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―7―

『そこでだ、アヴァイン。君には一つ、頼みたい事がある』 

『頼み……ですか?』


『カルロス技師長を含む。《科学者会》の身辺警護を、君にやって貰いたいんだ』


 その時、ソファーに座るフォスター将軍の様子は、両手を口の辺りに置き、実に真剣な表情そのものだった。どうやらいつもの冗談の部類ではないらしい。


『それでは、あのぅ~《パーラースワートローム》の方は?』

『ああ急なことで悪いが、今回の遠征軍からは外れて貰う……って、なんだよ。その露骨に嫌そうな顔は? そんなにも不満なのかぁ?』


 「そりゃあ~、不満ですよ!」なんてバカなこと、上官に対して言える訳がなく……。



『あ、いえ! それは……そのぅ~…』


 アヴァインは適当に断る理由を捜していたのだ。が、


『ああ、ハハ♪ そうか、そう言えば君は確か……パーラースワートロームに大変な興味がある御様子でしたからねぇ? アヴァイン君♪』

『――え?!』


 誰かと思えば、カスタトール将軍だ。その表情は見るからに、実に愉快そうで参る。


『ほぅ……そうなのかぁ? アヴァイン、そりゃあ初耳だぞ! 

直属の将軍がなにも知らず、カスタトールが知っているなんてどういうことだ? 説明をしろ、説明を! 正直いって、心外の極みってヤツだからなぁー』

『あ、そ、それはですね! たまたま……そういう話の流れがあって、であって……他意あっての事ではありませんから!』


 そう必死に言い訳をするその脇で、カスタトール将軍はフォスター将軍の後ろで、クックッと笑いを堪え愉しそうにしている……最悪だこの人。


『そりゃあお前、他意なんてあってたまるものか! 私はこれでも、お前をそれなりに信頼しているのだぞ。

それよりも、どうしてパーラースワートロームになんか興味があるんだよ?』

『ハハ♪ それがですねぇー。実は、フォスター……』


 カスタトール将軍が、愉しげにフォスター将軍に耳打ちをしている。


『──ちょっ、ちょっと! 待ってくださいよ、カスタトール将軍!?』

『妖精とか女神が本当に居るのなら、是非、見てみたいそうですよ♪ 彼』

『よう……せい?? 

──ぶはあっ! ハッハッハッハ。お前っ! アヴァイン、お前っ!! そりゃあ~、なんの冗談だぁ?』


『……はぁ…どうもすみません』


 予想通り、フォスター将軍がさも愉しげに笑っている。この前は、カスタトール将軍からも同じ様に散々笑われ、からかわれたのだ。だから言って欲しくなかったのに……。


『くく……アヴァイン、お前な。国の大事と妖精、どっちが重要なのかくらい分かるよな?』

『……』


 思わず『妖精の方ですよ……』と、ぶう垂れて当て付けに言ってやりたくもなったが、「国の……大事です」と答えて置くさ。

 少々、不満ではあったけれど……もちろん、パーラースワートロームへ行けなかったことがではなく、両将軍の自分に対するバカにしたような態度に対してだ。


『よし! だったらこれで決まりだな!!』

『まあ少々残念でしょうが、フォスター将軍からの命令です。諦めて大人しくお受けなさい、アヴァイン君♪』

『……はぁ…わかりましたよ』


『ハッハッハ。お土産に、妖精の一匹でも捕まえて来てやるから、安心をしろ♪ アヴァイン!』

『――!!』


 ──ち、ちっくしょう~~~!!!



 そんな思いもあり、初めは気の進まなかった今回のカルロス技師長の警護だったが……でも、そうなんだよな。よくよく考えてみると、こんな機会でもなければこれまで近付くことさえも適わなかった御方だ。結果、幸運だったと言える。


 その改めて思い直し、アヴァインは今になって身を引き締め直した。


 カルロス技師長への挨拶も、無事に終わり、研究室から出ると、二人の兵士が弛んだ様子で立っている様子が目に入る。しかもその内の一人は、実に眠たそうにうとうととしていた。

 これでは、何の為の警備兵なのか、まるで意味が無い。


 その様子をみて、アヴァインはなんだか急に腹が立ってきた。



「……おい!」

「は?」


「ここに居られるのは、あのカルロス技師長なのだぞ!! ちゃんと、しっかりとお守りせよ! わかったな!!」

「「あ――え? ハ……ハッ!!」」


 それで兵士が気合を入れ直したのを確かめると、「よしッ!」と力強く頷き。兵士達なんかに負けないくらい気合を入れ、肩と胸を張り、この最高評議会議事堂パレスハレスの大回廊をシャキシャキと歩きゆく――。


 しかし、それを見送った兵士の方はその後で、

「入る前は、ため息なんかついて。気合も入ってなかったのはどっちだよ……全く」と、その新しい自分達の上官を遠目にも半眼で見送り、ため息をついていたらしいと噂で耳にするが、それはずっと後の話である。



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