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第13話【はじめてのぎるど】

休憩前とはうって変わってのんびりとした進行で、休憩から数時間。


竜車一行の目の前には、ニブルム国首都があった。


「ここがニブルム国首都……」


首都の周囲は山が連なっていて、なにかあったら雪崩で全て潰れてしまいそうだ。大丈夫なのだろうかこれ。


周辺の山の中でも一際高い山の麓に、大きな城らしいものが見える。この国の王城か。


冷たい風が露出している頬や肩を撫でる。変質で色んな耐性がある上、魔力で強化しているから寒くはないが、魔力を切ったら流石に寒そうだ。


荷台から首都を見回していると、ティルダさんが隣に寄ってきた。


「ねぇ凄く気になってたんだけどネラちゃん、そんな薄着で寒くない?この筋肉バカとは違うんだし、女の子は身体冷やすのはだめよ?」


「誰が脳まで筋肉だ!」


「大丈夫、身体強化してるから。魔術もあるし」


「魔術、便利ねぇ。私には小難しくて訳分からなかったわ。そんな小さいのに本当に凄い」


精神的には大人だ。いや、精神年齢は大人だが、肉体年齢で大人になったことは無いから大人とは言えないかも知れないけれど。


「私には死活問題だったから」


闇以外の魔法を使えない僕の補助に必要不可欠なものだ。多分、ルーン魔術を知らなかったとしても僕は魔術師になっていただろう。


「もしかして、魔法を使えないの?」


「そう」


「なら、私が教えてあげるわ!魔術師だし魔力操作は問題ないよね。なら精霊様に干渉できるように…」


張り切って教えようとしているティルダさんには申し訳無いが、正直に言おう。


「私は、精霊に嫌われてるから」


「精霊様は沢山種類がいるわ!きっとその中の1人くらいは好む精霊が」


「何度も試した。それで理解した。私の魔力は精霊に嫌われてる…というより苦手がられてる。地竜が逃げたように」


昔、前世に何度も何度も試した。結果は勿論全滅だ。干渉はおろか、近付くことさえ不可能だった。


それを聞いたティルダさんは気まずそうに頬を掻くと、頭を下げた。


「えっと……ごめん」


「別に」


少し、苛立ったのか。意識していなかったが、僕は素っ気ない返しをして、首都に視線を移した。


魔法が使えない。そのことは勇者として召喚されたあの頃、衝撃的な事実だった。特殊な力も無く、魔法も使えず。あるのは扱い切れない膨大な魔力量だけ。失敗作とされた僕は、最終的に強制的に言うことを聞かされる奴隷の首輪を嵌められた。


あの頃、今のような女の身体じゃなかったのが最悪の中の幸運だったか。前世なら考えないような事がふと浮かんだ。


後ろから飛んでくる気遣うような視線を無視しながらそんな物思いにふけっていると、竜車が止まった。その後すぐに商人さんの声が耳に届く。


「はい、無事首都に到着いたしました。皆様、お疲れ様です」


その言葉を聞き、僕は荷台から飛び降りて商人さんと向かい合った。


「商人さんも。お疲れ様、です。ありがとうございました」


「いえいえ、ネラさん、冒険者頑張ってくださいね!」


「ん」


頭を下げて挨拶を済ませ、僕は荷台から離れた。さて、まずは、ギルドに向かおうか。


「おお待て待て、これからすぐギルドに向かうつもりか?」


「うん」


後方から暑苦しそうな声。オッツォだろう。身体は前を向けたまま首だけ後方に傾けた。


大きな身体に隠れて、ティルダさんの姿が僅かに見えた。少し気まずそうに目を伏せている。まだ荷台の中の話を気にしているのだろうか?別に気にしていないのに。


「俺が案内してやるぜ、ついてこいよ」


「……知ってるの?」


「おう、元々ここを拠点にいろんな仕事受けてたからな。ホーム同然だぜ」


「でも、必要無いかな」


自信満々にカッコつけていたオッツォの顔が愕然とした表情で固まる。


いや、だってさ。


「ギルドって基本、街の出入り口周辺に建てられてることが大半だから、ほら」


首都の入り口からそう遠くない位置で竜車から降りたので、ギルドはすぐに見つかった。


また、非常に大きな建物と看板も、分かりやすかった。剣と杖が交差した絵が描かれた看板。あれがギルドの証だ。


「そ、そうだったのかぁぁぁ!!そうか、どうりでどこのギルドでも簡単に辿り着けると思ったんだ!」


うおおおおお!と騒がしく頭を抱える強面に、通りすがりの人がびくりと肩を震わせた。馬鹿がごめんなさい。無駄に大きな身体の陰から出てきたティルダさんが、呆れて眉間を摘んだ。


「なんで知らないのよ……。先輩という名目丸潰れじゃない」


「今更」


「……それもそうね」


認めちゃうんですね。今の少しの会話で、ティルダさんは少しだけ緊張もほぐれたらしい。大きく深呼吸した彼女は、最初にあった頃と同じような目に戻っていた。


「まあそれは良いわ。この馬鹿は頼りにならないかもしれないけど、もし何かあったら遠慮せずに聞いて良いからね。先輩というのは後輩を育てるのもお仕事だから!」


「ん、その時はよろしく」


「うん、それじゃ入るわよ。それと、貴方なら問題ないでしょうけど、一応忠告。あんまり騒ぎになるような事をすると、冒険者資格剥奪の可能性もあるから気を付けて。勿論、正当性のあるものなら注意だけで済むでしょうけど、無いに越したことはないからね」


「うん」


暴力を振るうことを良しとしない、日本人らしい気弱だが慎み深い気質は相変わらず持っているから、問題は無い。それに拘束と防御の術式もあるし、自分にも相手にも怪我を負わせず、静かに鎮圧できる自信はある。


ギルドの大きな木の扉を開く。寒さ対策に扉は二重になっていた。また、二枚目の扉には防寒の術式が貼ってあるのを確認できる。


ギルドの中は、夕方という時間も相俟ってか混み合っていた。受け付けらしいカウンターに立つ3人の職員が、忙しそうに冒険者らしき人達の相手をしている。


「賑わってる」


「そうね、そういえばそういう時間帯だったわね。とりあえず、先にギルドについて説明しておくわ。ギルドについてどの程度知ってるかしら」


「ギルドの大まかなシステムくらいなら知ってる」


「なら、ギルド内の構造ね。1階はこのように依頼の受け付けとか冒険者への依頼斡旋、それと依頼を出すのもここでやってるわ。2階はギルドマスターの執務室や資料室、応接室などの重要なものが纏まってる」


「最後に地下だな!地下は訓練場になっていてな!受付に申請すれば誰でも使えるようになってるぜ!」


巨体がずいっと前に出てきて、地下に続いているのだろう階段を指差しながら言った。五月蝿い。


「こんな感じね。このギルドの構造は、どの支部でも基本的に変わらないから、覚えておいて損は無いわ」


「分かった」


なるほど、どこの構造も同じとか分かりやすくて良いな。


「それで、ギルド登録はこっちよ。依頼の斡旋と報告は同じ所でやるけど、ギルド登録は別の受け付けよ。時間も掛かるしね」


ティルダさんが歩きながら説明する。時間が掛かるのか。何をするんだろう。


「基本的には貴方の個人情報を紙に書いて、その後、自身の証明か、推薦、もしくはお金を払うんだけど…大丈夫?」


「文字は書けるし、推薦状がある」


「そう、それなら良かった。続きだけど、その後にギルドランクを決めるわ。基本的に最下位のFランクなんだけど、推薦があった場合や、本人が試験を希望した場合、試合をして、その判定でランクを決定するの。これが時間がかかる原因ね。それでD以上のランクを認められた場合、仮ランクというものになるわ」


「仮ランク?」


仮免許みたいなものか。


「そう、まだ信用が足りないからね。例えば、試合でCランクと判定されれば、仮Cランクとなるわ。仮ランクでは、そのランクまでの難易度の依頼を受けられる。正式ランクでは一つ上の難易度も受けられるんだけど、仮ランクでは無理ね」


なるほど。


「仮が外れて正式にそのランクとして認められるのは、問題行動を起こさずとにかく依頼をこなして信用を上げることね。問題無いだろうとギルドが判断すれば、最終試験をした後に仮が外れるわ」


ここね、とティルダさんは立ち止まる。1人だけ居る女性職員さんを見ると、彼女達はニコリと笑って会釈した。こっちも会釈を返す。


「最後に、貴女なら試験を受けるだろうから言っておくけど、Cランク以上のランクを取ることをお勧めするわ。ここ一帯の魔物はそれ以上のランクだから、魔物討伐は最低でもCランクが必要になるからね」


それ以下となると雑用くらいしか無いわ、とティルダさんは言った。ふむ。


「高いランクを最初に取って驚かれるのはどの辺りから?」


「Bランクね。私達もBランクになるのは苦労したし、最初からBランクなんて殆ど居ないわ」


なら、そこを目指してみよう。


「あとは……大丈夫かしら。それじゃ受付さん、この子、ギルド登録希望だってさ。あとはよろしく頼むわ」


「はい、任されましたティルダさん」


さすがここを拠点にしてるBランクというべきか。どうやら受付に顔を覚えられているらしい。


「それじゃ、私達は依頼の報告後に、ギルドの隣にある酒場に居るわ。何かあったら訪ねて来るのよ」


「おう!先輩に任せろよな!」


黙ってついてきていたオッツォが先輩風を吹かせるが、脳筋に用はありません。期待もしません。


「いままでありがと。これはお礼。防御の術式を込めた魔術石」


僕は鞄から取り出した魔術石をティルダさんに渡した。


「あら…良いの?貴女のあの力が入ってるのなら、私がお金払ってでも買うわよ?」


「いいの。次は買ってもらうから」


「そう、それならありがたく頂いておくわ」


さて、じゃあ登録を――


「俺はなにも無いのか…」


何気ない調子で登録に向かおうとした僕に、項垂れて小さく呟く声。オッツォだ。


「貴方何もしてないじゃない」


「ねー」


チラチラと魔術石を見せびらかして煽るティルダさんに、便乗する僕。まあ、勿論冗談である。


「はい、オッツォ。その大剣の柄にでも結んでおけば良いことあるかも?」


オッツォに渡したのは、漆黒のリボンだ。リボンにしたのは嫌がらせもあるが、大剣につけるのに一番楽だと思ったからである。


「おおお、ありがとなネラ!…あれ、ティルダとは違うのか?しかもこれ、女性用のリボンに見えるんだが…」


「組んだ術式も違う。術式の中身は……秘密。でも」



「でも?」


「それ、あなた自身に直接付けるのはオススメしない。直接付けて良いのは、貴方が死にかけた時に限った方が良い」


リボンに組み込んだルーンは、《野牛(uruz)》のルーン。意味は力強さや生命力の意味を持つ。


ライラに渡した石に組み込んだルーンの一つで、滋養強壮の力もある。


ウルズはエネルギーを与える魔術だ。だが、いや、だからこそ、エネルギーが足りてる人にエネルギーを与えると、エネルギーが多すぎて暴発する可能性がある。結果、有り余って感情が高ぶらせハイテンションになって色々と悪い事をしてしまうかもしれない。


本能のままに。それが、ウルズの本質なのだ。


「なんでだ?」


「色んな人に嫌われるかもしれないから」


まあ、良くも悪くも効果が強いのだ。正しく使えば薬になるが、間違って使うと酷いことになる。


「よく分からないが、とにかくピンチにならない限りは大剣に巻いとけってことだな。分かったぜ」


「役立ててね。それじゃ、そろそろ登録する」


「ええ、またね」


「またな!」


手を小さく振って、彼らがもう一つの受付に行くのを見届けてから、改めて登録を担当している職員に向き直った。


「お待ちしておりました」


なんか凄い言葉に棘がある!ごめんなさい!


「では、まずはこの紙にあなたのお名前、年齢、生年月日をお願いします」


「はい」


逆らわずに、僕は受付の人から紙とペンを貰い、中身を書いていく。この世界で一般的に使われているペンは、筆のペンだ。インクも必要なので面倒臭い。


書き込んだ紙を受付の人に渡すと、パパッと洗練された動きでそれを確認。


「ネラ様ですね。それでは、身分を証明できるもの、あるいは推薦状はお持ちでしょうか」


「推薦状があります」


鞄から取り出したレイアの手紙を出すと、「お預かり致します」と受付さんが言って受け取った。


受付さんはその手紙の封蝋を確認して、訝しげな顔をして、次にひっくり返して裏を見た。その瞬間、彼女はまるで時間が止まったように固まって動かなくなった。


「………ふー……」


ようやく動き出したと思ったら、なんか妙に長い息を吐きながら、眉間を指で揉み解している。そうして改めて手紙を確認して、また目を瞑った。すごく挙動不審である。1分くらい経ってから、ようやく目を開けた彼女は、こちらに目を向ける。


「……すみません、少々お待ちください」


「はい」


まあ、こうなるとは思ってました。


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