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第15話【ルーン魔術の謎】

遅くなりました。

ネタはあるのにそこに繋げる上手いストーリーと解決方法と文章力が足りない。くそう、くそう


それと、13話にて結界魔術の説明を少々改変。兵士の男に渡したのはアルジズとは別の魔術です

訓練場に敷かれた様々な防御系魔術を突き破り、訓練場を轟かせた拳の一撃は、鋼鉄製だろう訓練場の壁に大きなヒビを入れた。


パラパラとひび割れた壁の欠片や土煙が舞う音しか聞こえない静けさの中、僕はやり過ぎたかと冷や汗を垂らした。


全力でやれと言われたので、現状で自らの身体能力を制御できるギリギリの魔力量で身体強化した。


結果がこれだ。ここの魔術ではどうやらこの一撃は防げなかったらしい。


試合は続いているはずだ。土煙が舞い上がって何も見えないが、即座に自分が作り上げたクレーターから離脱。


元居た立ち位置に戻って様子を見る。周囲を警戒しながらも、僕は周りを見た。


土煙が比較的薄い場所で、尻餅をつき、呆然としている冒険者やヒビが入った鋼鉄製の壁が目に入る。後で直した上で強化しておこう。


土煙のせいで前が見えないが、静寂ばかりで襲ってくる気配が無い。どうしたんだろう。キリエルさん、超反応して確かに避けたはずだけど、大丈夫だろうか。


「…けほっ……生きてる?」


「とりあえず生きているよ」


思わず声をかけると、キリエルさん特有のテノールボイスが耳に届く。良かった、一安心。


「とりあえず、試験は中止だ。まさかこうなるとは思いもしなかったし、このまま続けたらギルド施設そのものが倒壊しそうだ。訓練場も修繕しなければ…」


中止。訓練場はこのままじゃ使えないし、仕方ないか。非常に不完全燃焼で少々不満に思いながらも、僕は了解と答えて構えを解いた。


「訓練場の壁なら私が直せるけど、術式は難しい。これは私が弁償?」


手持ちが少ないから、場合によってはルーン魔術で組み直しても良いが、衝撃吸収の術式なんて知らない。ローンとか組めないかな。


「いや、全力を出せって言ったのは私の方だ。今回は私が出すよ」


それは助かる。お金に余裕が出来たら返そう。それと、試合は中止らしいが、試験はどうするつもりだろう。


「試験については明日、街の外に出て実戦形式にしよう。ランクB相当の依頼を適当に見繕うから、それで合否判定にする。合格すればBの仮ランクだ」


こちらとしては、こういう対人試合よりも対魔物の殺し合いの方がやりやすいので問題ないどころか願っても無いが、それで良いのか。


「けほっ」


しかし、土煙が酷い。腕を振るって土煙を払いながらそう思っていると、その奥から魔力を感じた。思わず身構える。


「Ventorum spiritus congregate harena.」


幼めな、しかし凛と通る女性の声。確かファイナ、とキリエルさんがが呼んでいた、受付の女性…というには少し若そうな人だ。この試合の審判をやっていたはずである。


言霊を唱え終えた直後、ふわりと柔らかな風が吹く。


優しい風は土煙を掴み、舞い上がっていた土砂を纏めていく。やがて視界が完全に開け、集まった土砂の塊はゆっくりと土の床に降ろされた。


「これでよし」


「いつも助かるねファイナ」


「いえ、これも仕事の内ですから」


レイアの推薦状を出した時も、彼女――ファイナさんは冷静で居たな、困惑はしていたけれど。ギルドマスターよりもよっぽどしっかりしている。


ふと、ばたばたと地上に続く階段から何人もの人が降りてくる足音が聞こえた。どうやらあの衝撃の影響は訓練場に止まらなかったらしい。


本当に申し訳ない。


降りてきた人の中には、オッツォとティルダも居た。訓練場を見渡す彼らに、僕は小さく手を振る。それを見た彼らは安心したように息を吐いていた。心配していたのだろうか、罪悪感が酷い。


「とりあえず、明日の朝に執務室…今日私が居たところに訪ねてきてくれ。後の処理はやっておくから、帰って良いよ」


罪悪感に苛まれて心臓の辺りに手を当てていると、ギルドマスターが近づいて来てそういった。


「了解」


なら、訓練場の壁と天井を直してから帰ろう。僕は壁に手をやり、訓練場の壁と天井全域にわたりゆっくりと変質を掛けていく。色や質感は鋼鉄そのままを意識して、ヒビ割れを修復、更に元の鋼鉄よりもずっと強度を上げていった。


因みに、傍から見ると、壁や天井が徐々に黒く染まっていっているようにしか見えない。凄く不気味だ。その為色んな人が僕を抑えようと近づいて来るが、邪魔されないように防御の魔術をしっかり展開している。


全てを補強しきると、魔力供給を止める。すると、僕が触れていた場所を中心に、ヒビ割れどころか傷一つ無い綺麗な鋼鉄の訓練場に戻っていった。


それを完全に見届けてから、防御の魔術を解いた。呆然と辺りを見渡す人達。


「さて、帰ろう」


その端を僕はそそくさとすり抜けて、猫耳フードを被ってギルドを出た。



☆☆☆



「ということで、君に頼むのはこの依頼だ」


適当な宿を取って休んだ翌朝、キリエルさんを訪ねてみると、ジェラルミンケースを傍らに置いた彼が、依頼の書かれた紙を渡してきた。


えーっと、『謎の人影を追え!』?


依頼書のタイトルを見て眉を顰めながら、本文を確認する。



「……なにこれぇ…」


ふざけたタイトルとは裏腹に、依頼書の中身は切羽詰まっていた。



ニブルム国圏内のとある街。そこには今、大きな問題が発生していた。


最初に発見されたのは、今から一ヶ月も前の話。


街の人間が、街からそう離れていない場所で遺体となって見つかった。その遺体は、頭は潰れ、内臓は引っ張り出され、見るに堪えない姿で発見された。


まるで、内臓を何かに喰われたように、腹が裂かれぐちゃぐちゃにかき混ぜられていたらしい。


それを見た街の人々は、凶悪な魔物が近くに居ると考え、ギルドに依頼。ギルドランクCのチームがそれを受け、捜索を始めた。


3日後、最初の遺体と同じ様に、内臓をかき混ぜられた、ギルドメンバーが発見された。チーム全員が全員、同じ様に死んでいたらしい。


その後もギルドメンバーを派遣したが遅々として進まない捜索の中で、ただ一人だけ帰ってきた者が居た。腕が千切れ、全身を血に染めた彼は、身体を引きずりながらギルドに戻ってきてこう言ったそうだ。


「人影が、仲間を食べた」と。


その後まもなく、彼は息を引き取った。そうしてこのギルド支部では手に負えないと考え、この国の最大規模のギルド支部であるここに、依頼を回してきたと。


「……どう見ても試験として扱うべきじゃない案件な件」


「今朝届いた出来立てほやほやの依頼だ。これについては私もできるだけ早く処理すべきだと考えていて、私が向かうつもりだった。ただ、相手が未知数過ぎて、私でも不安が残る。そこにタイミング良く来た君にも手伝ってもらおうと思ったんだ。ランクA相当の依頼だが、私も付いていくし問題無いだろう」


「キリエルさんも?」


「勿論。いくら力の一端は見せて貰っても、君一人に任せるわけにはいかないよ。これは私が受け持つべき問題だからね」


よかった、こんな依頼は僕一人ではこなせない所だった。


「破壊なら任せて」


ぐっと拳を握って僕はそう言った。そのくらいしか僕には出来ないので。調査そのものは彼頼みである。


「うん、期待してるよ。ただ、事あるごとに必要無い所まで壊さないように」


失礼な。基本的に僕だって弁えてますから!



そんな感じで、首都に来て2日目。まだ観光もそれほど出来ていないというに、早速首都から長いこと離れる事になった。


今回は、キリエルが個人で所持している竜車に乗って行くらしい。距離は僕がほぼ全力で走って2日間ほどで、少々遠い。キリエルの竜車に乗っても4日掛かるとのことだ。キリエルも居るため全力で走る事も出来ず、仕方なくのんびり行くことになった。


所持品は全て常備しているので、食糧以外の準備はいつでも出来ていた。それを聞いたキリエルは、傍に置いてあったジェラルミンケースを抱え、直ぐに行動を開始した。因みに、ギルド経営は試験試合の審判をしていた女性に任せたらしい。


そういう訳で、僕は寒空の下、ガタガタと不規則に揺られる竜車の中でレイアから貰った魔術書を読んでいた。御者としてキリエルが御者台に座って竜を操っていた。


地竜の地を強く駆ける足音と、車輪が地面を転がる音だけが聞こえる中、僕は魔術書を閉じた。


「飽きた」


一つ呟いて、空を見上げた。


雲一つない蒼穹の中、真上からギラギラと世界を照らす太陽が、冷たい空気を僅かながら温めていた。


「太陽、月、星」


魔力があっても、生命体が存在できる世界というのはどこも然程、変わらないらしい。


光と熱を与える太陽と呼ばれる恒星に、生きる為の最重要存在、水と酸素が溢れる世界。


一つ違うのは、月の様にこの惑星を回る衛星が二つあることか。


蒼い方の衛星を始星。

緋い方の衛星を終星。


始まりの蒼い星には世界に魔力を与えた精霊が。

終わりの緋い星には世界に与えた魔力を集める精霊が居るとされ、信奉されている。


この世界に、神という概念は存在しない。しかし、代わりに「精霊」と呼ばれる概念が実在していた。


この世界における魔力とは、それら精霊が我ら人間に与えて下さった特別な力なのだと。


随分と人間に偏った信仰である。他の動物も基本的に魔力持ってるんですけどね、使えないだけで。


「うん、そろそろ昼だね。一度休憩しよう」


キリエルは僕と同じように空を見上げると、そう言って地竜を操った。


竜車が止まった位置を中心に、首都に行く竜車の時に張ったのと同じ結界を、視覚化しないで張る。キリエルは魔力感知が出来るだろうし、わざわざ視覚化させる必要も無い。今回は2人しか居ないので少し狭めだ。


「……これは、結界魔術、か?」


発動した結界を見渡して、キリエルは呆然と呟いた。彼は眉を強く寄せて、結界の境界線の前に立ち、見えない結界を睨みつけるように見た。


「こんな簡略化された文字で、この規模な上ここまでの質の良い魔術が使える…?そんな馬鹿な、様々な魔術師が、いくら試行錯誤を重ねても、現在定型化された以上にはいまだに簡略化出来ていないのが魔術だぞ?」


魔術とは複雑な文字と絵を描く。それを簡略化するというのは、魔術を発見、作成した者から見れば至極当然な目的だと言えるだろう。


「……これは、本当に魔術か?君の異能ではないかい?」


結界から視線を外し、彼は僕を見る。その目は真剣な光を宿している。


「……私は、ルーン魔術って呼んでる。異能とは別だと思う」


確かに、現在存在する魔術とは一線を画す力を、ルーン魔術は持っていた。


この記号染みたルーン文字は、全く複雑ではない文字だ。この程度の文字を、何百年と簡略化を目指してきた魔術師が気づけないとは思えない。


しかし、僕には確かにこの魔術が使えている。


前世では僕と行動を共にすることなんて無かったので、他人が使えるどうかを試した事は無かった。なら…。


「じゃあ、ひとつ教える。これが貴方にも使えるのなら、ただの魔術かもしれない」


「良いのかい?君の家に伝わる秘技じゃないのかい?」


「そんな、大層な物じゃない」


多くの人に伝えるつもりも無いのだけれど、自分以外にもルーン魔術が使えるのかは疑問に思っていた。良い機会なので試してみるのも手だろう。代理でもギルドマスターだ、魔力の操作は優れているだろう。


「ルーン魔術は、僕がさっき使っていたようにルーン文字と呼ばれる文字を使った魔術」


鞄から取り出した紙に「く」とよく似た文字を書く。キリエルにも横から見せながら、口頭で説明すると共に字を書き込んでいく。


「これはカノって読む。松明の火や、開始って意味がある」


「一つの文字で、2つの意味があるのかい?」


普通の魔術は、様々な文字や絵を組み合わせてようやく一つの意味を持つことが多い。本来、数秒数分で描けるものではない。だからこそ、魔術師は簡略化をしようとするし、数時間かかって作った魔術を用いて戦う者はそう居ない。


「2つに限らない。ルーン文字は、一つの文字に色んな意味がある。その意味も、解釈によって大きく変わっていく」


「解釈で、変わる?」


「そう。例えば、このカノ。基本的な意味合いは、松明の火や開始。松明の火。これは何に使うもの?」


「松明の火といえば、暗い場所を照らす使い方が普通だろうか?」


「うん。暗い場所を照らす。転じて、見えない物を見えるようにする。このカノは、そういう効果の魔術に変えられる」


探し物を探す、というよりかは、隠れた物を探す魔術だ。


尤も、解釈を拡大させればさせる程、その効果は弱くなるし消費する魔力も増える。


「一つの文字で、多くの意味。それも、解釈を変えれば更に様々な効果を持つ魔術になる。本職の魔術師がそれだけ聞けば、笑って馬鹿にするだろうね」


「あとは発動に必要な魔力量で文字を描くか、文字を描いた物質に魔力を込めた後、自身のイメージする解釈を思い浮かべて、kano、と口に出して唱えれば良い」


「口に出す必要があるのかい?」


「そう」


ライラやオッツォに渡した「常時起動型」、それと騎士団の男とティルダに渡した「自動起動型」と呼んでいるこの二種類は、僕が唱えた後に渡している。


「私がやってるのはそれだけ。今回は複雑な解釈はしなくて良い。kanoを使って松明の火を起こす、そんなイメージで試してみて」


「了解。それじゃ、やってみようか」


キリエルはカノの特徴を書いた紙を見る。それからゆっくりと、魔力を指先に集めて宙に文字を描き始めた。


茶色がかった黄色の魔力で描かれた文字が、世界に干渉する。


松明の火(kano)


しかし、なにもおこらなかった。


「……うーん?」


「何も起こらなかったけど、これで間違いはないのかい?」


「多分」


いつも僕がやってきたのと同じように試したはずだ。



その後何回も試したが、良い結果は得られない。


「ふむ、発動する気配すら無いね。ということは、これはネラ君だけに与えられた異能なのか、もしくは適正か何かが必要なのか。情報が少な過ぎるな」


あるいは、異世界から来た魂でないと使えない、とかだろうか。こんなことならレイアにも一度試してもらえば良かったか。


なんとなしに僕は、キリエルが書いた発動の気配を見せない魔力文字に近付いて手を向ける。


「《松明の火(kano)》」


瞬間。キリエルの茶色がかった黄色の魔力が、紅の炎へと存在を変え、宙を燃やした。


「……ふむ?」


空中で浮かぶ人の頭程の大きさの炎を見ながら、僕は首を傾げた。


僕の魔力である必要はなかったのか。初めて知った。


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