第24話【魔法使いとは……】
久し振り過ぎてちょっと文章書くのが下手になってる気がする……
11/3 後半の戦闘描写を改変。読み直さなくても物語に支障はありませんが、少しは文章がマシになったと思います
始まった道行きは順調だった。
始まる前は色々とゴタゴタしたが、道中は平和な物だ。棺桶のような箱を荷台に乗せ、僕らがそれと共に荷台に乗る。大きめの荷台を引っ張る竜は二体。御者は筋肉オバケ。
筋肉オバケは抱きしめられて頬擦りされてる僕を見ると、仲良きことは良い事だ、と笑顔で頷いていた。仲良い、とは言い難い気がするが、まあそれはいい。
ガタゴト揺れる天幕の張られた竜車の中、数時間も経って未だにシーナは僕に張り付いていた。
僕も慣れて来たので気にせず魔術の本を読んでいたら、何気に彼女、造詣に深いらしく、ちょいちょい魔術に口を挟んでくる。それも勉強になるので、この引っ付きは必要経費だと割り切った。それに、別に可愛らしい女の子に抱き締められるのは元男としては悪くない。
魔術の本を読むのも飽きたので、本を閉じた。オッツォとバルツは冒険者らしい情報の交換をしながら、周囲の警戒をしている。その2人の補助をするように、ティルダとリューが会話に混ざっていた。
「ネラちゃん、本は終わり?」
シーナが抱きしめながら尋ねてくる。僕は頷いた。
「勉強になった。ありがと」
「いいのいいの!ネラちゃんの為だもの!いつでもあなたの子供を孕む準備は出来てるよ!」
変に生々しいのが怖い。
「ねぇ、バルツ、リュー。この人、いつもこんな感じなの?」
うへへ、と発情したように蕩けた表情を浮かべるシーナに溜息を吐いて、いつも組んでいるらしいパーティの2人に尋ねる。
「ああ、まあ、そんな傾向はあったな。可愛い女の子に目が無いって感じで」
「ですが、ここまで酷いのは珍しいですね…」
うーん、と彼らは首を傾げる。これは彼らが困惑するほどには珍しいらしい。
「一目惚れよ!」
「その言葉は毎回聞いてる気がしますが」
毎回言ってるらしい。
「今回は本気よ!この子の子供なら孕める気がするの!」
「えぇ……」
バルツがドン引きし、リューは苦笑い。僕はといえば、ちょっと気になる所が出来た。
僕の子供なら孕める。この数時間で同じような言葉を幾度も聞いたが、彼女は僕をいつでも男側として、自分が孕む事を考えていた。彼女は無意識的に、僕が本質的に男だということを理解してるのかもしれない。
……いや、無いか。僕が元男だからそういう風に深読みしてるだけだろう。
今の僕の顔は中の上辺りの、所謂「どちらかといえば顔が整っている」という認識だと僕は思っている。実際、僕から見てシーナという女の子は今の僕よりもずっと可愛らしいと思うのだけど。
「今、私のこと褒めた?」
「貴方は私よりもずっと可愛いなって」
「ほんと?嬉しい!!子作りする?」
「しないけど」
ナチュラルに心を読まれた気がする。であれば僕の疑問も読み取って欲しいのだけど。
「いい、人を好きになるのは顔以上に魂なのよ、ネラちゃん。私は貴方の魂に惚れたの!」
本当に答えられた。なんなのこの子。
「シーナ。ミズグット出身、魔法学園を首席で卒業。歳は17。ギルドランクはCの魔法使い。当然性別は女の子。今は貴方だけの女の子」
湧き出る疑問に律儀に答えていく。その言葉の端々に僕への愛を語られるのは流石に恥ずかしい。
それにしても、ミズグットの魔法学園出身なのか。
「うん、リューとバルツも同じ学園出身なの。だから今回は帰郷、ということにもなるの。家族に紹介する?」
「しない」
外堀を埋められそうになる。明言しないと何されるかわからない。
17の時点で既にギルドメンバーとは、この世界の学園はどういう仕組みなんだろうか。
「んー、それは人に寄るんだよね。あの国の子供の多くは、7才で学園に入るの。それから10才までは文字とか計算とか、常識とか礼儀を教えて、魔法の才があれば11才から魔法を教えていくことになるわ。才が無ければ留まって騎士学科……剣を習うか、商業科で商人の勉強、もしくはそのまま卒業という形で、家族のお仕事に従事したりもするね。
魔法学園とは言うけど、魔法だけを教える所じゃないんだ」
当然、魔法には特に力を入れてるけどね。と人差し指を立ててぽっと火を灯してみせる。
「卒業には条件があってね。その試験に合格すれば、たとえ11才でも卒業することができるの」
過去に1人だけそういう天才児が居たらしい、とシーナは言う。
「卒業した後は、色んな道が示されるの。私達みたいに冒険者になったり、国に仕える魔法使いになったり、今以上に魔法の深い所を研究する研究機関なんていうのもある」
今回の依頼の目的地である研究機関も、それに類するものだ。魔物研究───弱点だなんだっていうのはギルドにも伝わっているが、生態はちょっとだけ興味がある。
「あ、そうそう、きちんと貴方みたいな魔術を研究する機関もあるのよ。人気かと言われると、首を横に振るしかないのだけど」
けったい、マイナーと言われる魔術だ、それも仕方ない。
「でも、貴女は魔術を知ってたね」
あの本を一緒に読んで僕よりも理解が深いとすら言えるのが分かった。シーナは魔法使いだろう。
「あー、コイツ、知識を得るのが趣味、みたいな所があってな。剣術、魔法、魔術、一通り学んでるんだよな」
「所謂天才ですよ、彼女は。その全ての試験で卒業の判定貰ってますからね。私達が騎士学科と魔法学科を卒業する段階で、その全てを修めていましたから」
バルツとリューが呆れたようにそう言った。なるほど。
「凄いんだね」
「でしょー?私は凄いの。どう?結婚する?将来安泰だよ?」
「しない」
将来安泰には惹かれるものがなくはなかった。
そんな、シーナからの熱烈なアプローチを一蹴しながら、ガタゴト荷台に揺られていると、不意に探知魔術に引っかかるものがあった。
「どうしたの?」
「外に、何か……魔物だ。数は十五。群れるタイプかな……」
今の僕らは、緑に茂る大きな森の外側を走っていた。魔物の反応は、その森からだ。
「……凄い、ホントだ。私よりも早いなんて、ネラちゃんすごーい!」
魔術か魔法を使ったのか、シーナもどうやら認識したようだ。
「斥候役はオレなんだけど、シーナの探知魔術が広範囲だから斥候なんてほとんど要らないんだよな」
戦闘系学科全てを卒業した彼女は伊達では無いとバルツが言う。
「それよりも早く気付いたネラさんは素晴らしいです。流石、シーナが目を付けただけはあります」
「でしょー?」
リューがそう賞賛し、シーナがへへんと自慢げに僕を抱きしめる。
2人の手に、そっと武器が握られて居た。それを見て、オッツォが声をかける。
「ふむ……森の群れというと狼型の類だろうな。お前らだけでイケるか?」
「ええ、恐らく。お任せください。ですが、もしもの時があるので準備だけは」
「怠らねぇよ、これでもBランクだぞ?」
「失礼しました。……2人とも、行けるかい?」
オッツォがニヤリと笑って大剣に手を添える。それを見たリューが頭を下げ、バルツとシーナに声を掛けた。
油断はしていない。けれど確かな自信がある。
「当然」
「ネラちゃんとの逢瀬を邪魔する子は許さないんだから」
「よし、では竜車を止めるぞ」
それを横目に見ていた筋肉オバケが、竜に指示を出す。竜車はその通りに徐々に速度を落としていた。
「接敵まであと20秒って所かな?止まった瞬間襲いかかって来ると思うから、そのつもりで」
「一応、竜車の保護は私がやる。こっちは気にしなくていいよ」
「うん、ありがとネラちゃん」
腰の鞄から、魔術石を取り出す。アルジズとオシラのルーン。前にも使った結界の魔術だ。
竜が嘶き、竜車が完全に止まる。剣を持ったリュー達が竜車を飛び降りるのと、森の中から狼型の魔物が飛び出してきたのはほぼ同時だった。
「《聖域》《保護》」
僕も後を追うように降りると、せっせと石を配置してルーンを起動、薄緑の壁が竜車を覆う。
「よし」
竜車の安全確保は完了。それを確認すると、僕は外で戦ってる彼らに目を向けた。
オッツォの予想通りの狼型の魔物。襲いかかって来た数は15匹だが、既に4匹が倒されて居た。
騎士然としたリューの剣は、お手本のように流麗で、効率的だ。狼の飛びかかりをひらりとかわし、その横腹に剣で撫で斬りにする。怯んだところで縦振り一閃、狼の首を切り落とす。
流れるような動作でそれを終えたリューは、同時に攻撃を仕掛けて来る狼も、やはり危なげなく躱すと狼が体勢を立て直す前にその首を落とした。
剣一本のリューに対して、バルツはククリナイフに近い形状をした曲がった小剣と、魔法を同時に使う戦い方だ。魔法の属性は恐らく風だ。風の推進力を得て、魔物よりも疾く駆ける。
狼は、そんなバルツに狙いを定めることも出来ずに、風に押されたククリナイフにその命を刈り取られた。
……さて、シーナだが、少々認識を改める必要がある。彼女が可愛らしい女の子で、ローブを纏い、杖を握り、自らも魔法使いと名乗っていた故に先入観により遠距離魔法を得意とする支援、砲台役だと思っていた。が、それは大いに違っていた。
彼女は、僕と同じタイプだ。
僕と同じく、自らの身体を使った近接戦闘。
魔法使いや魔術師でありながら、それに頼らない戦い方をするちょっとおかしな人。
こん、と金属製の杖が音を出す。場違いにも響く心地良い音だ。その音が、魔物の頭を叩き潰した音でなければ尚良かっただろう。
一瞬で死体と化した魔物を、杖を使って次に狙いを定めた魔物へと殴り飛ばす。
同族の遺体が飛んで来たことを予想外としたのか、飛んで来る早さに対応出来なかったのか定かでは無いが、狼は為すすべもなくそれに巻き込まれて一本の木に激突。凄まじい勢いに、そこまで太く無いとはいえ激突した木は折れ曲がった。
既に一歩も動けないだろう狼に追撃、容赦無く頭を叩き潰した。
仇を討つつもりか、助けに入るつもりだったのか、数匹の狼がシーナの背中を襲う。が、シーナはなんとなしに杖をクルクルと回しながらそれを背後に振るう。吹けば飛ぶように、狼は叩き潰されて赤の花弁を散らした。
「物理で殴るタイプの魔法使い……」
風の魔法を使って居るのか、飛び散る魔物の血は不可思議な軌道でシーナの身を避けていた。そこら辺は女の子らしいと言えるかもしれないけど、女の子は普通は物理で殴ったりはしないと思う。
「あっ、ネラちゃんごめん、1匹そっちに行った!逃げて!」
そんなシーナのアグレッシブさに驚いてると、順調に数を減らしていた魔物の中から1匹、他の魔物の影から飛び出し僕の方に襲いかかって来た。弱そうな奴から狩る、というのは獣の習性だろうが……
「……それは判断ミス」
当然ながら、この程度に遅れを取るほど弱くは無い。
握り拳を作った腕を頭上に掲げ、飛びかかってきた狼の頭に向けて拳を叩きつけるように振り下ろす。めしゃり、と狼の頭は陥没し、地面に叩きつけられた。