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第20話【人影の魔物】

どうも、お久しぶりです。8ヶ月ぶり…ですかね。

別に飽きたわけでも無かったんですよ。ただ、どう書くかに迷いに迷ってそのままずりずりと…。

まあ言い訳はそれくらいにして、そういえば感想を書いてくださった方がいらっしゃいました。初めての感想、凄く嬉しいです。ありがとうございます。


さて、前置きはこれくらいにしましょうか。遅々として進まない可能性のあるこの物語に付き合ってくれている方、本当にありがとうございます。エタらないよう頑張ります。


5/13誤字の訂正をしました。

拳を振るい、地を蹴り飛ばし、風を置いて、破壊を生み出す。


小柄な少女がその細腕からは想像もできない剛力の拳を振るい、


巨躯の男が筋肉を詰め込まれた肉体で、細い剛腕をいなす。


「ん、のっ!」


当たらない。


多くの敵を拳で打ち倒してきた僕の殴打が、その巨体に届かない。全てを避け、いなし、潰される。


速度は勝っている。力は拮抗している。


それでも彼に届かないのは、彼の技術と経験が僕の殴打を予測しているからだろう。


「主の動きは分かりやすいのじゃ。確かにその力ならば、たいていの魔物を打ち倒せるじゃろう。じゃが、一つ一つの動作に、無駄があり過ぎる。故に、読まれる」


腹部に向けて突き出した拳を、太い手腕が叩き落とす。だが、拳はもう片方―――


「げゥッ!」


もう片方あるのは、向こうも同じだ。予測していたのか、速度で勝るはずの僕の拳が届くよりも先んじて僕の頭ほどもある拳が側頭部を直撃した。


体重の軽い僕の身体は、その直撃で吹き飛ばされる。一瞬意識も吹き飛んだが、直ぐに取り戻した僕は直ぐさま再生能力を強化しながら態勢を立て直す。


まだ一撃だ。この程度ならば、昔は何度も受けてきた。身体強化を突き破って肉体にダメージを与えられたが、問題は無い。再生能力でどうとでもなるだろう。


「それと、お主は随分と人間らしさが無いの」


「……人間らしさ?」


聞きなれない言葉に、僕は首を傾げた。ゴキリと嫌な音が鳴る。頭への直撃で首の骨が少しおかしくなっているようだ。再生能力と併せて、それも矯正させる。


「そう、人間らしさじゃ。痛いのが怖い、死ぬのが怖い、そういう人間らしい臆病さが、主には感じられない」


………。


成る程、確かにそれはあるかもしれない。勿論、痛いのは嫌だ。しかし、それを怖がるような気持ちは、もうずっと前に無くしてしまった。


腕が千切れても治ってしまう再生能力を持った今、怪我に対して無頓着になっているようだった。


必要とあらば、一部を犠牲にしてでも。再生能力を得て以降、幾度も傷つけられた果てに得た結論だった。そこに、臆病さは無く、そこに人間味が無いと言う。


だけど、それがなんだと言うのだろう。臆病さが必要なのか?人間らしさは必要なのか?


だって、僕は化物だ。


「フッ」


再生が完了した僕は、一足で筋肉オバケとの距離を詰める。懐に入り込んだ僕は、固めた肘を全力で突き出した。


彼の腹と僕の肘の間に、掌が挟まった。


先に僕が吹き飛ばされたのとは逆に、今度は筋肉オバケの巨体が宙を舞う。即座に掌を挟み込むその反射神経は凄まじいが、直撃だ。この戦闘において、挟んだ左手はおそらくもう使えないだろう。


「臆病と言うものは、決して無くてはならないものじゃ。それがあるからこそワシらは生き続けているのだから」


ゆらりと立ち上がった筋肉オバケは、そんなことを宣う。


「お主はきっと、まだまだ強くなれるじゃろう。近接戦闘の才能は無いようじゃが……だからこそ、主が臆病さを持った時、きっと主は誰よりも強くなる」


その言葉の意味は、僕には良く分からなかった。


僕は強く拳を握り締めて、地面を蹴る直前。


「二人とも、そこまでだ!」


その声が届いたと思ったら、半透明の糸が足に絡まった。飛び出そうとしてた僕はそれに足を取られて勢い良くずっこける。痛い。


「全く、君達は何をしているんだ」


半透明の糸の主であり、声の主であるキリエルは疲れた顔でそう言った。



☆☆☆



戦いの経緯を筋肉オバケがキリエルに説明し、状況は一旦収まる。


幸い、肘撃の間に挟まれた筋肉オバケの手は身体強化もあったおかげでそれほど酷い怪我では無く、今後に影響は無いらしい。


キリエルがその治療を施しながら、僕らに説教をする。


「君達は状況が分かっているのかい?特にじいさん、これは貴方が無理やり始めたことだろう?」


「いや、じゃが彼女も乗り気に」


「貴方がこんなことをしなければ乗り気になることも無かったでしょう!全く、挑んだ結果こんな怪我までしておいて……。これから依頼について調べないとならないのに、始める前からなんでハンデ追うハメになってるんだ」


はぁぁぁ、と大きく溜息を吐くキリエルに、怪我を負わせた側としては申し訳なく思った。



「状況を整理しよう」


「ん」


「はい」


共に頭を叩かれた僕と筋肉オバケは、キリエルの前に正座をして素直に従っていた。


「それで、爺さん。最初に聞いておきたいんだけど、あんたが居てすら人影の魔物の対処が出来ないと判断したのか?」


「うむ。正確にはワシ一人では足りない、というところか。出来るならばその魔物を捕獲しようと考えている」


「なるほど、それで私を呼んだわけだ」


「うむ」


「捕獲……キリエルの魔力糸の事?」


魔力糸。練り上げた魔力を細く、細く、まるで糸の様にして現出させる、簡単に言えば魔力そのもので出来た糸だ。


魔力で出来ている為その耐久性は魔力の量と練り具合により変動する上、上手い人なら糸を手足のように操れる。また、魔法では無いので詠唱をしなくて良いので、使えるならば使い勝手は良い。


尤も、魔力糸になるほど多くの魔力と綿密な魔力操作は非常に難しく、使える人は数少ない。僕も魔力操作はそれなりだが、それでも魔力糸の作成はまだしも、それを手足のように扱うのはまず無理と言っていい。


今居る街を辿る道中、キリエルはその魔力糸を使った戦闘を熟していた。どうやらその魔力糸が彼の主武器らしい。


「うむ。ワシではアレを使えないからの。捕獲には厳しいと判断したのじゃ」


「なるほど……」


人影の魔物、か。確かに新種ならば、しっかりと調べておく必要がある。情報は大事だ。場合によっては僕が捕獲することを考えておこう。


「じゃあ次だ。外に出てきてしまったが、大丈夫なのかい?」


そういえば街の外での出没が報告されていた。下手したら襲われる可能性もあったのか。


「それなら、恐らくじゃが、奴が住み着いてるのはここからも見えるじゃろう、西の森らしい。どの者もあの森に入ってやられている」


筋肉オバケが指差した方向に目を向ける。ボコボコになった大地の先、それほど遠くはない場所に生い茂った木々が見えた。


彼処か。


「ん、早速行こう」


「いやいや、こんな馬鹿みたいに争った後に?体力も魔力も少ないだろう?」


立ち上がって向かおうとした所でキリエルにそんな事を言われた。身体を動かしてみるが、先の戦闘におけるダメージはもう無いし、体力も全快。魔力は多少減っていたが、膨大な魔泉がある分回復も早い。それほど気にする必要も無いだろう。


「どっちも問題は無い」


キリエルの視線が痛い。呆れているような表情をして僕を見ている。


「ワシは多少疲れたが…まあ、一刻もすれば全快するじゃろう。怪我に関しては仕方ないが、それを補って余りある者もいることじゃしな。そういうことで、ネラよ、ちょっと膝枕をじゃね…」


「え、嫌です」


近づいてきた変態ジジイを身体強化して蹴り飛ばす。悲鳴をあげて転がっていくジジイから視線を外して、キリエルを見た。


「結局、どうするの?」


「そうだね、2人とも余裕ありそうだし、爺さんの言う通り一刻後、爺さんの体力が回復したら捜索を始めるとしよう。それで良いかい?」


「分かった」


キリエルの提案に頷くと、適当な所に腰を掛けて、僕は魔術書を鞄から取り出して読み始めた。



暫く魔術書を読み耽っていると、ふと声を掛けられて本から顔を上げた。


「そろそろ一刻?」


目の前にはキリエルと変態ジジイが居た。流石に何年も冒険者をやっている。普通に立っているだけなのに、一分の隙も見当たらなくなっている。


僕は立ち上がって尻の土を落として洗浄の魔術を掛けると、身体の調子を確かめた。


オールグリーン、いつでも全力が出せそうだ。


「準備は出来たようだね。それじゃ、捜索を始めよう。今回は識別不明の敵に加え冒険者の初心者も居る。念には念を入れて、固まって行動するように」


「うむ、わかった」


「りょーかい」


キリエルの発言に、そういえばとこれが冒険者始めて最初の依頼だということを思い出す。


初めてだ。冒険者としての依頼も、そして仲間と共に活動する事も。静かに一息吐いて、僕は気合を入れ直す。


「私と爺さんは良く組んだことがあるから連携は問題ないけど、ネラ君は連携初めてだよね?」


「ん」


「それじゃ、君は自由に戦ってくれ。それを私達が援護する事にしよう」


「わかった、宜しく」


「任せてくれ」


そうして、僕らは依頼を遂げる為に西の森の捜索を開始した。



☆☆☆



「魔物、右、3」


森の中に入り込んで暫し。僕の探索魔術を刻んだ石が反応を示した。


それを受けたキリエルが直ぐさま右を見ながら魔法の準備。それから数秒と経たない内に視界圏内に入ってきた猿に似た魔物をキリエルが石の棘で串刺しにした。


「いやぁ、視界に入る前から魔物を捉えられると楽で良いね」


「そうじゃな。魔術師と組んだことが無かったから、ここまで楽とは思わんかったよ」


「ネラ君はちょっと特殊だけどね」


戦闘において非常に重きを置いているステゴロだが、それ以外…冒険や捜索に関して、汎用性の高いルーン魔術は無類の強さを持つ。


結界、光源、探査、隠形。その他、疫病を防ぐ魔術だってある。僕が前世でソロ活動を行えていたのは、ルーン魔術があってこそだった。


「前方、木の上。2。私がやる」


「任せた」


「《雷棘(thurisaz)》」


放たれた雷の棘は瞬く間に木の上に居た魔物を灼く。もう一体にも同じ物を一撃。焼き焦げた二体はズルリと地面に落ちた。


「なんていうか、援護は必要なのだろうか」


その状況を見たキリエルが、そんなことを言った。元々、僕は独りで旅をして来たのだ。仲間との連携というものが良く分かっていないし、魔術がある為大抵の事は自分一人で済んでしまう。


まあ、そんなふうに油断していてナイフで一突き、なんてこともあったのだけど。


ふと、すん、と鼻を鳴らす。


今焼いた猿に似た魔物の臭いではない、風上から嗅ぎ取れる何かの臭いがあった。


生臭いような、それでいて腐った様な。嫌な臭いに眉を顰めた。


「どうしたんだい?」


思わず立ち止まった僕に、キリエルが声を掛けた。僕は彼の声に反応せず、そのまましゃがみ込んで地面に文字を描く。


「《情報(ansuz)》《車輪(raido)》《強化(uruz)》」


探索魔術の強化版。


「こっち」


僕はキリエルと変態ジジイを連れて、ゆっくりと探索魔術の果てに見つけた存在を辿った。


暫くして辿り着いた先に、ソレは居た。


「アレが、人影――」


ソレは確かに、人型だった。二本足で立ち、腕は二本。きちんと指も五本ある。身体は男性らしく、胸は無く、体格が良い。それだけなら人と言っても良いだろう。


だが、ソレの頭は決して人間のソレでは無かった。どちらかというと、そう、竜の頭に近いと言えるかもしれない。


また、尻の辺りから極太の尻尾が生えていた。


「竜人……?」


ヒトの体に、竜の頭と尻尾。竜人、という言葉がぴったりと当てはまった。しかし、


「黒いな……」


キリエルが呟く。そう、黒い。まるで影だけのように全身が真っ黒で、シルエットしか分からない。


ただ、竜の頭の目の位置の辺りに、紅い光が有った。おそらくアレが奴の目なのだろう。


なるほど、人型の影――人影。まさに、そのままだ。

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