5 冒険者と乙女と
ある意味当たり前のことだが、名前も聞いてないのに全て分かるのは現実ではありえない。
しかしこの異世界では特定のスキルによって確認が取れる。情報を得られれば有利になるのは何処でも一緒なのだが……
狐耳の少女に使った所、表示が伏せていると言う状態になってしまった。
「……」
情報が得られないのは現実と一緒なので気にはしないが、スキルが不発に終わったのは何か理由があるかもしれない。そう結論に至り、隣のヴィジュアル系の人物も確認する。
【―――・――― ―― ――歳 ― ――――――――――-】
またも表示されなかったが、服装では男か女の判断が出来ない格好だったので全てにおいて表示が伏せられている。
本当にどういうことだ? 何かしらの妨害でも受けているのだろうか?
「ん~、ん?」
ヴィジュアル系の人物が視線を這わせ、こちらをチラリと見たと思ったら顔を勢いよく向けてジロジロと舐める様に見つめられる。
すると俺に向かって歩き出した。いや、スキップの様にルンルンと迫ってきた。後ろに居た狐耳の少女もテクテクと歩いてくる。
「んふふふ、新しい子ね。それに黒髪なんて珍しい……(もしかして日本人かしら?)」
目の前で止まったかと思うと、髪を触りながら声をかけてくる。最後に耳元で呟く様に俺にしか聞こえないように言葉を紡いだ。
さすがに驚いた。異世界の人物が日本人の事について知っていることに。いや、もしかしたら……
「ああ、そうだ。もしかして貴方も?」
「ええ、そうよ。ん~、ちょっと込み入った事を話すかもしれないわね。用事もあったんだけど……」
「別に後でもかまわないが?」
「ん~、最初に話した方が後々楽になっていいと思うわよ?」
右手の人差し指を右頬に当てながらウインクをして受付上のところに向かうヴィジュアル系の人物。
狐耳の少女は俺をチラリと見てヴィジュアル系の人の後を付いて行く。
改めて狐耳の少女を確認する。お尻の少し上から尻尾が揺れている。短い髪かと思ったが後ろで細く纏まって結ばれており背中の真ん中位までの長さがあった。
そして150位しかない身長の割りに胸が大きかった。D……いやEか……
「あらあら、薔薇乙女のリーダーさんとお知り合いだったの?」
「薔薇乙女?」
「その様子だと知り合いじゃないみたいね」
「いや、もしかしたら同郷の人かもしれないから……」
「あー、向こうは知ってるけど坊やは知らない感じかしら?」
「おそらく」
適当にお姉さんと会話をしているとヴィジュアル系の人物が受付の所で手招きをしていた。
とりあえず向かってみる。話をして情報を得たい。
「とりあえず小さい会議室を借りたからそこでお話しましょ」
「あの、一応会議室は冒険者ギルドに登録した人でしか使えませんが……」
受付嬢が困った様にしている。
「ああ、それなら登録しようと思っていたので……時間がかかりますか?」
「あ、それでしたらこの用紙に名前と経歴を書いてください。登録されるのでしたら会議室で書いてもらって構いませんので」
「分かりました」
とりあえずは大丈夫なようだ。用紙を貰いヴィジュアル系の人物の後を付いて行く。隣で歩いている狐耳の少女も同じ用紙を持っていた。
受付脇の通路を進んで途中にあった部屋に入る。中は6人も入れば一杯になりそうな小さな部屋だった。
「じゃ、改めて。私はカナメって言うのよろしくね」
再度<能力確認>をしたら名前のところにカナメと表示された。隣に(偽名)と表示されていたが。
部屋にあるテーブルと長椅子。ヴィジュアル系の人物の対面に座ると隣に狐耳の少女が座ってきた。
「俺はタロー、タロー・イズモだ」
「タロー君ね、それとこの子は――」
「ハル……ハル・イヌイ……ねむい……」
目元を擦りながら自己紹介をされる。どうやら眠気があるらしく目が閉じそうになっている。
「名前的には日本人だが……」
「ああ、この子はユニークスキルで<獣人・狐>を取ったらしいわよ」
「……なんで?」
「んー……狐が好きだから」
ハルは用紙に名前と経歴を書きながら答えてくれる。しかし、日本語で書いて大丈夫なのだろうか?
その様子を見ていたらカナメが答えてくれる。
「日本語で大丈夫よ。読み物もほとんど日本語だったし」
「そうなのか?」
「ええ、そうよ。その辺りは一通り試したから問題ないわ」
あまり深くは考えないほうが良い様だが……
とりあえず俺も用紙に書いていく。だが、経歴の所で困ってしまった。
「経歴……ね」
「ああ、そうだったわね。こっちに来たって事はきっと日本に居たときの記憶が無いんでしょ?」
「……」
経歴を書くときに自分自身が歩んできたはずの過去が一切思い出せなかった。しかし知識は頭の中に残っていると言う不思議な現象だった。
そのことも含めカナメに聞くことにした。
「確かに思い出せないが、そう聞いたって事はカナメさんも?」
「カナメでいいわ。そう、私もハルも知識はあるけど思い出が無いのよ」
「んー、別に気にしない」
二人とも思い出せない様だが特に困った様子はしていない。俺も特に気にしてはいないので今は問題ないだろう。
経歴にはゴブリンと戦った事だけ書いておいた。カナメは「それで問題ないわ」と言いながら話を続ける。
「そうね、まずは地理から教えましょうか」
カナメは一呼吸置いて話し始めた。
まずは今俺達がいる王国、トライア王国と言う大国で中心のトライア城塞都市をはじめ。三方向に港の大街と山の街、そして今いる草原のカルアの街。その他に村や集落と言った所があり、かなりの規模を誇る大国だ。他に西部にゴルド帝国と北部にフューラン皇国がありトライア王国を含め3大国となっている。
また小さいながらもいくつかの国がありカルアの街の先にも国がある。友好的な国は貿易などで繋がりもあるという。逆に敵対している国もあり、3大国は50年前までは戦争を起こして領土を確保したいがために争っていた。
現在は均衡状態で冷戦の様になっている。冒険者は例外で基本的に魔物のみを討伐している。魔物は500年前に魔王が居た頃の名残で、瘴気が多い所に沸くと言う。
魔王と聞いてつくづくファンタジーだなと思いながら聞いていた。
「魔王か……もしかして今も居るのかな?」
「どうかしらね? 文献によると勇者が現れて倒したそうだけど」
「居たら会ってみたいな。定番の台詞が聞きたい」
「よく来たな! 勇者よ! って?」
「いや、世界を半分やるとかだな。むしろそれで妥協してみたい」
くだらない話を混ぜつつ確認していく。魔物は素材が取れて売ることも出来るし、魔石の欠片も残すらしい。魔石の欠片は魔法道具に必要な素材のため質がいいのは高額で売れると。
他にも魔法や精霊も居たり、幽霊も出ると話を聞いて簡単だが異世界の情報は掴めた。
カナメが2年前にこの世界に来ただとか、ハルが2週間前に来ただとか。
「で、私は薔薇乙女って言うチームを組んでるんだけどね。ちょっと貴方にお願いがあるのよ」
「お願い?」
「そそ、隣に座ってるハルなんだけど面倒見てくれないかなーって」
隣を見るとフラフラと居眠りしかけているハルがいた。頭を撫でてやると気持ちよさそうに微笑み、そのまま倒れこんできた。
俺の太股を枕に寝息を立て始める。あどけない顔がかわいくてつい撫でてしまう。
「寝てしまったな……で、何で俺に?」
「同じ日本人って事もあるんだけどね、私のチームがね性別的に入れないようになってるのよ」
「……あー」
先程の台詞で大体把握できた。カナメが偽名なのは名前が男物だったからだろう。つまりカナメは男でチーム薔薇乙女は「乙女の心を持つ男」と言ったところだろう。
カナメは外見も女性らしさがあり声も低めだが女性っぽい、<能力確認>で性別不明だった事に納得は出来た。
「もう少し面倒見てからって考えていたんだけどね、チームメンバーの掟を考えたらねぇ」
「掟ねぇ」
「やっぱり若い異性が居ると拠点に居るメンバーの夜が不安だからね」
「……え」
「あ、もしタロー君にその気が―――」
「ありませんから大丈夫ですからお気遣い無く」
「あらそう?」
聞いてはいけない! 後戻りが出来なくなってからでは遅い気がする!
「と言ってもハルと一緒に居るのはいいが拠点見たいな場所も無いからなぁ」
「ま、その辺は宿に泊まりながらお金を貯めて、家を借りるか買えばいいと思うわ」
「相場はどのくらい?」
「借りるだけなら1ヵ月銀貨5枚から金貨1枚まで幅広いわよ?」
「感覚で言えば5万位かな?」
「そうね、で家を買うなら白金貨1枚からね」
「白金貨?」
「銅貨から10枚づつで銀貨、金貨に換わるから」
「100万からって事か」
お金に関しての情報はありがたい。
「違うわよ?」
「えっと…え?」
「単位は下から鉄銭、銅貨、銀貨、白銀貨、金貨、白金貨よ」
「って事は家は1000万からか……」
「そうよ、ここは大きい街だから結構いい値がするのよね~」
ケラケラと笑いながら言うカナメ。しかし高いな、当分は宿のお世話になりそうだ。
「まぁ、とりあえずハルは俺が面倒見よう」
「そうしてくれると助かるわ、禁欲生活長くてねー」
「準備も要るからとりあえず明日からでいいか?」
「おっけーよ、じゃあ私もこの後用事があるからさっさと帰るとするわ」
「ああ、情報教えてくれて助かった」
「フフフ」
カナメは俺がお礼を言うとウインクで返してきた。ドキリとするが相手は男だ。きっと何かの間違いだ。高鳴るな! 胸の鼓動!
「じゃあハルはつれて帰るわねー。とりあえず明日の昼ごろにここの受付前で会いましょ」
「わかった」
「ハルー? 行くわよー?」
「む~? お話終わった~?」
「あのねぇ、一応貴方にも聞かせたつもりだったんだけど……まぁいいわ。今日は帰るわよ後で説明するわ」
「あい」
膝枕から名残惜しそうに頭をどけてカナメについていくハル。
出て行った後俺もその場を後にして記入した用紙を受付嬢に渡すと、胸元にあった鉄のプレートの身分証に魔法で新しく【冒険者ギルド ランク1】が付け加えられた。
ハルと一緒に寝泊りして冒険者をやる。少しこの異世界でも楽しめそうだ。胸も大きいし……っと宿屋に向かう帰り道はスキップの様に軽い足取りだ。
ハルと言う美少女の事に浮かれていたら宿屋前でシンシアの事を思い出し、この後彼女はどうすんだ? と頭を抱えてしまった。




