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その後も全く同じルートでレンタルした馬車にて交易を続け、交易の回数を重ねる度に利益は下がり。3週目くらいには、交易での利益はほぼ無くなっていた。
相場が変動してのことだろう。
アヴァインが取り扱う交易の量も以前とは比較にもならない程になっていた為、交易を行う度、格段に値下がりをしていたのだ。それでも手元には銀貨5000枚程が残り、かなり余裕が出来ていた。
「へぇー! アンタ、会員になって僅か1ヶ月も経ってないってのに、こりゃたまげた大した成績だねぇー」
「ハハ。まあ、それもこれもハインハイルさんのお陰ですよ」
アヴァインは、ギルドマスターのブリティッシュに銀貨200枚が入った袋を手渡しながらそう言う。会員は、利益の3%をギルドに収める決まりになっていたからだ。
ギルド会員は、ギルドの各支部を利用して多く交易を行っている。その為、会員一人ひとりの利用履歴がこのブリティッシュの手元には集まり、成績が一目で分かる仕組みとなっているのだ。だから、誤魔化しも実は利かない。
「はい、確かに受け取ったよ。それにしたって、アンタは正直者なんだねぇー」
「え?」
「いやね。大抵の者は、収める額を誤魔化そうとするからね。まあ、些少の額なら私もそう咎めることもなく目を瞑っちゃいるが……ところがアンタと来たら、些少の誤魔化しどころか、寧ろ多めに収めて来てるもんだから流石の私も驚いちゃったよ」
「ハハ」
ブリティッシュは呆れてるのか? それとも感心しているのか? 頬杖をつき、こちらを見つめながらそう言って来たのだ。
実は少々、気持ちわざと多めにしておいたのだ。最初のハインハイルの手紙や交易情報がなければ、こんなにも早く巧く効率よく交易で利益が上がることもなかったろうからだ。
「それはそうと、ブリティッシュさん」
「なんだい?」
「ハインハイルさんから教わった最初の交易ルートでは、もう利益が上がらなくなったので。新たに、良い交易ルートがあれば教えて頂きたいのですが……」
「ああー、それだったら。そこの大広間で、皆に酒でも奢って情報を聞いてきたら良いよ。
若しくは、ちょいと高いけど、こういうプランもある……」
そういうとギルドマスターのブリティッシュは、『ブロンド交易ルート:銀貨300枚』『シルバー交易ルート:銀貨500枚』『ゴールド交易ルート:銀貨1000枚』『プラチナ交易ルート:銀貨1500枚』と書かれたシートを広げて見せてくれた。
「これらは、日々色々な所から掻き集めた情報を元に、私なりに線を引いて交易ルートのプランを立てたモノなんだよ。だから、日によって中身も変わる。
尤も、商売は生き物だからねぇー。相場が変われば、利益も変わる。このプランに見合った利益が必ずしも約束されている訳じゃないから、そこは理解しておくれ」
アヴァインは頷き、迷わず『プラチナ交易ルート:銀貨1500枚』を選んだ。前回、これで美味しい思いをしたからだ。
一方、対するブリティッシュは迷いもなくそれを選択したアヴァインを驚いた表情で見つめ、次に呆れ顔を見せていた。
「こりゃあ~驚いたねぇー! アンタも相当な、バクチ好きだよ」
「ハハ♪ ブリティッシュ姉さんの交易ルートを信頼しているからね」
それを聞いてブリティッシュはらしくもなく、満面の笑みを見せ。
「まあー、健闘を祈ってるよ!」と言った。
それから20日後、アヴァインは銀貨600枚を持ってブリティッシュの元へ再びやって来た。
アヴァインはそのバクチに勝ったのだ。利益は銀貨で約2万枚にも上り、今その手元には銀貨19300枚ほどがある。
これには流石のブリティッシュも狂喜し、高笑いをしていた。
「アンタ! 本当に大したバクチ好きだよ。
手持ちの銀貨、毎回『全部』使っていただろう? アンタが通った交易ルートの相場が軒並み下がっていたからね! 驚いちゃったよ!!」
「ハハハ」
これはあとになって気づいたことなんだけど。手持ちの金を半分だけでも残すとか、万が一を考えて商売をやるのが無難で普通なのだそうだ。が、今回は持ち味のファーにもよく指摘され言われ続けていた単なる自分の迂闊さで、毎回全額投資をし、交易を行っていた。結果としてはそれがうまくいき、大儲けへと繋がったから良かったに過ぎなかったが。今度からはもう少し、ちゃんと考えてから商売をすることにしよう。
その事を包み隠さず素直にブリティッシュに話すと、ブリティッシュはまたそこでも大受けし高笑いをしていたのである。




