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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第五章【新たなる道への旅立ち】
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―60―


 (わず)か10メートル先に、ニヤけた表情を見せるディステランテ評議員が馬上に乗り、こちらを見つめていた。

 アヴァインはそのディステランテに素早く走り向かい、剣を抜き叫び、吼え切りかかる!


『ディステランテ───!!』


 そうして、ディステランテの腹を突き刺した筈が……何故かその相手は、ガストンに変わっていた。

「ガストン……何故、お前が?!」

 ガストンは吐息をつき、こう言った。

『悪いがな。これが、俺の仕事なんだよ、アヴァイン』

 そう言い切り、ガストンはアヴァインを容赦なく切り捨てたのだ。

 アヴァインはそのまま口から血を吐き倒れ、背後を見た。すると、燃え盛る炎の中にルナ様の姿を見つける。

『ル……ルナ様……ルナ様ぁ───!!』


 そこでハッと気がつき、目を開くと。そこには、見た事もない見知らぬ天井があった。

「ここは……どこだ?」

 そこでようやく、自分が夢を見ていた事にアヴァインは気がつく。

 それにしてもここは、実に薄汚れた倉庫か何かの中の様な天井だ。

 体を起こし辺りを見回し、ようやく分かったが、ここは天井裏の様だった。

「───うっ!!」

 急に、顔の辺りに痛みを感じ触ると、自分の顔に包帯が巻かれていることに気がつく。

「そうか……これは、夢なんかじゃなかった」

 フォスター邸での事。ディステランテを、自分が襲った事。あれは夢なんかではない。

 アヴァインは重く感じる体を動かそうとしていた。と、そこへ───

 ほんの4・5メートル程先にある床が急に上に開き、誰か人の顔がこちらを見る。

「お! アヴァイン、ようやく気がついてくれたか!!」

 誰かと思えば、ファー・リングスだ。

「丁度、良かったよ。食事を持って来てやったぞ! あと、代えの包帯もな」

 そう言い、アヴァインの目の前に色々な食べ物が入ったカゴを置く。中を覗くと、白パンとチーズにワイン……。

「白パンとチーズは良いけど……ワインは嫌いだな。ぶどうの絞り汁にしてよ」

「あのなぁー……贅沢を言ってられる立場かよ。まあ、そもそもワインは俺の分だ。お前はまだ酒は拙いから、こっちの水だ。そこは心配すんな。

しかし、もうそれだけ生意気なコトを言えるんだから大丈夫そうだな?」

 ファーはそう言うと、アヴァインの手にパンとチーズ、それから水が入った小瓶を目の前に置いた。

「ハハ。すまないね、ファー」

「ああ、悪いって思うのなら。少しでも早く動けるくらいにまで、回復してくれよ。いつまでもここに居る訳にもいかないからな」

「というと、ここは……?」

「ルーベン・アナズウェル……。

あの、カルロス技師長の息子に当たる方の家さ。商人をやっているらしく、その倉庫の屋根裏部屋をお借りしているんだよ」

「カルロス技師長の……」

 話には聞いた事がある。カルロス技師長には一人の息子が居るが、不仲で、セントラル科学アカデミーへ行く事もなく、商人になったのだという。

 では、ここはそのカルロス技師長の息子の……。

「まさか! 勝手に借りた、なんて事は……?」

「心配をするな。そんなコトはしていない。実はあのあと、地下から上へ行くとルーベンさんが居てな。どうやら、向こうはお前さんのコトをよくご存知だったらしい。

事情を話したら、直ぐにここへ案内し、(かくま)ってくれてな。傷の手当までしてくれたんだ。あとでちゃんと、お礼をしろよ!」

「ああ、そうする」

 食事が終わったあと、ファーはアヴァインの顔に巻いていた包帯を取り言った。

「随分と傷口は良くなってきている……けど、この傷は残念だが、消えずに残るだろう。そこは覚悟しておいてくれよ」

 ファーは気遣う様に、そう言ってくれていた。

「心配はないよ。私は既に、一度は死んだモノと思ってる」

 小さく笑いそう言うと、ファーは少しだけ安心した表情を見せる。

「兎に角、喰うモン喰ったら。もうひと眠りしていな! この3日間、お前は殆どまともなものを喰ってなかったんだ。先ずは、失われた体力を戻しとかないとな。

話は、それからだ」

「3日……私は、3日間も眠っていたのか?」

「ああ……もう、ずっとうなされっぱなしだったよ。ケイ様、ケイ様、私の愛しきケイ様!ってなぁ~♪」

 いや、それは有り得ない。 

 アヴァインは吹き出し笑い、言った。

「ファーの冗談は、実に、分かり易くて良いな♪」

 それを聞いて、ファーは困り顔に言う。

「実際、お前さんの看病を私がやっていたから良かったものの。これがケイリング様だったら、今頃は発狂ものだったろうなぁ~」

 いや、それも有り得ない。

「ハハ。ルナ様もシャリル様の事も、ケイは既に知っているよ。それに、シャリル様はまだ6歳の子供だし……」

 ルナ様は、もうこの世には居ない……。

「そう……か。なら、まぁーいいや」

 ファーはそれで立ち上がると、この屋根裏部屋から下へと降りてゆく。

「兎に角、ゆっくりと休めよ。お前の体力が戻り次第、今後のことについて話し合おう!」

「ああ。分かったよ、ファー。そうする……」


 今後……ああ、そうだった。ファーはあの時、ディステランテを追おうとする私を引き止めて、こう言ったのだ。『機会はまた、時期に来る』と───


 そうだ。今は兎に角、その為にも体力を十分に回復しておかなければな……。

 アヴァインはそう思い、静かに目を閉じ深い眠りについた。



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