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第6話【別れと旅立ち】

屋敷を出ようとした僕とレイアだが、その直前に母に止められてしまった。


「今から出て行くつもりなの?今日はもう遅いわ。明日の朝に出なさい」


と、そう言われてしまった。僕はまだしも、レイアはおそらく普通の人間だ。疲れもあるだろう。夜は、夜行性の強力な魔物も増える時間、危険がいっぱいだ。


そう考えた僕は締まらないながらも、僕は母の言葉に甘え、結局翌朝までは屋敷で過ごすことになった。


その際、最後にと母と一緒にベッドに入ったが、まあ、特筆することは無いからカットする。強いて言うなら、改めて泣いてしまったことだろうか。前世からそうだったが、どうも僕は涙腺が緩いらしい。



二度ある事は三度あるとはよく言ったものだ。


翌朝、母が眠りこけてる間に抜け出して屋敷を出ようとしたら、玄関で父に呼び止められた。


堅い顔で父から渡されたのは、10万リンの現金。この世界の人間が、質素に暮らせば二月は生きられる程度のお金だ(レイア談)。


ここ数年で、彼の寂しさと比例するように、カースス家が徐々に廃れてきているらしい。これしか渡せなくてすまないと謝ってきた。


ちなみに、母から貰った魔結晶は昔の定規で測れば、10年は暮らせるような代物である。今僕が着ている猫耳パーカーと同程度、いや、それ以上のものだ。ここに金づるがいますよ、父よ。


尤も、両方とも売る気は無いので、資金の足しにはならない。だからお金そのままというのは、地味ながらもありがたい。家から持ち出したものを売っても、一月生きられるかどうかわからない程度にしかならなそうだったし。


最後に礼を言うと、僕らはついに屋敷を出た。その際、改めて父に釘を刺しておく。むしろ未練が残ったような感じだが、まあ、一生戻ってこないというわけでも無いだろう。


次に会うときは、2人が幸せに笑っていることを祈っておこう。


もう、この国に用はない。僕ら2人は、足早に首都を抜け出す為に歩き出した。



首都を囲う高く大きい石壁は、基本的に魔物を中に入れない為の物だ。魔物とは、この世界に住む原生生物の中で、魔力の影響を強く受けた生物だ。


魔力は、魔法、異能、魔術を発動するだけの物ではない。自らの身体に巡らせれば、身体能力の補助と強化をしてくれるし、魔力を直接放ち、物理的な攻撃を生み出すことも出来る。尤も現実に直接介入できる程の魔力が必要になってくるので、脅威になる程の魔力は、人型だと僕や魔王などの規格外にしか使えないが。


因みに、ファンタジーの代名詞とも呼べる(ドラゴン)のブレスは、先述した魔力そのものを圧縮したものだ。


そんな魔物は、普通の人間ではまず太刀打ちできない。ただでさえ人間よりも身体能力の高い獣が、魔力で更に強化されるのだ。そしてそれらを民間の依頼などを通して退治したりするのが、基本的な冒険者の役目である。


また、魔力量によっても寿命というのは変化する。老化が魔力によってせき止められるのだ。だから、素の魔力が人間よりも多いエルフや魔族は、全体的に長寿だ。種族そのものの特性もあるだろうが。


閑話休題。


そんな石壁の出入口の門番さんに、レイアがギルドカードを見せると、すんなりと門を開けてくれた。


会釈をして通り抜け、そのまま歩みを進めて暫し、やがて門から大分離れたところで、レイアは立ち止まった。


「では、本当に一人でよろしいのですね?」


何度目だろうレイアの確認に、しっかりと頷くと、彼女はため息を吐いた。


「本来なら従う事はあり得ないのですが…何故ですかね、お嬢様なら全く問題無いような、そんな気がします」


心配かけて本当に申し訳ない。


「では、ここから北に向かうことをお勧めします。北にはニブルムという国があります。その国の首都のギルドであれば私のことを知っているはずなので、最もスムーズに便宜を図っていただけるでしょう」


指を差しながらレイアは言う。そういうことなら、まずはそこに向かうとしよう。


「わかった、レイアは?」


「戻りたくありませんので、私は西に向かう予定です。特に目的があるわけではありませんので、腰を落ち着ける場所があれば西にとどまる事になるでしょう。追いかけられたくないので、この事はニブルムの方々には黙っていてくださいね?」


ということは、彼女がギルドマスターをやっていたのはやはり彼女が推めたニブルムなのだろう。了承して頷いてみせる。恩を仇で返すような真似はしないつもりだ。


「ん。今までありがとう、レイア」


「いえ、それが私の仕事でしたので。それに…お嬢様といると、退屈しなくて楽しかったです」


そう言ってもらえると嬉しい。……なんか少し馬鹿にされた気がしたのは、気のせいだよね、うん。


「じゃあ、また」


「ええ、また会いましょう、ネラ」


恋しくなった僕は、小さい身体でレイアを抱き締めた。12年間。母のようであり姉のようであったレイア。彼女の温かさをしっかりと噛み締めて。


1分か、それ以上か。少しだけ漏れた涙がようやく引っ込んだ所で、レイアから身体を離した。


「きっと、返すから」


いつになるかは判らない。でもきっと、今までの恩、返してみせる。


「ええ、待っています」


頷いた僕は、勢いよく後ろを向いた。これ以上、話す必要は無い。ずっととどまっているわけにもいかない。別れを惜しむ身体に鞭を打った。


それじゃあ、向かうとしよう。北の国、ニブルムへ。


魔力を全開にして身体の補強に回していく。元より強く変質させた身体が、膨大な魔力によって更に強化される。


多分、トラックに時速80キロで突っ込まれても抑えられるぐらいには頑丈になり強くなっているだろう。


ぐっと腰を落とした僕は、地面を勢いよく蹴り飛ばし、弾丸もかくやという速度で空を跳んだ。


身体が軽いせいか、前世よりも高く跳んでいる気がする。後ろ……レイアが気になったがもう、振り返らない。


さあ、ここからだ。ようやく、僕の物語が始まるんだ。


目的は、前世の約束…魔王を探すこと。そこから先は、魔王と決めることにしよう。


差し当たって、今すべきことは……



「うまい着地方法、無いかな…」


前世と同じ感覚で跳んでしまった結果、その頃よりも軽い僕の身体は途中からバランスを崩し、物凄い勢いで身体が回転していた。


あ、ああ……


うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!


心の中で絶叫しながら、回転してる内に本道から外れたらしい、全く勢いを殺せずに森の中に突っ込んでいった。




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