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「それはそうと、これからどうするのかは、もう決めたのかね?」
「ええ、はい。もう決まりました」
───え? まだ何も決まっていない筈だ。まあ、少なくともここを出る、という部分だけは意見が一致したけど……。
「それは何よりだ。ここもいつ、衛兵の立ち入りが行われるか分からないのでね。
早ければ早いほど、良いだろう」
「ええ、そのつもりです」
……よくは分からないが、やはり長居されるのは迷惑なのだろう。
「アー……ザインくん、と言うたかね?」
「え? あ、はい」
一瞬、誰のことかと考えてしまったが。自分の事だと間もなく気づいた。
「父が、大変お世話になったと聞いている。
恐らく……あの人は、もう駄目だろうがね……。しかし、この子が大人になった時。君達の力を必要とすることも場合によってはあるでしょう。その時には、是非、この子の事をお願いしたい」
「はぁ……はい。その時は、必ず」
あの人は……駄目。つまり、カルロス技師長はもう終わった人だ、と。この人も考えているのだろうか?
「私はね。父への反抗心から、セントラル科学アカデミーへは行こうとせず。商人になる道を選び、結果として、それなりの成功を収めたつもりです」
つもり……なんてものではないだろう。この大きな倉庫に、それを取り囲む様にして建つ邸宅。ファーから聞いている話からしても、大した商人だと思われる。
「この私には、政治的なことはよく分かりはしないが……。今の政治体制が現在、病みつつあることは、こんな私にだって感じるくらいのことは出来ますのでね。
恐らくは、今の政治体制はそう長くは続かないでしょう……」
その話の内容に驚き、ファーの方を見ると。ファーは悟った様にして頷いている。
つまりは、既にファーはこの話を聞き、納得しているという事なのだろう。
「この国の問題は、この国の者が考え、改善し、正して行くのが何よりも望ましいのですが。今のこの国の評議会に、それだけの力を持つ者が他に居ないのも、また事実。
……国が大国として豊かになり、安定的・保守的思想の都合の良い者達が多く評議員として列し、その席を埋め尽くし満足気に最高評議会などという歌会をその権力者の前にて催している様に、この私の目には映り、そう思えてならないのです」
権力者……それは恐らく、ディステランテ評議員のことなのだろう。
つまりは、今の最高評議会はディステランテ1人の為にあり、他の評議員は、そのディステランテの顔色ばかりを伺う者が列をなしている。この共和制キルバレスは、階級制度こそあるが、議会制を持った民主主義体制をとった国家の筈である。
今、その根幹が崩れつつあるのではないか? と……ルーベンさんは恐らく、そう言いたいのではないか?
「この国の評議会が頼りない今、次に力を持つのが、貴族員であるオルブライト・メルキメデス様です。
私が知る限り、オルブライト様は実に、良識のあるお方の様だ。
しかし、次にその権力者から失脚を狙われるのは、恐らく。そのオルブライト様でしょう……」
「───!?」




