―61―
───ダン☆
「それはどういうコトだよ、ファー!!」
翌日、朝食に温かなコーンスープに白パン。それからチーズに、果物とぶどうの搾り汁を頂いたあと。今後の事について、ファーと話し合いを始めていた。が、ファーが最初に言い出した言葉が「アクト=ファリアナへ行こう」というモノだったのだ。そんなの納得出来る訳がない。
「ファー! 君は確か、言ったよね?『機会はまた、時期に来る』って。なのに、ここを離れたら、その機会も何も叶わなくなるだろう! 違うか?!」
そうだ。ここを……キルバレスを……ディステランテが居る、この街から離れる訳にはいかない! 離れていては、その機会にも恵まれなくなる。それでは駄目だ。困る。
そう思い言うアヴァインを見て、ファーは吐息をついた。
「言っちゃ悪いけどな、アヴァイン。今のキルバレスは、非常に厳しい厳戒態勢の中にある。ここが、ルーベン・アナズウェルさんの倉庫だから、それほどの心配もなく過ごせているけどな。一歩外へ出たら、街中、お前の似顔絵が描かれた手配書だらけだよ。
街を巡回している衛兵の数だって半端ない。しかもあれ以来、ディステランテの周りには常に10人もの衛兵が身辺に張り付いて警護している。近づくことさえ、今はとても無理だろう」
「……だからって、ここを離れたら。それこそ無理になる!」
ファーはそこで、手にしていたワインのビンを一口飲み。ドン!と置き、こちらを睨み、口を開いた。
「そう、我がままばかりを言うなよ! いつまでも、ルーベンさんに甘えて、ここに居続ける事が出来ないことくらい、お前にだって分かってるんだろう?
もし、衛兵がここへ踏み込んで来て、見つかりでもしたら。お前はどう、責任を取るつもりなんだよ?」
「……」
ファーの言う通りだ。そういつまでも、ルーベンさんに甘えてばかりも居られない。少なくとも、ここからは早めに出た方が良いだろう。
そう思っていると、ファーの背後にある屋根裏部屋の入り口である床が上へ持ち上がり、その下から12・13歳くらいの男の子が顔を出した。
先ほどから自分が1人興奮して物音を立てていたので、それに気づいてこの家の子が上がって来たのかもしれない。
そう思っていると、次に30半ばくらいの髭を生やした体躯の良い男が顔を出し「お邪魔するよ」と言い、この屋根裏部屋へと上がって来たのだ。
「ああ、これはルーベンさん」
ルーベンさん……? では、この方が……。
「あーえー……と……兎に角、紹介するよ。この方が、この家の主であるルーベン・アナズウェルさんだ。
そして、この子はルーベンさんのお子さんで、ついこの前13歳になったばかりのルシアンくん」
「ルシアン・アナズウェルです! よろしくね、お兄ちゃん♪」
「あ、どうも……初めまして、ルシアンくん」
なんとも元気で明るい、快活そうな子だ。
それとは対照的に、このルーベンという人は、カルロス技師長に雰囲気こそよく似てはいるが、実に油断のない鷹の様な鋭い目つきをしている。
「ルーベンさん、初めまして。この度は大変、お世話になりました。私の名は───」
そこで名前を告げようとすると、ファーが急にそれを遮って来た。
「あー! コイツの名は、あ……アーザイン。そう、アーザインっていいます!」
自分が『これは、どういうコトだよ?』って顔を向けると、ファーはウィンクをしていた。よくは分からないが、何やら事情があるらしい……ここは合せて置くのが賢明だろうな?
「えと……改めまして、この度は大変お世話になりまして、本当にありがとうございます」
アヴァインがぎこちなくそう言い、軽く頭を下げると。ルーベンは小さく笑顔を見せる。
「いやいや。私はただ、ケガ人を介抱した、ただそれだけの当たり前のことをしたに過ぎないのでね。気にされることは何もない」
あ……なるほど、そういう事か。表向きにはそうして置けば、それほどの問題もない訳だ。だから敢えて、名は伏せた訳か。それでルーベンさんは、嘘をつかないで済む。ファーもなかなか考えたモノだな。
アヴァインはそう理解し、ファーを見て感心する。




