

私がこの世界に来てから日数を数えていたが、もうはやくも二週間が経過していた。それに応じて春のように温かな風が吹いていたこの地域も、今では日差しが少し強くなって夏らしい気候に変化しているのを感じていた。


「麗様は、パーティー、楽しめましたか?」

「……ええ、もちろんよ」


応答が少し遅れてしまったのは、昨夜あったあの素敵な男性を思い出してしまって、またもや見とれてしまっていたから。


「ブリリアント様が麗様のおそばにいられなくて悲しんでおられましたよ?」

「ショウ様が……」


ショウ様を想うと、今の私はほんと、失礼だったな。

ショウ様は私を本当に愛してくださっているのに、私としたら昨夜の男性を少しでも思い浮かべて見とれてしまっていて。


「麗様?」

「……ううん、なんでもないの。それより早くお茶にしたいからキッフェルン、買いに行きましょう?」


彼女はいたって元気そうなので、俺は疑うこともなく、彼女についていった。


麗が出かけた後、すぐに俺はブリリアント様に呼ばれた。


「失礼します、ブリリアント様」


そう声を掛けて部屋へはいると、ブリリアント様は書類を片手に机にむかっていらっしゃった。


「フデリックか。そこに座れ」


ほっとしたように微笑み、俺にまずは座れと勧める。

俺も断る理由がなかったのでそれにしたがって、メイドには下がってもらった。


「……ブリリアント様、話とはなんでしょうか?」


一息ついたところで早速、聞いてみる。


「実は、フデリックも不思議がっているだろうが、僕の婚約者を決める大会の中止の件だ」


「私もそれをぜひ聞きたかったです。麗様もひどくショックを受けていらっしゃって」


ここでまさかその理由が聞けるとは思ってもみなかったので、俺はきゅっと彼のまなざしにまで彼に教えてほしいと訴えた。


「麗さんには本当に申し訳ないと思っている。だが、その大会を開けば、彼女を危険にさらしてしまうかもしれないからだ」


「それは……どういうことでしょうか……?」


俺は彼の話に真剣に聞き始めていた――



「わぁ、キッフェルンがこんなに種類があるものなんて知らなかったわっ」


ガラスケースにキュッと手をくっつけて子供みたいにはしゃぐ彼女は、

もうショックを受けたことすら忘れているようにも見えた。


「そうですね。何味にしますか?シナモン、ストロベリー、チョコなどいろいろありますが……?」


クスッと笑いながら彼女の後ろ姿を見つめてそう聞く。

なんて愛らしいんだろうと彼女にそうばれぬよう瞳でおしゃべりしながらキラキラと輝かせてこちらを振りかえった彼女の目線に合わせて聞いた。


「えっとね……、欲張りなんだけど……全部の種類食べてみたい……」


恥じるようにちょんちょんと人差し指同士をくっつけながらもじもじと小さな声で言って、俺を上目遣いで見上げる。

ねだる時の彼女はとてつもなくその愛らしさを発揮することを俺は彼女との二週間の生活でわかりきっていた。



「しょうがないですね……。いましばらくお待ちください、買ってきますので」


ふふっと笑いながら彼女の頭を撫でて、会計を終えようとしている列にならんだ。



「……」


ふふっとにやつきながら彼のことを店の外で待っていると、誰かが話しかけてくる。



「麗様、ですよね?」


紳士的な態度を思わせるような穏やかな声に私は笑顔を向けながら彼と目を合わせた――


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