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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第三章【キルバレスの大地より育まれ出でし……イモたち】
51/170

―50―


「ああ、そういえば。こんな話は知ってますか?」

「……話? どの様な?」

 急にスティアト殿が気になる言い方をしてきたのだ。

「これだけの大国となったキルバレスを、今までよりも強固にまとめる為にも、皇帝制に……との話です」

「皇帝制……ですか。いや、それは初耳ですね。

皇帝制となると、今の議会制はどうなるのですか?」

「そこは、今までのままだそうですよ。

もっとも、急に無くす、と言われたら。皆、反対するでしょうからね。

ただ、その決定権はこれまでとは違い、皇帝に委ねられるとか」

「ほぅ……」

 それを、あのディステランテ評議員の様な紳士さの欠片もない男が得たら、さぞや大変そうだ。

「まあ、これを言い出したのが、あのディステランテ評議員な訳ですが……。

今は、着々と、その布石を敷いている、といった様子でしょうな」

 ……なるほど。それは最悪な取り合わせだ。腹を下しそうだ。

「……ふむ。

野心家だとは思っていましたが。まさか、そこまでの権威欲がお有りの方だったとは……」

 オルブライトは吐息をつき、スティアトを見る。

「そうなると、北部で彼の言うことを利かない我々は、益々以って、邪魔……となる訳ですか」

「まあ……そういった所でしょうなぁ」

 そこで互いに肩を(すく)め、ソファーに深く座り直し、ため息をつく。

 それからしばらくして、オルブライトが口を開いた。

「ああ、そうそう。先ほどの件、ですが……」

「ん? 先ほどの件、と言いますと?」

「ホラ、素直に従えるのか、という……」

「ああ、あれね。……それで?」

「私自身は、それでも良いとこれまでは思って参りましたが。今回の件で、少々、考えをもう一度改める必要が有りそうだ、と思いました」

「……そうだな。それは賢明な判断だと、私も思うね」

 そんなスティアトのさも当然とばかりの言葉を聞いて。オルブライトは、彼も自分と同じ考えなのだと理解し、安心をする。

「強く、強引に話し合いも持たず。推し進め様とすれば、する程に。それで反発したがる人の(さが)、というものの存在を。あのお方はどうやら、ご存知ないらしいですしね……」

「ハッハ! それで、少々お尻を叩いてみると?」

「ええ、これまで通りの。紳士的、真摯ある互いの意思を尊重し合える政治であるのならば、私はそれで良いのだと思って参りましたがね。それはどうやら、私の思い違いであった様です。

ここらで少々、軌道修正を可能な範囲で計りたいと思いますよ」

「ふむ……。それは私も望むところだから、良いとして。しかし、現実にはどの様にして?

正面切って戦う、という訳ではないのでしょう?」

「それは勿論、そうです。それは余りにも、無謀な賭けですからね。

キルバレス南部は元より。北部では、属国同士が互いに敵対心を持っています。

唯一の友好国と思われるスティアト殿とは、残念なことに、カンタロスの大水源の山々を間に挟んでいるので。地理的に、東西に分けられてますから、連携も難しいですし」

 そう、そこなのだ、問題は。

「我々が個々で立ち上がった所で、周りは敵だらけ、ってことですなぁ……。

属州都となった貴方のアルデバルでさえも、今や、敵でしょうからなぁ。

キルバレス本国から1万の兵でも送られたら、一巻の終わり、ってことになる訳だ」

「ええ、ですから。武力で訴えるのは、ハッキリ言って、不味(まず)いでしょうね。

せめて、評議員をこちら側の味方に付けていれば、事態も変わりますが。評議員が我々、外来の貴族意に着くとも、思えませんからね。余程のことがなければ」

「なんだ。それじゃあ、手がないのでは?」

「いや、ですから。その評議員の中から、なんとか我々と思いを同じくする同調者を探し出し、その者を(かつ)げば。その者となら、手を結ぼう、と考える他の評議員も現れるかもしれません。それで、あのディステランテ評議員への牽制くらいにはなる、と思うのですよ」

「……なるほど。

しかし、今の評議員に、その様な骨のある人物が()りましたか?」

「ええ……問題は、何よりもそこでしょうね」


 そこで互いに吐息をつき。再び、ソファーに深く座り直す。

「つくづく……だなぁ」

「ええ……全くで…」


 それから間もなく。なにやら急に、外が騒がしくなるのに二人は気づき。互いに顔を見合わせ、窓の外……パレスハレスの方を覗き見る。

 多くの衛兵達が、右往左往し、騒いでいる様子だった。

「何事でしょうなぁ……?」

「さあ……」


 それから更に間もなく、引き止める執事の声のあと。この部屋の出入り口の扉が、いきなり勢いよく開いた。

 そこには……服を血だらけに染めた娘、ケイリングが立っていて。見知らぬ娘を抱きかかえ、息をハァハァと切らしながら、涙目にこちらを見つめていたのだ。

「ケ、ケイ。これは……一体、なにがあったのだ?!」

 その場から数歩ほど歩いた所で膝を崩し、身を落とす娘、ケイリングの傍までオルブライトは急いで行き。その両肩を掴んで、揺さぶりながら聞いたのだ。

 するとケイリングは、ガタガタと震えながら血の気の失せた顔を上げ、泣きながら叫ぶようにしてこう言った。

「お願い! お父さん。アヴァインを助けてッ!

お願いだから、アヴァインを……アヴァインを、助けてやって───!!」


 これは只事ではないな、オルブライトは慎重にケイリングから事情を聞くことにした。






 《第三章【キルバレスの大地より育まれ出でし……イモたち】》これにて完結です。


 ご意見・ご感想などを頂けたら幸いです。今後の作品制作に生かしたいと思います(__ 

 

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