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第3話【不思議なお嬢様】

学校の試験が始まるというのに、何をしているんでしょうね、私は。

こういう時ばかり筆が進む。あははは


時々将来を考えて、このままだと留年とかしちゃうんじゃねお先真っ暗じゃねと思って、ふとした時に死にたくなりますよね?私はなります。

自分が専属で受け持っているお嬢様は、非常に不思議な人だ、と。緋色の髪を一本に括った女性――レイアは、その仕えるお嬢様を街中を探しながら、考える。



お嬢様――ネラが産まれる数年前から、ちょっとした理由でギルドマスターを辞めた彼女は、異能を持つことでこの国では知名度がほぼ無いのを利用して逃げ込んだ。


少しばかり静かに過ごしたかったこともあり、実名を隠し、戦闘から離れた侍女という仕事に着いた。


それから2年程。ネラが産まれた。彼女は、空色の髪を持つ母と、橙色の髪を持つ父から産まれたはずだというのに、黒の髪を持って産まれた。


それから、カースス夫妻は喧嘩になった。それも仕方の無いことだろう。髪色は遺伝する。父であるパドレは妻が浮気をしていたと攻め、母であるメイルはただ、浮気を否定して子供を守った。


母は強かった。水の魔法の達人とも言われたメイルは、パドレの癇癪による暴力から、子供と自分を数ヶ月に渡って防ぎ切る。


やがてパドレは諦めたのか、産まれた子供に構うことをやめた。子供が泣き叫ぶことが少なかったことも、幸いしたのだろう。


それからすぐ、ネラの体は度々病に冒された。特に多かったのは、触れた手が焼ける程に熱い高熱だった。


数年。徐々に病に冒される事が少なくなり、高熱を出すこともなくなった。そしてその頃から、ネラの異常さは顔を出し始めていた。



ネラは、不思議な子供だった。まだ4歳だというのに、彼女の黒い瞳には、確かに知性の色があった。


話すことは苦手なのか、あまり言葉にすることは無い。しかし教えてもいないというのに危険な物を分かっており、全くと言って良い程に手がかからなかった。


6歳の頃には、もう大人の様な雰囲気を持っていた。此方の言うことは殆ど理解して、逆に捻くれた返答をもらうこともあった。ここら辺は逆に子供らしいとも言えるかもしれない。


7歳。5、6歳の時に必死になって文字を覚えた彼女は、屋敷にある書斎に篭って本の虫になった。ギルドの年齢制限の話をレイアに尋ねたのもこの時だ。


あの時の絶望した顔はよく覚えている。物静かで、いつも寝ぼけ眼で無表情な彼女が、極端に顔を崩したのを見たのはこの時が初めてだ。


思わず尋ねたレイアに、ネラは少し考えてから、彼女らしい少ない言葉で話した。


自分はこの国を出ていきたい、と。


この家から出ていきたい、ならわかる。この軟禁状態だ、親を嫌いになるのも、この家にいたくないのも理解できた。


しかし、国を出て行きたいとは、どういうことなのだろう?尋ねたが、ネラはその時、答えることは無かった。



レイアは、窓から外を見てまるで子供とは思えない雰囲気で黄昏ることがある。彼女の目には街や空が見えているはずだろうに、全く別の物を見ているようでもあった。


彼女が時々、泣いていたことをレイアは知っている。毎朝ネラの仕度を手伝う為、時折頬に涙の跡を見ることがある。顔を洗って隠しているつもりの様だが、レイアの目は誤魔化せない。


しかし家族や生活に対しての涙ではなさそうで、彼女の涙の意味はついぞさっぱり分からなかった。


「私、会いたい人がいるの」


それは気まぐれなネラの、気まぐれなセリフだった。誰かと尋ねると、言うか言わぬか迷うというよりは、どう言うかを考えるように暫し唸った。


「王子様、かな」


そんな曖昧な回答を、ネラは言った。彼女の言う「王子様」がこの国の皇太子ではなさそうだとレイアは考え、さらに深く尋ねる。


「ううん…女の子のもとめる、白馬の王子様、的な?」


あざとくわざとらしく小首を傾げて、非常に曖昧に答えた。それは自身の夫を探している、という風にも聞こえたが、恐らく違うだろうと、他の可能性を考えて。


「あ、でも女の子って可能性もあるのか…」


その小さな呟きで全く分からなくなった。



まあそんな感じのよく分からない不思議な娘だが、レイアははぐれはしたものの、あまり心配はしていない。彼女は時々アホの子だが、善悪の区別はあり、考える力もある。またあの慣れたように異能を操る所から、少なくともゴロツキに攫われる程弱くはないだろう。だから旅支度の買い物のついでに探していたのだ。


しかし正午を回った頃だ。旅支度は殆ど揃ってきていたので、今はネラを探す方を優先させていた。


「お、レイアちゃん、そんなにキョロキョロしてどうしたんだ?落し物か?」


声がした方を見れば、屋台で肉を焼いている、髪が全く生えてないまっさらな頭を光らせる男がいる。


「ストールさん、こんにちは。落し物…といえば落し物ですね。黒髪で帽子被った女の子見ませんでしたか?」


「落し物扱いでいいのかよ。多分あの娘がお前の言っていた不思議なお嬢様だろう?」


ぞんざいだなぁと肩を竦めるストールに、レイアは目を剥いた。


「あの娘、と言いましたね?ということは見たんですよね、彼女は何処に?」


「焦るな焦るな、怖いから」


「…失礼」


レイアは少し熱くなっていたようです、と浅くなっていた呼吸を整える。心配していない、と思ったが、いざ聞くとこれだ。自分は思っていたより彼女が心配らしい。


「あんたの言ってたお嬢様ってのは、さっき言った黒髪に帽子を被って、子供らしくない雰囲気に寝ぼけた様な目をしたまま表情のない娘の事だよな?」


「ええ、まさにその娘ですね。というかよく見てますね、もしや貴方が…」


「違ぇよ邪推すんな。ちよっと危なっかしい知り合いの爺さんが歩いていてな、もしもの時は助けようと思ってたんだが、そこにそのお嬢様が入ってきて爺さんを助けたんだ」


「知人のお爺様、ですか」


「ああ、多分鉱石でも運んでたんだろ。爺さんが持つには重そうで大きな荷物をあの娘が軽々と持ってな。そのまま2人で行っちまった。色々と不思議な娘だったからよく覚えているし見てた」


なるほど。とレイアは頷く。それなら変な事件に巻き込まれたわけではなさそうだ、とレイアは小さく安堵した。


「それで、そのお爺様と知人だと言いましたね?今、彼女たちが居場所に見当はつきますか?」


「まあな。多分あれは鉱石だろうと言ったろ?あいつの家は代々鍛冶屋を営んでいてな、その素材を運んでいたんだろう。それをお嬢様に手伝ってもらい素直に運んだとすれば店に居るはずだ。場所は―――」



☆☆☆



「鍛冶屋さん、ですか」


屋台の男に教えて貰った鍛冶屋に着いたレイアは、扉の横の『異能者厳禁』という貼り紙を横目で確認しながら中に入る。


「ごめんください」


「〜〜〜〜〜〜〜!!!」


入ると同時に、声なき絶叫がレイアの耳に届いた。レイアは緊急事態かとスッと目を細める。


「どうか致しましたかっ?」


返事なんて待って居られないとばかりに声の聞こえた店の奥へと足を踏み入れる。


「あ、お姉ちゃん」


そこで目にした状況に、思わず目が点になって固まった。



良い歳をした男が、顔全てを真っ赤に染めて壁に追い詰められて尻餅を付いている。


その目の前で、レイアがいつも見る寝ぼけ眼の無表情に、しかし少しばかりの苦笑を乗せた、黒髪黒目の少女ネラ。頬を指先で掻きながら、彼女はレイアを見ている。


その奥には妙齢の男性が、真っ赤な顔の男とネラをやれやれといった表情でみつめていた。


「これは一体、どういうことなのでしょうか」


レイアは首を傾げて、原因となったであろうネラに視線を向ける。


「…からかった結果」


言葉少なに、少し気まずそうに答えたネラ。彼女はいつも、簡潔に重要な部分だけしか答えない。


「女の子が苦手みたいだったから。あと、私が可愛いのかどうかを確かめるために、元気になるのか試してみた」


しかし流石に伝わらないと思ったのか、私が深く尋ねる前に、追加でそう答えた。


「女の子が苦手らしい彼をからかったことはわかりました。理由は?」


「かわいかったから」


ちょっとよく分からない。レイア以外との、また初めての異性ということで調子に乗ってしまったのだろうか。


「それで、元気か確かめた、とは?」


「…言っていいの?」


躊躇う彼女に、よく分からないが答えてくれないと話にならないので肯定する。


「私が可愛い…少なくとも、不細工では無いと見分ける方法」


「おじょ……ネラは充分に可愛らしいですよ?」


本心からの台詞に、ネラはビシッ!と無表情に似合わないユニークな動きで私に指先を向けた。


「それがお世辞って可能性があった。だから、身体に聞いて見た。……これでいい?」


「……ええ、まあ」


流石にそこまで言われたら理解できる。つまり、そういうことなのだろう。しかし、ネラは一体どこでそんな事を覚えたのだろう。不思議に思いながら、レイアは哀れな男性に一瞬視線を向けた。ネラの行動を謝ろうと、彼女は彼――シャルに歩みを進めて、


「あ、ダメ」


「はい?」


「新しい、女……っ!? ぐふ………………………………」


近づいてきたレイアを見たシャルは、許容限界を突破してついに白目を剥いた。


「……耐性なさ過ぎ」


やれやれ、とネラは肩を竦めた。


ネラのせいでここまで追い詰められたのだろう、と批難するレイアだが、女性を見ただけで気を失ってしまった彼に対しては、同じ思いを持ってしまった。


「存外に、アグレッシブじゃのう、お嬢ちゃんは」


「ごめん、迷惑かけた」


二人を見ていた妙齢の男性が、話に入ってきた。ネラが素直に謝るが、彼はのんびりと笑った。


「いやいや、やり過ぎ感は否めないが、女性に弱過ぎるシャルには良い薬じゃろうて。それで、お主はどなたかの?」


「ああ、申し遅れました。そして勝手に入ってきて申し訳ありません。私はレイア。そこにいるネラの…」


「お姉ちゃん」


「です」



互いに挨拶が終わり、そろそろ帰ろうかという所で、気絶から立ち直り落ち着いたシャルがバタバタと音を立ててお店に入り、それからすぐに戻ってきた。


「えーっと、ネラさん」


「私の方が年下。呼び捨てで良い」


あと目を合わせよう?相変わらずわたわたと焦るシャルを見て、寝ぼけ眼のまま口元だけ弧に歪めてにやにやと言うネラ。すぐに隣のレイアに頭を叩かれた。


「あう」


「すみません、シャルールさん。うちの妹がご迷惑を…」


「い、いえ!気にしないで下さい!自分が苦手なのが悪いんですし、これを機に治せるよう頑張りたいと思います」


「がんばれ、シャル」


生真面目な事を言うシャルに、ネラは手を伸ばして、頭を優しく撫でる。顔を赤くして、きょろきょろと目を回しながらもしかし彼は、ネラの名を呼んだ。


「ネラ、さん」


「ん」


「爺さんから聞きました。ここまであの鉱石を運ぶのを手伝って戴けたと」


「ん」


「あれは俺が使う物を爺さんに頼んでいたんです。あれ程の重さであることを知っていながら、台車も持たせずにお願いして、危うく怪我をさせる所でした。それも含めて、ありがとうございます」


それで、ですね、と。わたわたとぎこちなく、シャルは手に持っていたナイフカバーからナイフを取り出して差し出した。


「確か、旅に出るという話をしていましたね。これはお礼と、旅立ちの手向けです。どうか受け取ってください。それほど高価なものじゃありませんが…」


律儀なシャルを見たネラは、ナイフを差し出す手を両手でぎゅっと握り締めた。勿論、ナイフは鞘に入っているので安全だ。


「ありがと、シャル。大事に使うね」


「は、はいっ」


慌てながら頷くシャルと、一瞬だけ、目が合った気がした。



レイアはそんな僅かに成長したシャルと子供らしくないネラを見て、やはり彼女は不思議だと、何度目か分からない感想を抱いた。

他者視点って難しい…

彼女が誰々をどう思っているのか、どういう性格の人がどう動くのか。小説を書いてると、そういうのが非常に気になります。私の場合は全くそういうのが分からずに書いているのでこういう残念な事になります。


またそれらのせいで私には才能が無いんだもういやだー!って投げ出すんですよね。でもわかってても書きたくなる時がある。不思議。


次回はネラ視点に戻ります。こっちの方が私を投影してる部分が多いのでいくらか気が楽です

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