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第27話【中継地点と困りごと】

次の話は時間がかからないとは何だったのか。

申し訳ありません……。


アホみたいに時間がかかっていますが、今のところエタるつもりは無いのでご安心ください(数ヶ月も更新が無いのはエタってるのと変わらないとか言わない。


一応物語の全容は覚えているけれど、いくつか単語や既にした解説なんかを忘れていたりするので急に謎の単語が出てくるかもしれません。一応気付いたら直していくつもりです。


宿屋から村に出る直前に猫耳フードを被る描写を追加。(その存在をすっかり忘れていたとかそんなことは)


単語ミスの修正。日本語、もっと頑張りましょう。日常生活で使っていた単語が実は間違いとかよくありますが、小説だと割と致命的ですよね…

皮膚が焼ける程の熱風が迸る。(ラグズ)保護(アルジズ)のルーンによってその熱風から皆を守りながら、異形が燃え尽きるのを眺めていた。


やがて探知で異形の粕も残っていない事を綿密に確認して、僕はソウェイルの発動を止める。太陽は徐々に収縮していき、最終的に小さな点となってふっとその姿を消した。


それから、ゆっくりと周囲の気温が下がっていく。ニブルム首都よりは暖かいものの、この辺りは本来ならまだ寒いと言えるはずの場所。それにも関わらず太陽によって陽炎すら見えた気温も、少しずつ収まっていった。


「さて。戻ろう」


「待って、ちょっと待って」


僕の後ろで呆然としてるシーナと筋肉オバケに呼びかけると、袖を引っ張りシーナが口をパクパクとさせた。


「何、今の…魔術?ほんとに?」


「ほんとに」


───さて、あまり躊躇わずに使ったが、正直、僕はこの規模の魔法を見たことは殆ど無い。それこそかつての魔王の魔法なら近いことはできるだろうが


「極大魔法に近い規模の魔術じゃと?増幅魔術の利用ならまだしも、単一の魔術、それも一つの魔術石でなど」


極大魔法、というのはその名の通り。明確な基準があるわけでは無いが、小規模の村であれば消せる程度の威力があればその評価を与えられる魔法だ。単独で使える者はあまり居ないらしい。


増幅魔術もその名のままで、魔法の規模を増幅させる効果を持った魔術である。増幅範囲は術式の大きさに依存するため、砦や防壁などの施設に設置されてあるのが大半だ。少なくとも個人で使えるような代物では無い。


わかりやすく言おう。つまるところの反則(チート)である。


ただ簡単な文字を描き、それに有り余る魔力を載せるだけで起動する。この世界における数千年の魔法研究の歴史を踏み潰すような、そんな出鱈目。


「これが私が使えるらしいルーンの一端。けれど───出来るだけ秘密で、お願い」


反則級の凄まじい力だ。その為、利用できる以上は躊躇いなく利用するだろう。けれど。


これがいつまで使えるかは分からない。僕が死ぬその時まで使えるのかもしれないし、逆に今に消えてもおかしくはない。


この力は、かつて勇者としての自分に与えられた力だ。魔力もそうだが、僕を勇者たらしめていたのは全て与えられたものだった。


そして、勇者としての役割は終わった。この生はネラという女の子の生であり、僕という存在はイレギュラーだ。


そのイレギュラーがいつまで利用できるかというのは、それこそ神のみぞ知るというもので。あまり頼りや期待されても困るのだ。




☆☆☆



ひとまず納得してもらうと、僕らは竜車に乗り込み再び目的地に向けて走り出した。


ルーン魔術に関して深く聞きたそうにしていたシーナに、秘密を守るのであればといくつか質問に答えながら、話は魔術から異形の話へと移り変わっていく。


誰も見たことのない、異形の怪物。それこそ年季のある筋肉オバケすら見たことがない。科学技術が発展した世界の知識を持つ僕からしても、この世のものとは思えない、非効率的な身体をしたナニカ。その存在の情報はさっぱり集まらず、竜車内に溢れた溜息は、流れる風景と共に置いていかれた。


それ以降は特に何かに襲われたり異常事態が起きることもなく、日が沈み始めた頃、竜車は小さな村に辿り着いた。今日はどうやらここで休むらしい。


「場合によっては野宿も考えるがな。幸い、目的地までの道のりには多くの中継地点がある。野宿をすることは無いじゃろう」


とは筋肉オバケからの言葉だった。


小さな宿に部屋を借りる。大部屋に雑魚寝だろうと思っていたのだが、気前の良い筋肉オバケが人数分の部屋を借りてくれた。置いておく荷物も無い為、部屋と鍵の確認をした僕は一刻ほど休憩した後に外に出るべく部屋を後にした。


「ネラちゃん、何処に行くの?」


「適当に散歩をしに」


「私も一緒に行く!」


すぐ隣の部屋にとっていたシーナが顔を出す。断る理由も無いので頷くと、嬉しそうに付いてきた。僕は宿屋から外に出る前に猫耳のついたフードを深く被る。


「なにそれ、猫耳?すっごくかわいい!」


「家族同然の人から貰ったの。触ってみる?気持ちいいよ」


と言った時にはもうシーナは僕の頭を胸元にぎゅっと抱きしめて、猫耳を触られていた。布を跨いで届く柔らかく暖かい感触に幸せを感じながら、ぼくはされるがままになった。彼女も幸せそうな声を出してるので良しとしよう。


「クセになりそう!」


わかる。僕はもうなっていた。




「作物が荒らされてる?」


「えぇ、そうなの。この時期だとそこまで珍しい事ではないのだけれど、今年はその被害が大きくてねえ。折角頑張って育てた我が子を顔も知らぬ子に持っていかれるのは悲しいわ」


そうしてシーナと村を回っていると、優しそうなおばあさんからそんな話を聞いた。おばあさんは頰に手を添えて、はぁと溜息を吐く。


「それはどこの家でも起こっているんですか?」


「えぇ、えぇ。そうなの。色んな家で起こってるわ。多分、近くの森から出て来てるから、デカラビだと思うんだけど」


デカラビとは大きなウサギの魔物だ。全長は100センチ近くあり、基本的には3.4匹の少数で徒党を組んでいるという。身体が大きいので真正面から戦えば子供どころか大人ですら割と危ないが、臆病なため、大きな音を出せば逃げていく性質を持つ。


「猟師さんは?」


「それが、運が悪いことに数日くらい離れてるのよねぇ」


この辺りは人に対して害を与える魔物は殆ど居ないらしく、猟師が離れても問題ないらしい。デカラビも大きな音を出せば良いだけなので、実際今の所けが人も居ないということだ。


「朝方と夕方ごろに出没するらしいわ。今日は幸いやられてないけれど、明日の朝はどうなっているか…」


困ったわ、と唸るおばあさんを見て、次にシーナの方を見る。シーナはあまり付き合いの無い僕から見ても目を使命感に輝かせていて。


「おばあちゃん、私達、明日には出て行っちゃう予定なんですけど、明日の朝だけでも私に任せてくれませんか?」


「え?でも、私達には冒険者様に払えるようなものはなにも…」


「いえ!明日の朝だけですし、ただのお節介なので何もいりませんよ。明日出てくるとも限りませんからね」


首を振って笑顔で言うシーナ。なるほどこれが優しさか。と僕は感心してしまう。本来は勇者であった僕がやるべき人助け。なのに僕はさっぱりそんなことは考えていなかった。


本当、自分は勇者なんて代物は荷が重すぎたな、なんて思いながら、話し込むシーナの手を握った。


「あ、ゴメンねネラちゃん。勝手な事をしちゃった。安心して、これを受けるのは私のパーティだから」


僕はいいけど彼らは巻き込むのか、と気の毒に思いながら、僕は首を振った。


「私も手伝う」


すると、シーナが目をぱちくりと瞬かせた。


「日が登らないウチから動く事になるけど、大丈夫?」


「問題無い」


僕がはっきりと頷くと、シーナはそっかと笑うとぎゅっと抱き締めてきた。


「じゃあ、手伝ってもらおうかな!二人っきりの夜のお仕事だよ!」


「リューとバルツは?」


「……休んでてもらおうかなぁ」


嬉しそうに言ったかと思えばつまらなそうに息を吐くシーナ。テンションの高低差が激しい娘であった。



☆☆☆



勇者とは何か。僕はかつて、勇者として喚ばれた此処で、辛い日常の中で何度も何度も考えた。


勇者。勇気ある者。自らを犠牲にして人を助ける者。世界を救う者。その意思と力を持つ者。


嗚呼、嗚呼───僕には、何一つ存在しない。強大な敵の前に立つ胆力も、自らを犠牲にする無謀さも、世界を救う意思も、人を1人すら救う力も。ただ一人のために動く事でさえ、僕には出来ない。


当然と言えば、当然だ。僕は前の世界でさえ、何も持っていなかった。何も持とうとしなかった。ただ優しい家族に守られていただけの、無為に時間を過ごしていたガキだったから。


この世界でどんなに揉まれても、それは変わらなかった。僕の本質はどこまでも自分本位で、自分勝手で、どうしようもなく勇者とは程遠く醜かった。


───だからこそ、僕にはこの変わらない黒を授けられたのだろう。


ルーンを描く。最も簡単なイサのルーン文字は、僕の意思を反映し魔術となり、美しい氷塊へと変化する。


ルーン魔術。この世界の物ではないはずの、異質な力。これを異能ではないと考えたのは、二つの理由がある。


まず一つ。僕には既に僕の本質から来る皮肉な異能を持っているという事。異能が二つあるなんて話は聞いたことはない。あり得ない、というつもりは無いがそこまで都合の良い事もないだろう。


そして、その異能との感覚的な差だ。人に寄るのかもしれないが、少なくとも僕の異能は僕の内から引っ張り出しているという感覚がある。けれど、ルーン魔術は内側ではなく、外側───世界に行使している(・・・・・・・・・)という感覚がある。


これは一般的な魔術を使った感覚に近く、それこそが魔術との関連性を疑った最大の理由でもある。


まだ魔術が使えることを確認した僕は、シーナに引っ張られている眠たげな二人の少年に目をやった。


「眠ぃ…」


「流石に辛いですね……」


「もー、泣き言言わないの、男の子でしょ!」


日の出すらまだな早い起床。終星が瞬く紅い空。僕らは宿屋の食堂に集まった。


「シーナ、お母さんみたい」


「ネラちゃんとなら夫婦になりたい!」


「そういう話ではない」


母らしさは一瞬で霧散した。

登場キャラクターが全体的にびっくりするほど消極的で地味に動かしづらいことに気付いたので、皆もう少し性格がアクティブになるかもしれません。なるといいな

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