第25話【ルーン魔術試験】
少しずつ、少しずつ。
遅筆、というよりは、行き当たりばったりで書いてるが故の発想と目的を見失って、この先の展開に困って更新が滞るのが大半。それを遅筆と言うのでは?(自問自答)
あと、他にもふと思い浮かんだネタがあって、新規小説が書きたくなったりして進まない。
この小説を読んで頂いている皆様には、本当に申し訳ないと思っています。そしてありがとうございます。
「……なあ、魔法使いとか魔術師ってのは、実は肉体派なのか?」
「そんなはずは無い……無いわよね?私だけじゃないわよね?」
そんな感じで殴り潰して終わった魔物の襲撃に、竜車から見ていた先輩冒険者が、ドン引きしてコメントを残す。
さて、キリエルはまだ魔法使いらしい魔法使いだったかな、とまだ会って数少ない魔法使いを思い出す。御者でワハハと大声上げて笑ってる筋肉オバケは僕等側の人間だ。
「そもそも、身体強化の魔法って高難易度の魔法よ?なんでCランクに留ってるの?」
身体強化の魔法はそれだけで難しく、戦闘に使えるような身体強化となるとそれだけでBランクの実力があるという。ティルダはその身体強化への才能が極端に無いようで、結果的に砲台役に特化することになったらしい。
「急いでランクを上げる理由もないし、パーティメンバーも居るからね。足並みも揃えたかったから」
「私のせいで足を引っ張ってることについては非常に申し訳なく思っています」
「まーまー、俺も似たようなもんだ。シーナがおかしいだけだ。あいつが気にしないって言ってんだから気にすんな」
リューが申し訳なさげに落とした肩を、バルツがばしばしと苦笑いしながら叩く。
「1人で出来ることには限界もあるしね。生き急ぐ事よりも安全性をとっただけのことだよ」
三人とも、名声には特に興味がないのだとシーナは言った。また珍しい。この世界、有名になる事がどれだけ名誉な事か。
「それよりも、ネラちゃん!さっきのアレは身体強化でいいんだよね?魔力が一切感じられなかったんだけど、どういうこと?それともアレが素の身体能力だったりするのかな?」
僕を抱きしめて見つめるシーナの瞳は、宝石のようにキラキラと輝いていた。近い。
「身体強化で合ってる。私の魔力は精霊や竜が苦手らしく、隠さないと竜が怯えて逃げてしまうから」
「なるほど、竜は人よりも魔力を感じる力が強いって話だから、精霊全般が嫌がる魔力だと、それを竜も感じ取ってしまうと……。ああ、なるほど。だから魔術師なのね。隠しているのは魔術?魔力を隠す魔術は確かにあるけれど、アレは確か結界型で人に直接作用するタイプじゃなかったはずだけど」
ふんふん、と頷きながら思考を回転させるシーナ。
「あの魔術とは全く別の魔術、だと思う」
ルーン魔術を使えるようになってから、出来うる限りで魔術について調べた事がある。技術の方ではなく、魔術式───魔術に使われる文字を、だ。ある程度確立されてる魔術は表に出ている為、それを見る事も出来た。そのうちの一つが、僕が魔力を隠す為に使っているパースのルーンに近い性質を持つ「隠す」魔術。
四方に魔術式を書き込み起動させ、四方の内側にある魔力を外側の存在に感知させない、結界型の魔術。
ルーン魔術がこの世界の魔術と何かしらの関わりがあるのではないか、と考えて調べたのだ。けれど、正直に言えば意味がわからなかった。隠す魔術は複雑過ぎるのか、それこそ子供の落書きの様なごちゃごちゃした魔術式で、魔術そのものをきちんと学んでない自分には理解するには無理があったらしい。
「ネラちゃんは自分が使ってる魔術についてそこまで知らない感じ?」
「ん。私が使える魔術が他人と違うのは知っているけれど、その理由はわからない」
「その魔術は他の人にも使えるの?」
「試してみたのは1人だけ。少なくともその人には使えなかった」
試してみる?と尋ねてみると、シーナの空色の瞳が、宝石を超えて光の如き輝きを放った。まぶしい。
結果的に言えば、その試みは失敗した。キリエルの時と同じように、最もその発生が分かりやすいカノの魔術を試させたのだが、やはり何も起きずに終わったのだった。
「ネラちゃんと同じ魔術が使えない……。これは私にはネラちゃんと一緒になる資格がないと……そういうことなのかな……」
恐らく最もルーンに興味を示していたシーナは、その事実に打ちひしがれていた。僕の隣でうつ伏せになって丸まっている。
「同じ魔術が使える事が資格になるわけではないと思うけど……」
僕は思わずフォローする。彼女には笑顔の方がずっと似合うだろう。シーナの状況は、あまり精神上よろしくない。
「……ほんと?幻滅しない?」
「あなたはそんな事で幻滅するような人を好きになるの?」
そう尋ねると、シーナははっとしたように目を瞬かせて、その目をキラキラと光らせた。
「ネラちゃん好きぃ!」
テンションの差が激しいシーナがガバッと抱き締めてくる。受け止めも避けもしなかったのでされるがままだった。
相変わらず揺れながら進んでいる竜車の中。そこまで広いわけではないこの荷台での話は他の人まで聞こえる。もし使えたとしてもカノしか教えていないので大丈夫だろうと、それよりも情報を求めて他のメンバーにもルーン魔術の話が聞こえるように話していたし、その事も伝えていた。
結果は、全滅。ここに居る他の魔法使いもやはり使える事はなかった。
やはり、ルーン魔術は特別な様だ。
考えられるのは3つだろうか。
非常に希少な才能が必要な可能性。
勇者としての転移特典である可能性。
或いは、転移した全ての人への特典か。
どちらにしろ、現状確かめる術は無い。転移者や才能を持つ人間は居るかもしれないが、それを見極める方法なんて無いのだから。
「──ところで、どうしてさっきの魔物はわざわざ竜も居た私達を襲ってきたと思いますか?」
ふと、リューが声を上げた。先ほど魔物が出てきた森は、まだまだ僕らが走る先まで続いている。
「何故って、腹減ってたからじゃねえのか?」
オッツォが首を傾げた。魔物といえど、基本的には本能が強い。敵が倒せそうもなければ戦おうとしないし、腹が減ってれば満たすために生物を襲う。
魔物が本能すらも失って凶暴化する、というのは、あくまで「魔物化した動物」である。「魔物化した動物が子を成し、生まれた魔物」──つまり、元から魔物であった場合、ある程度の凶暴性は持っていても、本能を見失うほど狂うことはまずない。
そして、先ほどの魔物は徒党を組んでおり、更には、僕のように明確に弱い相手を狙ってきた。
また、竜一匹ならばあるいはなんとかなるかもしれないが、それも五分五分。狼型ならば僕ら人間が乗っているということもわかっていただろう。
つまりアレは、魔物化して凶暴化したものではなく、明確な意図を持って襲ってきたわけだ。しかし、それは「勝てる可能性が低い」と知っていた上で、やらなければいけなかったという事になる。
何も考えずに倒してしまったがなるほど、奇妙な話であった。
既に書き始めてから4年、未だに主人公2人が合流出来ていないという(合流の方法を決めていない)