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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第五章【新たなる道への旅立ち】
66/170

―65―


 迷いに迷い、ようやく人通りのある小さな城砦の街に二人は辿り着いた。

 ただここはアクト=ファリアナどころか、全く方向違いの北部にある鉱山都市カルタゴという地方都市だった。主な特産品は鉱物類で、キルバレスでも1位・2位の産出量を掘り出していた。

 そして、もう一つの1位・2位とも言われる鉱山を所有しているのが、メルキメデス家であり。実はここの元・領主とメルキメデス家とは余り、仲が良いとは言えない関係にあった。

 ここの領主はメルキメデス家と同じく、貴族員にどうにかなることが出来た。その為に、金や色々な利権を手放したらしい。権威欲に目が眩み、この地を売り自分の地位を買った、ともいえる訳だ。


「はぁ……よりによって、着いたのが鉱山都市カルタゴか。

アヴァイン、お前の不運さってのは、なんかの祟りかなんかじゃねぇーの?」

「ヒドイ言い様だなぁー……。

けど、確かに。最近、自分でもそう思えてならないほどだよ……」

 思わずそんな感想が出てしまう。

 兎にも角にも、ここまでの道中で険しい山道を越えなくちゃならなくなり、衛兵の装具は途中で邪魔に感じ投げ捨てていたので。衣服はボロボロになり、靴も指先が飛び出しちゃうような穴が開く程になっていた。……というか、飛び出していた。足指ジャンケンが出来る程に。

 アヴァインとファーは、身に着けていた装飾類を互いに出し合い。それを売り、新しい衣服と靴を揃え。それからレストランへ行くと好きなモノを互いに沢山注文し合い、久し振りに人間らしい食べ物をテーブル一杯、置けないほど目の前に並べ、2人してガツガツと食べ始めた。

 それを見て、レストランの店員やそこに居合わせた他の客達は呆れ顔を見せている。

 あれからここに至るまで、ずっと木の実くらいしか食べてなかったのだ。

「バカヤロー! アヴァイン、そりゃーオレんだぞ!!」

「なに言ってんだよ、ファー! コレはさっき、食べてたじゃないか!!」

「うるせーよ! 美味かったんだから、仕方がないだろう!!」

「どういう理屈だよ、それっ!!」

 2人はそこで「ううー!!」と唸り合い。そして間もなく、その喧嘩を止める為に、困り顔にやって来た女性店員を2人はその瞳の勢いのままに見て、同時にこう言った。


『───おかわりッ!!』

 


 この鉱山都市カルタゴで、今晩は宿を取ることに決めた。

 2人は二階の一番奥にある角部屋をひと部屋取る。

 アヴァインはその宿の窓辺から外を眺めながら、ぶどうの絞り汁を飲み口を開く。

「あの高台に建つ、屋敷は?」

「ああ、恐らくはここの元・領主であるグラート様の屋敷じゃないかな?」

「グラート様の……」

 グラート・ヒルズグレンは、確か……ディステランテ側の人だったと思う。何度か、仲良く話している姿を見た覚えがあるからだ。しかも、メルキメデス家とは仲が悪いのか……こりゃあ、この鉱山都市からも早目に抜け出した方が良さそうだ。

 そうは思っても、ここまでの道中で体中がガタガタで疲れ切っている。数日はここで、体を休めたい気持ちも相当に大きいだけに、悩ましい限りだ。

「正直、ここの元・領主は余り信用の出来る人とは言えない。その時、その時の時勢・政情を読んでは正しい・正しくないというよりも、より有利と思われる側にコロコロと流され。度々、最高評議会内でも意見を180度平気な顔をして変えている、評判の御仁だからなぁー。

今の領主に対しては、ここの住民も、実は内心では呆れて見てる、って噂もあるくらいだよ」

 そういえば、先程まで居たレストランの中でも、ここのグラート・ヒルズグレン貴族員に対する批判をコソコソと話す者たちが居たのを、アヴァインは思い出す。

「ついでに言うと。この鉱山都市カルタゴを、属州国から属国に変更しようとする動きもあるらしくてな。そうなれば当然に、ここの代表は選挙により選ばれる様になる。

所が、そうなると民衆からの支持率の少ないグラート貴族員は十中八九落選するだろうから、属国への格下げだけにはならない様にと度々ディステランテに(みつ)いでいる、って噂はある種有名な話でさ。

実際に、ディステランテ評議員と相対するグラート貴族員の様子を見る限り、その噂も単なる噂とも思えない程の()(へつら)い方らしいよ」

 

 その噂……そういえば、聞いた事があるな。


「ディステランテ評議員からすれば、グラート貴族員が結果自分の側に着けば良し。

歯向かう様なら、属国化し。グラート貴族員の対抗馬に自分の息の掛かった者を送り込ませ、当選させれば良し。

ディステランテ評議員としては、結果が変わらなければ、どちらでも構わない、って事さ」

 アヴァインは窓辺でその話を黙って聞き、吐息をつく。

「随分と、旨いコトをやるモノだな」

「まあな……これが、今の共和制キルバレスの実態、ってトコなのだろうよ」

「共和制の名が、泣きそうな話だね……」

 アヴァインはそう言い、ファーと見合う形でソファーに座る。

「何も、政治家ばかりではないさ。この国を実務的に動かしている役人だって、最近では世襲化が進んでいる、って聞く。

仕事に対する実力、というよりも。自分の好みや都合で、評価を付け上へ上げる上司も多いのだと聞くぞ」

「それはなんとも……私には、耳の痛い話だね……」

 自分ももしかすると、そうやって上に上がっていた一人だとすると。聞いてて何とも具合の悪い話だ。

 アヴァインは思わず吐息をついてしまう。

「なんだか……カルロス技師長の気持ちが。今になって、分かった気がするよ……」

「……カルロス技師長?」

 ファーは、なんとも懐かしんだ様な顔をしている。

 ファーまでもか……みんな、カルロス技師長はもう過去の人、って感覚なんだなぁ……。

 アヴァインはファーの表情を見て、そう思っていたが。ファーは意外なことを言い始めた。

「今、思うと。あの方が現役で活躍していた頃までのキルバレスが、一番、輝いていた気がしてならないな。

カルロス技師長と言えば、3年前のあの問題発言だっけ……?」

 ……3年前?

「もう、そんなにも経つのか?」

「ああ、大体その位は経った筈だよ。

それからな、この事は知ってるかもしれないが……あの件に関わった問題の女性記者。

あれは、実は、ディステランテの愛人だった、って噂だよ」


 ……愛人? それって、つまり……。


「ああ、まあーつまりはそういうコトさ。

カルロス技師長は、まんまとディステランテの仕掛けた罠に(はま)った、って訳だ。それはもう、見事な程にね。

カルロス技師長は、今にして思うと、本当に真摯的で熱いお方だったからな。ああ言えば、こう言うだろう……と、単に誘い水を注したんだろうけど。予想以上の問題発言を吐いてしまったから。その発言の中身が社会問題化し、専門家が注目を始める前に、3年間の謹慎という処分を素早く行う事でそれを回避しようと試みた。

ディステランテ評議員からして見れば、あれは妥協の裁断だった、ってなる訳だ」

「というと、ディステランテの本当の狙いとしては。カルロス技師長の元老としての資質を問う事で、本人自らの辞職へと追い込むのが一番の目的だった、って訳か?」

「ンー……まあ、『そうなんじゃないか?』って程度の、噂だけどな」

 ファーは前屈みに話していたが、急にその緊張した表情を解いてソファーに深く座り直していた。

「実際、カルロス技師長を労働奴隷とした時の状況証拠の数々にしても。聞く所に拠ると、普段からカルロス技師長をおとしいれるつもりでもなければ無理なんじゃないのかぁ? って位の証拠をその場で次々と提示し、あっという間に決めたらしい。

あのカルロス技師長ですら、あのディステランテに逆らったら、こうなった。って事で、それ以来みんなディステランテ評議員に対しては益々びびっちまったらしくてなぁー」

 ファーは少しずつ酔いが回って来たのか? 少しばかり、ウトウトとし始めながらもそう教えてくれていた。

「あ……」

 ファーのその様子に気を取られ、ぶどうの搾り汁の入ったグラスを倒してしまった。

 それを見て、ファーは吐息をつき。半眼にそれを見て、こう言う。

「まあ、そんな訳で……ディステランテ評議員は、実に、油断のならない相手って訳さ。

そこでだ……アヴァイン。君には一つ、お願いしたい事がある」

「お願い? ……というと??」

「その……天然、迂闊うかつなトコ、早くなんとか直しとけよ。いいか?」

「……ハハ(汗)」

 これに対しては、流石に何も言い返せる言葉が思いつかなかったアヴァインである。




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