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翌日、ブリティッシュに頼んで置いたアクト=ファリアナから鉱山都市カルタゴ、カナンサリファ、首都キルバレスまでの交易品目を確認する為に《ハインハイル交易ギルド》本部へ行くと、思いもしない提案を受けた。
「これまでの交易ルートとは違って、特にこの鉱山都市カルタゴまでのルートとカナンサリファまでのルートは、野党が多くとても危ない。だから少なくとも、傭兵を10~15名は雇った方が良いよ。
しかし傭兵を1人雇うのに、1日最低でも銀貨20枚は必要になる。15人だと銀貨300枚だ。それが10日で銀貨3000枚だからな、正直一人では負担が大きいと思う。
そこでだ。これはあくまでも一つの提案なんだけど……このルートを使う場合には、複数人の商人と組んで商団を作り行くのが最も効率が良くなる。それは分かるね?」
アヴァインはその話に納得し、頷いた。確かに、この北部の街道ルートにはキルバレスの監視の目が行き届いてなく。その為に、野党が多いとの噂を以前から耳にしていたからだ。
「そうか、それは良かったよ。
実は、うちのハインハイルにこの件を話したらね。『是非一緒に!』と言い出したんだよ」
ブリティッシュは近くのソファーに座るハインハイルを軽く指差し、ため息混じりでそう言ったのだ。見ると、ハインハイルはにこやかに手を軽く上げている。
そんなハインハイルをブリティッシュは横目に見て、吐息をつき。それから頬杖をついて、口を開いた。
「まあ……大して、役には立たないだろうがねぇー」
「おいおい。そりゃあーないだろうー!! 経験じゃ、この私の方が断然上なんだぞ!!」
「経験だけなら、ねぇ~……。しかし才覚では、どうなんだか……。
頼むから、ギルド(うち)のエースであるアーザインの足を引っ張らないでおくれよ」
「そりゃあーあんまりだ!」
そんな2人の会話を聞いて、アヴァインは思わず吹き出し笑いそうになった。
「いや、ブリティッシュさん。私としては、経験豊かなハインハイルさんが商団に加わってくれるのは、この上なく心強い限りですよ」
それを聞いて、ハインハイルは「ほらな♪」って得意気な顔をブリティッシュに向けている。
ブリティッシュは、「はいはい」って顔をして頬杖をついたまま他所を向き。それから改めてこちらを向いた。
「交易品目の相場は、もう〝コレ〟に渡してあるから。あとは2人で相談し合って決めておくれよ。
それから、アーザイン」
「はい?」
「うちのハインハイルは、直ぐに調子に乗るタイプだから。余り調子付かせない様に……。
それと、女癖も悪いから、浮気していないか悪いけど見張っといておくれ」
「ハハ♪ 分かりましたよ。そうしておきます」
「そりゃあーないだろう!? アーザイン!!」
そう言って不満顔をするハインハイルを、ブリティッシュはディステランテ・スワートの娘であるルシリエール・スワートですらも青ざめる様なヘビ顔をして睨んでいた。
それを見て、「じゃ、ま! 行って来るわ!!」とハインハイルはアヴァインの手を颯爽と握って、ヘビ顔のブリティッシュが居る部屋を慌てて出た。そして部屋を出るなり振り返って、今にも泣きそうな顔で抗議してくる。
「アーザイン。お前だって男なら、分かるだろう~?!
華の首都キルバレスまで行って、何の楽しみもなく帰って来るなんてそんなの男のすることじゃあーないぞぉー!」
力一杯そう言って来るハインハイルの言葉を聞いて、アヴァインは頭を掻き掻き困り顔で返した。
「だけど、ブリティッシュさんの様な美しい女性が居るのに浮気なんかしてたら、その内に罰が当たっちゃいますよ?」
「それは、ソレ。これは、コレだ♪」
「なにが『ソレ』で。どれが『コレ』だってぇ~?」
見るとギルドマスターの部屋の扉が開いていて、そこからブリティッシュがさっき以上のヘビ顔で睨んでいたのだ。流石に今度のは本当に怖いぞ……(汗)
「いいや!! 私はただ、アーザインに男の生き様ってモンをだなぁー(汗)」
「ほぅ……。でぇ~、何を聞かされたんだい?」
「……え?(汗)」
ブリティッシュは、『正直に話さないと許さないよ』って顔をハインハイルではなく、何故かこちらに向け見せていた。そんな顔をされても正直、困ってしまう……。
見るとそのブリティッシュの向こう側で、ハインハイルは『頼むから、ここは黙っててくれ!』って顔を両の手を合わせて向けている。それはそれで、また困ってしまう……。
まあ、困った時には。素直に正直にあるのが、結局のところ一番だしなぁ……? 経験的に、だ。
「えーと……ハハ♪(汗) 華の首都キルバレスでの過ごし方を……ちょっと」
『───!!?』
「───バっ……カ!!」
次の瞬間、《ハインハイル交易ギルド》内は大騒動となり、アヴァインを含めその場に居合わせた十数名全員が慌てて一斉に扉へと手と足を使って向かい走り出し、椅子やガラス食器など色々と飛んで来る大広間から逃れる様にして我先にと皆逃げ出す始末であった。




