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第16話【ルース・クシフォス】

転生しても自分の立ち位置というものは、あまり変わらないらしい。そう、彼――元魔王、現エルフの王第二子、ルース・クシフォスは思った。


前世で魔王として育てられた彼は、今世ではエルフの王の子として産まれることになった。


彼はネラとは違い、産まれた時から記憶を保持していた。元より、エルフは長寿な種族。記憶容量も人よりも多かったおかげだろう。


そして、記憶を持つが故に、彼は第一子の王子――フィールよりも、何倍も優秀だった。



尤もそれは、ルースがその才能を、見せることがあればの話であったが。



ルースには産まれた時から夢があった。前世でできなかったことを沢山、やってみたいと。


信頼し合える友人を持ち、共に旅をして、辛さを、楽しさを、分かち合いたいと。


差し当たっては、まずこのエルフの国から出て、自由を手にすることを目的とした。


その為には、王になるわけにはいかないと、ルースは必死に才能を隠すこととなった。


知識を、魔法を、異能を。ひた隠しにして15年間。されたことのない無能の烙印に、しかし、ルースはいつも、寂しげに悲しげに笑って受け流す。


かつての理不尽とはまた違う痛みを抱えてそれでも、彼は隠して生きた。


第一子フィールは、甘やかされて育てられたにも関わらず、そんなルースを責めることはなく、優しかった。


フィールもまた、頭が良かった。しかしフィールは、実は元より特殊な才能があったルースと違い、それほど才能を持っていなかった。それを補ったのは、才能と引き換えに持っていた努力だった。


だから彼は、追いつけない辛さがわかる。理解出来なくて努力する強さが分かる。


ルースは、比較する相手がフィールしか居ないため、その力をフィールに数歩遅れて追い付くようにした。


それがまた、フィールに努力させる事になる。ルースも才能が無い代わりに頑張っている。ならば、自分ももっと頑張らなければ、と。


意図せず、フィールを正しい道へと歩ませたルースは、ほぼ確実にフィールが王位継承することが決定して、お役御免になった際、王に願った。


「ワタシは、この世界を見て回り、力を着けたいと思っております所存。どうか、旅に出る許可を頂きたく」


王は子煩悩であった。それが、王位継承一位で無くとも。


故に王は、それを二つ返事で許可することとなった。尚その際、護衛を着けさせようとした王と、必要ないと言うルースとで微笑ましげな親子喧嘩にもなったが、王妃の進言で、ルースが勝利して護衛無しが決定したのだった。



エルフとは、耳が長く、長寿であり、自然への感能力が高く、故に魔法に長けた種族だ。また、美形が多いと言われている。



数百年も昔。魔族と人間が争っていた時代。エルフは中立を保ち、戦争に参加させられることを危惧し、森に大きな認識を狂わせる結界を貼り、そこに移り住んだ。


今は終結したその大きな戦争の名残だろう。両の種族は野蛮であると、言伝ながら出回っていて、エルフが里から出る者は少ないのだ。



そんな珍しいエルフという種族で冒険者を始めたルースは、自由になった為に解放された特異な才能を生かして、直ぐに有名になった。


好んで使用する、魔王時代からの異能『光』を生かした戦い方。


光の異能の特徴は、様々な物質を魔力で創ることが出来る『創造』と、「元に戻す」概念を持ち、魔法や魔術を打ち消す効果や、転じて肉体の再生や回復の効果を持つ『浄化』という二種類の力だ。


勿論、戦闘にて主に使用するのは前者の創造だ。両手に創造した剣を一本ずつ握り、彼の周囲から飛び出すのは形作られた剣の弾幕。



千もの光り輝く剣は瞬く間も無く、避ける暇も無く敵を穿つ。


それを操るは美しい銀の髪がたなびき、澄んだ琥珀色の瞳は見た相手を射抜く、まるで絵に描いた王子のようなエルフの青年。事実王子なのだが。


そうして出来た二つ名が、『閃剣の貴公子(プリンス)』。


ネラが聞けば、確実に厨ニ臭いと苦虫を噛み潰した顔をするだろうその二つ名は、ルースすらも実は気に病んでいたりする。


珍しいエルフであり、容姿端麗眉目秀麗、特殊な異能と特殊な戦い方と凄まじい強さ。そんな、異常なまでの大量の珍しさで、うなぎ登りに知名度を上げ、冒険者になって1年も関わらず、上から3番目のランク、ギルドランクAを獲得することになった。


最年少、最速である。もうこいつが勇者だろうと言いたい所だが、まことに遺憾な事に勇者は別にいて、彼は魔王なのであった。



今のルースの目的は、自分と同じく転生したと思われる勇者の捜索だった。


この広い世界で、一人の顔も名前も分からぬ人を探すのは難しい。


特に、勇者と自分が共通して知っている事など、自分と相手の戦い方ぐらいだった。


だからこそルースは、魔王時代と変わらぬ戦い方をする。光の剣による弾幕は、一体どれほど勇者の身体に風穴を開けただろう。勇者の記憶にも焼き付いているであろうこの力で戦うことにより、勇者が自分を見付ける可能性を上げるのだ。


そしてこちらも、一応ギルドにて闇の力、もしくは身体に似合わない膂力を持つ黒髪の男を探しているとの捜索を出し、自分自身でも聞いて回っているが、今のところ全く目処が立って居なかった。


それもそうだろう。ネラとは産まれた時期も前後しており、また、今の勇者は女性になってしまっている。自身が男性として産まれたせいで、女性になっている可能性が頭から抜け落ちていたのだ。


そして冒険に出てから、1年を過ぎた頃。冒険者の友人は出来たし、会えば一緒に依頼をこなすこともあったが、ルースは基本的に1人で行動していた。ただの冒険者では、実力的な意味で話にならなかった。また、隠し事も多くなってしまい、行動を共にするまでの関係になれるような冒険者は居なかったのだ。


相変わらず聞いて回っていると、とある行商人からの話が、耳に止まった。


「閃剣様、そういえば、探している方とは違うでしょうが、似たような方に私は救われたことがあります」


「本当か!?どんな人だった?」


今のところ、全く目処の立たない捜索に、ルースは直ぐに食いついた。少しでも情報が欲しかった。


「黒髪で、素手で魔物を倒していたのが印象的なので良く覚えていますが、その方は女性でありました。それも恐らく13歳ほどの少女ですね。もしかしたら、貴方のお探しの方の娘かもしれません」


女性―――


言われた途端、視野が一気に広まった気がした。それと同時に、なんて馬鹿だったのだと、自分を責めた。


なぜ忘れていた。自分達は転生したのだと。転生した肉体が、男性だと限られはしない筈だと。


「その人は、何処で?」


「デトリトゥス王国の首都近くですね。私はそこからこちらに向かっていたので別れましたが、王国から北側に向かって行ったので、恐らく目指していたのは二ブルム国ではないでしょうか。

護衛を受けてるわけでも無く、馬車も持たず、大丈夫かと思ったら馬車よりも早く走っていましたから驚きました」


若いって良いですねぇと笑う商人に、礼を言った彼は、早速向かう為に準備しようとして、


「ところで閃剣様、私も二ブルム国に向かおうと思っていたのですが、どうでしょう?勿論、報酬もお渡しします」


護衛をお願いできませんか?と尋ねた商人に、ルースは少し考える。今から行っても、もしも彼女が移動しているのだとしたら間に合わないだろう。


魔力による身体能力は、肉体を基準として強化される。勇者が肉体自体を変質させて、素の身体能力を上げて、更に強化できるものとは違うので、彼…いや、彼女程の身体能力を得ることはルースには出来ないのだ。


「その方についての情報は、こちらでも集めましょう。商人の情報は早いですよ?」


むふふと自慢げに笑う商人。彼からしてみれば、ここで閃剣との繋がりを持ちたいのだ。


ルースは、馬車と自身の速度はほんの少ししか変わらない事を考え、商人の話を受け入れることにした。


「では、護衛のお話、引き受けることにする。出来るだけ早く向かいたいのだが…」


「ええ、わかっております。任せてください。貴方の実力であれば、二ブルム国までの道のりなら問題ないでしょう。明日の朝に、町の北口に来て頂けますか?」


「了解した。明日はよろしく頼む」


「こちらこそ。遅れましたが、私はマルシャン。マルシャン・アフェールです。アフェール商会を、どうぞよろしくお願いします」


「ああ、よろしく頼む。わかっているとは思うが、ギルドランクA『閃剣』、ルースだ」


「おや、『貴公子(プリンス)』を忘れていますよ?」


「その名はやめてくれ…」


嫌がるのをわかってやっているのだろう、むふふと笑う商人に、ルースは呻いて頭を抱えた。


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