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第19話【ウーヴェ・ペルレル】

バトル回。

筆が進む進む。こういうのが書きたかったんだよ!

「さて、紹介しよう。彼はウーヴェ・ペルレル。ここのギルド長で、元首都ギルドマスターだ。先代になるね」


レイアの前の代のギルドマスターか。あの身体強化は納得である。


「ウーヴェ・ペルレルじゃ。よろしくな、同志よ」


「うん」


胸に伸びる腕を叩き落として頷く。


「私はネラ。魔術師」


「ほうほう、魔術師か。また珍しい。例えば、何かの魔術体が欲しいと言えば売ってくれるのかね?」


「売る。信用してくれれば」


「無論、信用するとも。同志じゃからな。それで、早速じゃが、姿を消す魔術とかはあるかね?」


存在する。そのおかげで今の僕は闇の魔力を感知されないのだから。でも、此奴に教えたら何をすることやら。


「それは売らない」


「な、なんでじゃ!」


「あからさまにえっちなことしそうだから」


「ワシの目を見ろ!この澄んだ目が、そんな悪いことに使うわけないじゃろう!?」


ウーヴェもとい変態ジジイが顔を近づけてきて目を差し出してくる。指で突きたいという衝動に駆られるが、なんとか我慢して瞳を見る。彼の薄茶の瞳は、ひどく濁っていた。


「えい」


ぷっす


「あんぎゃぁぁぁぁぁぁ!!?ワシの、ワシの澄んだ目がぁぁぁぁ!!」


目を両手で抑えながら大きく仰け反って一々オーバーすぎるリアクション。五月蝿い。


ところでこのジジイ。容姿からしても実は普通ではない。今までの表現から背の低い変態顔をしている腰の曲がったジジイと思ったら大間違いである。


まず、その身体は巨大である。キリエルよりも背が高く、2メートル近い巨体を持つ。


そして、その巨体は服の上からも良くわかるまっするぼでー。ジジイでありながら肉体派である。筋肉オバケ。


このジジイが変態行為(セクハラ)なんてしようものなら、誰もが怖がって手を出せなさそうだ。


「爺さん。そろそろ本題に移りましょう」


「おお、そうじゃった。ここにお主が来たということは、恐らく人影の依頼を受けて来てくれたのじゃな?うむ、はるばる訪れて頂き感謝する。


だが、同志は何用か?」


まさに歴戦の強者とでもいうべき雰囲気を身に纏う変態ジジイ、いや、筋肉オバケ。先程の変態がこうも雰囲気だけで変わるものなのか。


「彼女は、私が共に連れて来たのです。彼女の力は頼りになるだろうと」


「……ほう、強いのか?」


キリエルの言葉に、先よりも更にその強者の雰囲気を増す筋肉オバケ。


「ええ、相性の問題もあるでしょうが、少なくとも私では勝ち目がないでしょう」


「そこまで、じゃと?」


ジロリと、凶悪に光る濁った薄茶が僕を睨む。予想外だ。この筋肉オバケ、前世で遭った魔族幹部よりも強いぞ。


「貴方達が戦うとギルドが潰れますのでやめてくださいね。もし戦いたいなら街からも離れた所でやって貰わないと」


「よかろう!行くぞ同志よ!主の力、ワシが確かめてやろう!」


「え」


凄まじい闘気をまとった筋肉オバケが、凄まじい速度で僕に手を伸ばしてくる。あくまでも胸なのは変態ジジイである。


思わず叩き落とそうとした腕を逆に掴まれて、僕は筋肉オバケに引っ張られて天井を吹き飛ばして外へと飛び出した。


「爺さん!今はそんな事やってる場合しゃ………!」


天井を吹き飛ばされた部屋の中で、キリエルが叫んでいるが、徐々に部屋から離れていくのも相俟ってか筋肉オバケはまったく聞いていない。


僕の腕を掴んだまま、どんどん進んでいく。街に着地し、地面を割りながらまた跳ぶ。これ僕じゃなかったら完全に腕千切れてるわ。


部屋から文字通り飛び出して延べ数十分。果たして僕らは街が小さくなるほど離れた場所まで来ていた。


「準備は必要か、同志よ」


数メートル離れた位置で向かい合う僕と筋肉オバケ。筋肉オバケは先程の部屋以上に気配を強くしていき、その瞳は殺気に満ちていた。バキバキと指を折り曲げる。


ひぇぇ。これ絶対止まらないじゃん。仕方なく僕も半身になって構える。一応猫耳フードも被る。


「問題ない」


「そうか。では……行くぞッ!」


言葉と同時、バゴォン!と、地面が砕けた。見た目通り肉体派だろうと思って構えていたのだが、彼は後方に跳んでいた。


「風の精霊よ、我が詩を聴き届けよ!風を!嵐を!渦を!旋回し、乱れ、全てを捉え消し飛ばす旋風を!さあ、潰せ!砕け!吹き飛ばせ!ここにその姿を示せ!」


「ま、ほう……っ!?」


超長距離まで離れた彼は、長い魔法を唱え切る。予想外だわ。なにあれ。なんで殴ってこないの。


生み出された魔法は、極大だ。小さな街なら一瞬で壊滅にできそうな巨大な竜巻。魔王以来の極大魔法だ。


「でも……」


残念ながら、僕に魔法は効かないのだ。魔法を潰せる術が、いくつも存在する。


迫る竜巻を前に、闇の魔力を纏わせた指先が宙を滑る。魔力を纏わせた瞬間、竜巻が緩んだ。闇の影響だ。


「《凍れ(isa)》」


大きく描いた一本の直線が、氷の概念を持って竜巻へと抵抗する。迫る竜巻にルーン文字が衝突し、瞬く間に竜巻を凍結させていく。


「ここじゃよ」


だが、そんな結果が分かりきっている物を見つめている時間は、筋肉オバケが与えない。


背後に回っていた筋肉オバケが、出会い頭と同じ言葉と同じ動きで掌底突き出す。


前と違うのは、その一撃は人を殺す一撃だということだ。


「知ってる」


地面を蹴って横に攻撃を躱すが、掌底はどうやらフェイントだったらしい。横合いに蹴りが飛んできた。


首に掛けていた保護のルーン魔術が自動起動、蹴りの衝撃を完全に殺しきり、その蹴りを抑えた。


「ほう」


だがその衝撃で、魔術石が砕け散る。嘘ん。


だが、懐に飛び込んできたのなら好都合だ。蹴り上げて無防備な体に向けて細腕の剛拳を振るう。


「ヌっ」


ただの細腕に何かを感じたのか。筋肉オバケは巨大な手のひらで剛拳を受ける。


だが、手応えが弱い。いや、きちんと力が入ってないのか。拳が最も力が乗るタイミング。それをズラされたのだ。攻撃を潰されるのは初めての経験だった。


その上、潰されたといっても剛拳は健在だ。その拳の衝撃を後方に跳ぶことで緩和させる上に懐から抜けた。恐らく、これが本命だ。


「圧せ、圧せ、圧せ。不可視の空弾」


轟ッ!という音が物凄い勢いで僕に迫る。迫る物そのものは見えないが、空気の揺らぎを捉えるのは難しくない。それに、魔力感知が使えるなら尚更だ。


受ける必要も無いので、大きく距離を取って攻撃を避ける。地面に着弾した空弾が破裂し地面を吹き飛ばす。火力凄まじいな。


直後、舞う砂煙に紛れて突進してくる筋肉オバケ。空弾が破裂した為に拡散された魔力に紛れて魔力感知からも位置を把握させ辛くしたのだ。


構えた拳を振り下ろす筋肉オバケに、僕は大きく跳んで距離を取る。幸い、速度では今の身体強化で十分に対応できる。だが、火力に関しては同等か、或いはそれ以上であった。


「筋肉オバケ」


「ワハハ、面白い名を付けるな。いいじゃろう、教えてやる。ワシの二つ名は『剛筋』だ。どうじゃ、良い名じゃろう」


まさに名は体を表す。分かりやすい二つ名である。


「だが、まさかワシがただの身体強化に速度で負けるとは思わなんだ。やるのう、お主」


「まさかただの身体強化で私に追いつく者が居るとは思わなかった」


彼の身体強化に込めた魔力は、僕や魔王の力任せとは違う。それほど多くない魔力を練りに練って、最高効率で肉体に混ぜ込んでいる。元より筋肉オバケな彼には、それで十分なのだ。身体強化していない身体で比べると、変質した僕の身体よりもずっと強そうだ。


「なるほど、確かに強いの。だが、甘いフェイントに引っかかるところを見ると、対人戦の経験が足りないし、動きが雑じゃ。身体強化に頼りきった戦い方じゃのう」


誰かの師事なんて受けていないし、身体強化に限って言えば魔王よりも上だった。戦闘の経験の大半は魔物だし、兵士に関しては手加減一切してないから即殺だ。


「丁度良い場では無いか。対人において、経験を積んでおけばお主ならば負ける者など殆ど居なくなるだろう。さあ、主、まだ全力では無いだろう。ワシもまだ全力では無い。ならば、全力で試合おうぞ」


ゾクゾクと。身体が震えた。恐怖では無い。決してマゾなんかでも無い。僕は戦闘狂でもなんでもない。


それでも僕の身体は、武者震いを起こした。彼が向ける殺気が、闘志が。酷く僕の心の奥底に揺さぶりを掛ける。


「…うん」


気付けば僕は、口角を吊り上げていた。


「行くよ」


「来い、ネラ」


魔力を全開にして、身体強化をしていく。下腹部に描いたパースのルーンに捧げる魔力すらも勿体無い。


「これは…!」


パースのルーンへの魔力を断つことで、僕の肉体に宿る魔力が感知できる。その魔力を視たのか、驚愕に濁った瞳が見開く。


手始めとばかりに距離をとった筋肉オバケに、僕はいつも通りに足元を爆ぜさせて跳ぶ。彼は距離を置こうとする為か空弾を撃ち出す。魔力量は先程よりも多く、弾丸自体も巨大である。


だけど。


「邪魔」


散布はせずとも感じられるようになった闇の魔力の影響か、不安定に揺らぐ空弾を真っ黒に染まった僕の細腕が、握り潰す。闇の性質の一つ。物質、現象問わず『取り込む』概念を持つ〝侵喰〟。


時間稼ぎにすらならなかった空弾を見て、距離を置くことを諦めたのか。筋肉オバケは離れることを止め、地面を強く踏みしめ、魔力を今まで以上に身体強化に回して拳を引く動作をする。


なるほど、魔法使いとして、もう魔法が使い物にならない事が分かるのだろうか。僕の魔力が感じ取られる時点で、魔法に関しては極端な弱体化を強いられる。それゆえ、身体強化だけで挑むのは最善なのだろう。


僕はそんな筋肉オバケに応えるように、構える彼目掛けて全力の剛拳を振るった。

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