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第2話【はじめてのおかいもの】

「騒がしい…」


屋敷から2人でこそこそと抜け出し、13年間で初めて、屋敷の外に足を踏み入れた僕が、最初に感じた事。


その呟きに、レイアは呆れたように僕を見下ろす。


「そこは満面の笑みを浮かべて喜ぶ所だと思うのは私だけですか。初めての外ですよ?」


「一応町の様子は窓から覗けるから、外自体はどんな所かは知っているよ」


「ですが上から見る町の景色と、その景色に自分が混ざるというのはまた別だと思いますが」


それはもう年相応じゃない精神年齢と経験のせいだ、仕方ない。


「お姉ちゃん、旅支度は何をするの?」


「簡易テントや寝袋と保存食、あとは治癒促進剤(ポーション)や解毒薬などの薬、解体用のナイフの購入でしょうか」


ふむふむ。


「お嬢様の場合防具はいらないにしても、武器は」


「大丈夫。私の戦術は素手戦闘(ステゴロ)だから」


「なんとも似合わない…」


うん、知ってる。小さな少女が素手で魔物を倒す所を想像するのは非常に難しい。


「では、ナイフくらいですかね、必要なのは」


「ナイフ?」


「ええ、ロープを切ることもあれば、獣の皮を剥いたりすることや、木に目印をつけるのにも使います。武器が必要なくとも刃物は一本持っておくべきですよ」


「ほー」


なるほど、確かにそれもそうだ。言われて思い返して見れば、ナイフみたいな刃物があればもっと楽にこなせた筈の作業の数々があった。大抵怪力に任せたゴリ押しでどうとでもなったから余り気にしてはいなかったけれど。



広い城下町の商店街を歩き回りながら旅の荷物を買い揃えている途中。ふと目についたものがあった。


何の変哲もない紅いマフラーだ。しかしそれは、勇者時代に僕にとって重要な役目を持っていた。


翼の持たない人間に、翼を持たせる。背中に垂らした二本のマフラーの尻尾を変質させ、翼にして上空での戦闘を可能にした。ついでに中距離の攻撃、捕縛に役立てたこともある。絶対に手放せない装備だった。


長いこと気を取られていた事にふと気付き、小さく溜息を吐いた。ふとしたことで前世を思い出してしまう。それほど良い人生じゃなかったのにも関わらず。


「第二の人生か…」


どうせなら、違う世界に転生したかったなぁなんて思って。それを最後に気持ちを切り替えて周りを見渡す。


「…ありゃ」


随分と長いこと考えに耽ってたらしい。レイアとはぐれてしまった。本当に子供みたいだ。精神が身体に引きずられているのだろうか。


どうせだから子供みたいに、彷徨ってみようと思い立った僕は、ここでレイアを待つ方が正しいと知っていて尚、動くことにした。心配かけてごめんね、レイア。



☆ ☆ ☆



お金が無いので露店を外から見るだけにとどめて、僕は彼方此方を当てもなくフラフラと彷徨う。


あれから数百年が経過しているこの街は、随分と代わり映えしている。見たこともない道具や、初めて見る食べ物。なんとなく、現代の道具に近い物が増えてきた気がする。


また、昔と比べて魔具も増えてきた。魔具とは、今僕の持つ空間拡張の術式が組み込まれた鞄と同じく、魔術の術式が組まれた道具の事。この世界における冷蔵庫や、暖房器具にも使われている。



この世界では、魔法と魔術は別物だ。


魔法は、この世界に見えないながらも存在する〝精霊〟に魔力を与え、そのお礼として精霊が要望通りに、意図的に自然現象を操る術だ。


精霊は土地に存在する自然に宿る。だから砂や石が多い所では土の精霊が、草木が多いなら木の精霊が、海や泉があれば水の精霊が、火を点ければ火の精霊が存在し、その場に存在しない精霊に魔力を与えることは勿論不可能だ。尤も、大抵の場所には数は少なくとも精霊は存在する。しかし勿論、数が少なければ行える奇跡も小さくなる。


また、精霊にも魔力の好き嫌いがあり、それが所謂、魔法の〝適性〟だ。


お礼として行われる奇跡は、詠唱によって発動する。具体的に、また、火力を上げようとすれば、比例して与える魔力は大きくなり、詠唱は長くなる。


そして、精霊の力を借りずに、世界にありえない現象を起こす術を魔術と呼ぶ。


これは術式と呼ばれる、〝絵〟や〝文字〟に魔力を流すことで、発動させることが出来る。結界を張ったり、魔術や魔法を維持する魔術等、魔法には出来ないことを行うことも出来るが、世界に干渉する為に多くの魔力を必要とする。


また術式を作成するには複雑な絵と文字を理解し書き出す必要があり、それを出来る者はそれほど多くない。ゆえに作るのも購入するのも難しく、それをメインに戦う者は非常に少ない。



閑話休題。


どれだけ経っただろうか、太陽が真上に陣取り、世界から水分を絞っている頃。お腹が小さくくるると鳴った。


「お腹、空いた」


そろそろレイアと合流したいと考えながら辺りを見回してみると、大きな荷物を抱えながらフラフラと危なかしい足取りで歩みを進めるおじいさんを発見した。


何気なく眺めていると、ついに大きくバランスを崩したおじいさん。僕はつい、そんなおじいさんを支えた。


いくらこの国が嫌いだと言っても、この国に住む平民に、罪は無い。彼を助ける理由があるわけではないが、見捨てる理由も無いのだ。まあちょっとしたお節介だ。どうせそう簡単にレイアと合流も出来そうに無いし。


「…大丈夫?」


「おお、お嬢ちゃん。すまんのう」


よっこいせ、とおじいさんは体勢を立て直す。僕はおじいさんの持つ荷物を抱えた。重ッ!何が入ってるんだろうか。


「私が持つ。どこに運べば良いの?」


そんな荷物を持ちながら平然とする僕に、目を見開くおじいさんに、首を傾げて尋ねる。おじいさんは感心した様に頷いた。


「見た目に寄らず、力持ちじゃのう」


「それだけが、取り柄だから」


そうかそうか、とおじいさんは微笑みながら、僕に礼をすると案内をし始めた。



たわいの無い話をしながら(基本的に聞き手で相槌を打っていただけ)、数十分を歩み着いた先は、お店であった。


それも、暑苦しい感じのお店。鋼や鉱石を鍛え、冒険者の戦闘を手助けする武器や防具を作り、売る。所謂、鍛冶屋さん。中から、カーン、カーン、と鉄を打つ様な音が響いて鼓膜を揺らした。


「おじいさんが鍛冶屋さん?」


「昔は、のう。今はもう息子に譲っておるよ。ほれ、音が聞こえるじゃう?」


「ん」


つまり、これは息子さんがやっているのか。外からお店を見渡すと、扉の横に貼り紙があった。



『異能者厳禁』



異能者。つまり、僕やレイア、魔王の様に、精霊を介さず、術式を使わずに、奇跡を起こす者。


魔王の属していた種族である「魔族」の殆どが持っている、そして、魔族以外にも数少ないながらも持っている事のある、特殊能力。魔法とも魔術とも異なり、何にも働きかけずに起こす力。それが異能。


最大の特徴は、魔法や魔術と違い、予備動作が限りなく少ない事だ。魔法の様に詠唱することも、魔術の様に術式を作る必要も無い。ただその異能をイメージして、魔力を放つだけで良い。


欠点を上げるというのであれば、僕は闇の異能、魔王が光の異能というように、魔法や魔術と違って汎用性が無く、限定化された物であるということか。


そしてこの国では、人間の天敵である魔族の大半が持つ力という事で、異能はとことんまでに忌避されている。そういう教えの下、育てられて来たのだろう。


だから、別におじいさんが悪いわけでは無い。分かっている。それでもやはり、


「…納得、出来ない」


おじいさんは僕が見ているそれに気付いたのか、おお、と声を上げた。


「異能者は怖いからのう、魔族と人のハーフだとも言う。魔法や魔術と違って、発動も予知が難しい。お嬢ちゃんも気を付けるんじゃぞ」


「…ん」


そう、教えられているのだろう。悔しいような、悲しいような、ムズムズした気持ちを抑えて、小さく、僕は頷いた。



あの貼り紙を見たせいで少し居心地が悪く感じながら、お礼にとお店の奥に案内され、お茶と茶菓子を出された。


ちびちびとつまんでいると、お店に続く扉が大きな音を立てて開かれた。


「じいさん!鉱石届いたのか!?……うん?」


出てきたのは、18歳前後だろう青年。赤みがかった茶色の髪を、後ろで纏めている。妙にツナギが似合う男。彼は僕を見て、首を横に倒した。


「誰だ?」


「…ネラ」


答えた僕の顔をじっと見て。ふと、唐突に顔を真っ赤にさせてばたん!と強く尻餅をついた。


「……女!?」


「…? うん」


「う、うわわわわ、じ、じいさん!」


何を焦っているのか、顔を真っ赤にさせた青年は、尻餅をついたまま視線きょろきょろとさせながら、おじいさんを呼ぶ。最初の一回以外、僕とはどうしても目を合わせようとはしない。


騒がしいことに気付いたのか、奥からおじいさんが顔を出した。


「騒がしいのう、シャルー。お主はそろそろ女性に慣れるべきじゃ」


「そ、そんなこと言われても!」


「騒がしくてすまんな、こいつがワシの息子のシャルールだ。シャルかシャルーと呼んでやってくれ」


女性と言われるような年齢では無いと思うが、青年──シャルは僕を見るとあわあわと顔を赤くさせ目を逸らす。


…かわいい。


「…シャル」


「は、はい!?」


声上ずってる上ずってる。笑いそうになる顔を抑えて、尻餅をつく彼にゆっくりと近付いた。あ、こら、逃げるな。


尻餅をついたまま、ゆっくりと近づく僕から離れようと後退り、ついに壁まで追い詰められ逃げ場が無くなる彼に、更に詰め寄って彼の目の前でしゃがみ込んだ。


「シャル」


「な、なななんでしょう!?」


見つめながら声をかけると、見るからにひどく狼狽し、どうにか離れようと壁に頭を擦り付けながら返事をするシャル。


どうやら触りたくもないらしい。別に元々男だし、触られたいわけでは無いが、少し悲しい。


日本人の感性ではこの身体は非常に可愛らしいと思うのだが、実はこっちの感性だと可愛くないのかもしれない。


不安になった僕は、思わず目の前の男に聞いてしまう。


「私って、可愛い?」


あ、これ不細工の言う台詞じゃね?と思ったが、後の祭り。あと正直に答える可能性があるわけではないというのに。


「は、はい!勿論です!」


「…本当に?正直でいいよ。」


お世辞、とは見えないが、僕に人の嘘を見抜く様な力は無いので問いただすしかない。ああ、いや、もう一つあった。ちょっと下品かもしれなけど、手っ取り早いし確実性がある。


僕は、ぶんぶんと頷いている彼の頬に手を伸ばした。


「ッ!?!?」


逃げようとするシャルの頬を両の手でがっしりと捉える。


18(目算)とは思えない、髭も生えていない、すべすべの肌。


そして、顔を目と鼻の先まで近付けた。必死にそらそうとするシャルの瞳を覗き込む。綺麗に澄んだ朱の瞳。はっはっと、浅い呼吸が聞こえる。


ちょっと楽しくなってきた。


固まっているシャルの頬を、左手で撫でながら、右手はゆっくりとねっとりと、滑らせるように下ろしていく。



頬、顎、うなじ、喉仏、鎖骨───



「…ん、元気。よかった」


とりあえず、不細工では無い様だ。目的は達成したので、近付けていた顔と、触れていた手を離した。


「……は、え……〜〜〜ッ!!」


何を元気だと言ったのか。少しばかり固まっていたシャルは、ハッとした顔になり、今まで以上に顔を赤く…紅く染めて声にならない絶叫を上げた。


うん。……やりすぎたかな。



遅くなりましたはっぴーにゅーにゃぁ!

あ、もう古いですねそうですか。

ちょっとノってきました。多分すぐ詰まるけど。今年も頑張っていきましょう!

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