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「アヴァイン・ルクシード……ですか?」

「そうよ!」

 建設されて15年程の《政都庁舎》で、ケイリングがそこの受付で責任者を呼び付け、『アヴァイン・ルクシードは、もう捕まったのですか?!』と聞いていたのだ。ファーは、その大胆不敵なケイリングの一言目で、思わず目が点になってしまう……。

 その、それなりに偉いらしい役人は、背後の他の役所人間数人に確認するかの様に振り向いた。だが、どの役所の人も首を傾げるばかりであった。

 それでその役人はケイリングの方を改めて向き直り言う。

「いいえ。どうやら生憎と、まだ捕まってはいない様ですね」

「そう……ですか」

 ケイリングはそれを聞いて、ホッと安心した。

 そんなケイリングの様子に、役人は厳しい表情を見せ口を開く。

「ところで……あなたは、そのアヴァイン・ルクシードとはどの様なご関係の方で?」

「あ、いや!」

 これは拙い、と思ったファーは空かさず口を挟んだのだ。

「実はこの()の弟が、アヴァインって野郎から酷い目に合わされまして! それで、捕まってたらいいなぁ~と……アハハ!」

「ほぅ……それはまた、興味深い話ですね。

もし時間がお有りでしたら、少々その辺りの話をもう少し詳しくお聞かせ願えませんか?」

「あ、いえ! 捕まってない、という事ですし。それほど大した事でもありませんから!」

「大したことではない? しかし、彼女の弟さんが酷い目に合わされたのでしょう?」

「あ、いや。そう大袈裟にするほど大したことではありませんので! 私たちは、これにて! ───では!!」

 ファーはそう言い。不満顔を見せるケイリングの手を引っ張って、《政都庁舎》を出た。



「ちょっとファー! なんなのよ、一体!!」

 《政都庁舎》を出て、直ぐに曲がり角を複雑に急ぎ足で入りいき、あとを着けて来る役人数名を巻いたところでファーが吐息をついていると。ケイリングが握られていた手を振り払い、怒ったようにしてそう言って来たのだ。

「なんなのよ、じゃありませんよ! ケイ様!!

アヴァインは、手配書で追われている身なんですよ。その様な人間を、メルキメデス家の者が探しているとキルバレス本国に知られたら、どうなるかちゃんとお分かりになった上であんな軽率なことを言ったのですか?」

「それは! ……ちゃんと分かってるわよ。お父様達が迷惑をするんでしょ?」

 ケイリングはそう言いながらも、今気づいた、思い出した、という様子だった。

 ファーはそんなケイリングを見て、再び吐息をつく。

「何度も言いますけど……アヴァインは、メルキメデス家に迷惑を掛けない様にと思い、アイツなりに考えた上で去った訳ですから。その思いを少しは()み、もっと慎重に行動をなさって頂けますか?」

「だから、それは分かっているわよ。分かってるけど……さ。それにしたって、どうして1日くらい……最低でも一度くらい合って、ちゃんと説明してから行ってくれなかったの? ねぇー、どうしてよ?! ファー!」

「それは……まぁ…」

 その時は、ファーも今のケイリングと同じ思いだった。取り敢えず一度くらい顔を見せて、それからでも良いだろう? とアヴァインを一度は説得していたのだ。だけど、アヴァインはその時、こう言ったのだ。


『なにを言ったところで、あのケイの事だから。例え理解はしてくれても、直ぐに納得はしてくれないよ。きっと色々と考え、他の策を講じたり。君にも無理なお願いをしてくるかもしれないし』

『別にそれくらい、気にすることはないだろう? ケイ様が好きで勝手にやるだけの話だ。それに、私に出来ることがあるのなら、寧ろ手伝うし。今更、遠慮なんてするなよ』

『ハハ。それはとてもありがたいことだし、嬉しいけど。

でもね……そうこうしている間にも、キルバレス本国に知れて。メルキメデス家に迷惑を掛けるかもしれないだろ? それは私にとっても、ルーベンさんにとっても困ることなんだ』

『ン……。まあーそうなれば、確かにそうかも知れないが……』

『その前に、メルキメデス家の旧臣が、私をキルバレスに突き出すかもしれないしね?

だけど私は、まだ捕まる訳にはいかないんだ。ルナ様の仇を取るまでは、ね……』

『……』


 確かに、メルキメデス家の旧臣がアヴァインをキルバレスに突き出す可能性は十分に考えられる。だから、ファーもアヴァインの話を聞いて納得をしていたのだ。そして、今のケイリングの様子だ……。アヴァインが考察していたことは、今更だがつくづく(もっと)もだったなと思えてしまう。

「全ては、メルキメデス家の為であり。アヴァイン自身の為、ですよ。ケイ様……」

 真剣な表情で言ったファーの言葉に、ケイリングは(かたく)なだった表情を次第に崩していた。

 そして一言だけ、こう返す。

「ごめん……ファー。分かった……でも少しだけ、胸を貸して……」

「……はい」

 ファーは胸元で顔を埋め、必死に出来るだけ静かに泣くケイリングを見つめ、そして思う。


 アヴァイン……私からすると、お前は本当に贅沢な男だよ……。



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