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第11話【少女はかくて竜を追う】

更新再開。

しかし、この小説を始めに投稿してからもう一年。

しかし頁は13。……はい、がんばります。

竜に逃げられた。




より具体的に言うと、竜車の人に金を払い、最後に僕が乗ろうとした途端、地竜が唐突に嘶いて走り出した。流石の不意打ちで乗ることが出来なかった。


予想外過ぎて茫然とする僕。

竜車に乗った人が驚く表情。

御者が必死に竜に叫ぶ声。

逃げる様に必死に走る竜。


いったい何がどうしてこうなった。



順を追って話していこう。


ライラ達と別れて、北西の街に向かった僕。その途中に出会った魔物を倒し、大分この体の戦闘に慣れてきた。


王国から出た事で心に余裕が出来たのだろう、今までよりもずっとのんびりと歩みを進めていた。


ライラ達がいた村と比べて、大分涼しくなってきた。点在する村の家々も、寒さを想定しているだろう造りが増えてきている。


ここら一帯の魔物は寒さに順応するためか、皮膚や脂肪が厚く、毛が多い種類のが多くなってきた。初めて出会った熊と同等、あるいはそれ以上に厚い皮膚と毛を持った魔物。そういえばあの熊の召喚主はなんだったんだろう。実をいうとあそこまでの巨体はそう居ない。ここらでもほぼ見ることはない程だ。


なるほど、これは王国の騎士団ではどう見ても無理だ。しかも、このレベルの魔物ばかりで、数も少なくない。一体召喚されただけの熊にあれほど手こずっていた騎士団では簡単に負けそうだ。


ヴォウ!と唸って襲い掛かってきた犬だか狼かの形に似た魔物の側頭部に回し蹴りを叩き込む。


「あ」


つもりで、タイミングを誤った。大振りの回し蹴りを空振りして、隙だらけの背後を襲われる。咄嗟に腕で頭を庇いながらわざと身体のバランスを崩して倒れ込むが、間に合わずに腕に魔物が食らいついた。


ミシリ、と腕から嫌な音と共に、強烈な痛み。鋭い牙が深く突き刺さっていた。このまま噛み千切るつもりか、魔物は腕から離れようとしない。


「ぎ、ィ……ッ、」


しかし、腕を離さないのなら好都合だ。


痛みを歯を食いしばって耐え、離さないようにもう片方の腕で魔物を抑え付けると、食らいつかれた腕を地面に叩きつけた。


当然、腕に食らいついていた魔物は地面と腕の下敷きになり、押し潰される。その衝撃で力が抜けた顎から腕を引き抜くと、叩きつけた衝撃で動けない魔物の頭を即座に踏み潰した。


「……ふぅ」


慣れてきたんじゃないのかって?ごめん、見栄を張りました。何度も戦って理解したが、この13年間の平和ボケした時間の内に前世の戦闘経験すらすっかり鈍らせてしまっていたようだ。



戦闘経験を積むには戦闘しか無い。わかりきったことではあるが、技量が非常に高い者の場合、それが難しい。その技量に対抗できる者というのが限られてくるからだ。


対して、僕の場合は、戦闘経験での慣れと魔力による身体能力に頼ったゴリ押し戦法。つまりその身体能力の強化を抑えれば、相手と同じ土俵で戦えるのだ。


まあ、同じように自身の能力を落として実戦を行うのは非常に危険が伴う。もしもの場合に対応できるよう、味方が必要だ。ましてこの世界の魔法は、ゲームや漫画と違って瞬時に身体を治すような魔法は存在しない。


その点においても、ラグはあるものの再生能力を持つ僕だからこそできる事だ。流石に心臓や脳を潰されると僕も死ぬが。



再生が完了した腕をぷらぷら振りながら歩みを進めていると、ようやく目的の街が見えて来た。


大きな街だ。魔物が多い為なのか、ガタイが大きな人を多く見る。怖…。それと、気温が低いので着込んでいる人が大半だ。僕の様に肩や太腿丸出しで薄着している人なんて居ない。


これは浮くな、適当なコートでも購入しておくべきかと考えたが、やめておいた。服は全体的に高価なので、パドレに貰ったお金を使ってしまうと後が大変になりそうだ。


街に入った僕は、好奇の視線に耐えながら、聞き込み開始。


適当な果物屋さんに話を聞く。そういえば果物売ってるのね。どこから仕入れているのだろう。


「首都に行く竜車?あんた、タイミングが悪いねぇ、今朝方出て行ったばかりだよ」


なんと。


「……次に竜車が出るのは何時(いつ)です?」


「5日後、首都からの竜車がここに来るよ。それから2日後に再度首都に向かうはずだ」


「7日後……タイミング悪い。なら、ここらにオススメの宿とかありますか?」


「宿なら、竜車に乗る人達がよく泊まる所があるよ。ただ……一人で大丈夫かい?あんたみたいな可愛い子は、何か酷いことされるかもしれないよ」


「それはどこに居ても同じじゃないかな…」


それにしても、僕はそこまで弱々しく見えるのか。まあ、達人みたいな立ち振る舞いとかは確かに無いけれど。


ルーン魔術で作り上げた炎を見せて、ただの小さな女の子ではないと言う事を果物屋さんのおばさんに見せる。


「私、魔術師だから」


「おや、それはまた珍しいね。ということはもしかして、首都にギルド登録へ行く気かい?」


「うん」


ギルドの支部というのは、首都以外にも、様々な所に点在している。ただし、ギルド登録そのものは首都でしか出来ないのだ。


「うーん、ここら辺の魔物は強いから、冒険者の始まりの街としては厳しいよ?」


「これでも一人でこの街に来た。襲ってきた魔物も倒した」


腕に噛み付かれたりしてボロボロになったけれど。


「へぇ、見た目に寄らず強いのかい」


「証拠、見る?」


信じてないようにすごく訝しげなので、鞄を探る。しかしまあ、冒険者であってもソロ活動なんて馬鹿はほぼ居ない。本当にそれだけ強いか、或いはただの過信した馬鹿だけだ。


ここら一帯は魔物の肉を主食にしているらしいので、血抜きして腹割までした魔物を凍らせて何体か鞄にしまい込んでいる。拳ではこんなことできなかったので、ナイフ様様である。


「ん」


正方形の氷に凍らせた魔物を鞄から引っ張り出し、横に置いた。頭と胴が分けられたままなので、結構グロい。


おばさんは物怖じせずその氷に近付いて、中身をまじまじと確認して、頷いた。


「おや……本当みたい。悪いねぇ、疑って」


「仕方ない」


「それだけ強いのなら心配無用だったね。竜車待ちの宿の場所は――」



そうして教えてもらった先にたどり着いた、竜車を待つ人が多いらしい宿で部屋を取った。



☆☆☆



7日後。街の中を見て回ったり、教えてもらったおばさんと話したりして適当に暇つぶしをしながら、外に出て魔物との戦闘経験を増やしていった。


ギルドに登録する前にこの戦闘経験を積めたのは、むしろ好都合だったかもしれない。流石にもう自分のリーチを勘違いする事も無くなり、強化を抑えた身体でも余裕が持ててきた。


竜車を操る商人には既に話を通している。竜車が停まっている近くに立つ商人に、改めて挨拶をする為近付いた。


「……おはようございます」


「おや、おはようございます。貴女は確か、ネラさんでしたね」


「…はい。よく覚えていますね」


「商人ですから」


僕には商人は絶対無理そうだ。この人の名前なんだっけ。


「それに、あなたみたいな礼儀正しい人は珍しいですからね、とくに可愛らしい女の子が一人でなど」


あらやだ、この人も私の身体が目当てかしら。


「心配は無用。今日は宜しくお願いします」


「お任せください。無事に首都までお届けしましょう」


綺麗なお辞儀をした商人さんは、僕に断ってから、荷物の確認と乗る人数の確認を始める。


それから視線を外して、僕は荷車を引っ張る2体の竜を見た。


竜種の中でも、地面を駆けるのに特化した竜である地竜。


黒く艶のある鱗に全身を包み、端整な顔立ちにある琥珀色の瞳は理知的な意思を感じとれる。風の抵抗を受けないようにか、スリムで流線状な肉体。地を駆けることに特化した四肢は、筋肉が発達しているが無駄なく引き締まっていた。


竜、かっこいいなぁ。


ファンタジーモノ好きとして、竜や龍というものは憧れの代表格だ。


遠目から眺めていると、商人さんがこちらに戻ってきた。


「さて、貴方以外は全て荷台にお乗りしました。すこし窮屈かもしれませんが、ご了承ください。貴方が乗ったら、直ぐに出発します」


その言葉を聞いて僕は頷いて、竜車の荷台に近付く。竜車に乗るのは初めてだ。ワクワクしながら、何かあったら行けないと魔力を解放、身体能力に回す――



途端、竜が何か嘶くような声を出すと共に、竜車が視界から消えた。



「………うぇ?」



ここで、冒頭に戻る。


物凄い勢いで離れていく竜車を、僕は暫し、呆然と見つめていた。


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