出会う
「おはよう、キョウ」
「おう、原。おはよーさん」
朝、登校して席につくと男子学生がやってきた。原・晶。小学校の頃からの友人で腐れ縁だ。
「昨日のクエスト最悪だったなー」
「あぁ、ダークボスエネミーと原生種ボスエネミーの同時出現で、尚且つ採取エマージェンシートライアルのトリプルパンチとかマジ無かったな」
昨日の夜、去年スタートしたMMORPGの話だ。原が先にやっていて、俺はその紹介で始めたクチだ。最も今では同じレベルで一緒にパーティー組んでやるほどハマっているが。
「結局、採取ターゲットはボスの居るエリアに纏まってて壊されちまったしなー」
「まぁ、仕方ないさ。あの部屋には5人しか居なかったんだ。あと7人居れば……」
マルチパーティエリアの上限が12人。その内居たのは俺と原を含めて5人だけ。そりゃ集めるのは難しいわな。
「まぁそれでも3時間篭って8万の経験値は美味いな。死にかけたけど」
あれほど稼げるエリアはそうそう無いだろう。
そんな話で10分程盛り上がった所でチャイムが鳴る。ホームルームの時間だ。
「はぁ、そういや一限目は化学だったか……」
宿題のプリント、半分ほどしか埋めて無かったなぁ……。原に見せてもらうの忘れてた。
幸いにも化学の時間では宿題のプリントの回収はされなかった。先生が忘れていたのだろうか。
その後は特に何事も無く時が過ぎ、五限目の体育の時間となった。
男子はグラウンドでバスケ。女子は体育館で体操らしい。
まだ真夏ではないとはいえ、太陽の下での運動は疲れる。最も、陸上ではないのであまり動かなければいいのだが。
そんなことを考えていると、視界の端に気になる何かが映った。
「……?」
どこかで見たような……それが何か思い出せないが、漠然とそんな気がした。
ちょうどトイレのある方向だ。ちょっと見に行くぐらいは出来るが……。
「げるぶるふっ!?」
ぼーっとしていたからか、パスを回されたのに気付かず顔面で受けてしまう。
「おい大丈夫か?」
近くに居た生徒が声を掛ける。起き上がると鼻血が止まらなかった。
「あ、やべ……ちょ、保健室行ってくる」
タイムを掛けて保健室へ。体育教師からはぼーっとするなと怒られてしまった。
保健室に着き養護教諭に手当をされあっという間に保健室から放り出される俺。怪我人なのに優しくされなかったでござる。
時計を見るとあと10分でチャイムが鳴る。このまま戻ってもすぐ教室に引き返す事になるので、適当にブラつくことにした。
「あ、そういや……」
鼻血を出す前に何かを見かけた場所に差し掛かる。この先はトイレがあるだけで何もない筈だが……。
「ま、トイレ行ってたっていう言い訳にもなるか」
誰に言うとも無くトイレに向かう。右に行けば女子トイレ。左に行けば男子トイレだ。
いやいやいや、女子トイレとか選択肢に無いから。
そう思いつつ女子トイレの方を見ると、出てきた人と目が合ってしまった。
「え?」
「……?」
そこに居たのは生徒でも教師でも掃除のおばちゃんでも無く、昨日隣に引っ越してきたカレードとかいう子だった。
「あ、や、やぁ……?」
「……」
軽く手を上げ挨拶をしてみる。両鼻にティッシュを詰めている為大変締まらない。だが仕方ない。抜くともっと閉まらなくなる。
「えっと……ここの、生徒だった……?」
そんな訳ねーだろ、と自分でツッコミつつ、カレードの姿を見る。紺のワンピースに肩まである水色のつばの広い帽子をしている。どう見たって来客です本当にありがとうございます。
「………血」
「え?」
「……いえ、その内、分かるわ」
そう言うとカレードはスタスタと校門へと歩いて行く。マジで来客っぽい。
「てゆーか……あの子何歳だ?」
見た目で言えば俺と同じか少し下。少なくとも学生と思しき年齢にあるはずだ。
「…………」
もしかして、転校生として近々来るのだろうか?