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最高評議会は、フォスター将軍追討を可決。即日、軍令が発せられ。フォスター将軍に関係する者の調査も開始されることとなる。
それまでフォスター将軍追討に反対していた評議員の多くは、その調査対象となり。そうした各評議員に、監視の目となる兵が貼り付けられた。
オルブライト・メルキメデスも等しく、その監視の対象とされ。スティアト・ホーリング貴族員との接近にも気を使う有り様だった。
「やれやれ……。このキルバレスも、随分と物騒になったものだよ」
スティアト・ホーリングは貴族用の邸宅の窓の外を眺めながら、そう呟き言い。オルブライトと見合う形でソファーに座り、ブランデーを一口だけ含み楽しみながら飲んだ。
「敵としては、怖い国だったが。いざ中へ入ってみれば、紳士的で真摯的でもある多数の評議員と科学者会がバランス良く政治を執り行う。大国としての振る舞いをよく知る、良き国だったというのに……。
今はそれも、昔話かぁ?」
「ハハハ。一人の者が権力を持ち過ぎれば、どの様な時代の政治体制であっても。似通った事例は、多分に起こってますからね。
このキルバレスも、例外ではなかった、という事でしょう」
その様な他人事めいたことを言うオルブライトを見て、スティアト・ホーリングは困り顔を見せた。
「まるで他人事の様なことを……実態としては、笑い事で済む話ではないでしょうが?
前回の大軍勢召集から、それほど経ってもいないのに。またも軍資金に軍事物資の要求と来たもんだ。兵員も、傭兵ばかりではなく。我が国の正規兵員も早急に寄こせ、とのありがたい仰せだよ……。それでいて、だ。キルバレス本国軍は余り兵員を出さないと聞く。
彼らはまさか、我々の弱体化を狙っているのかぁ?」
「まあ……それも一部の考えとしてはある、でしょうが。国内の政情不安を取り除く為でもある、のでしょう。なかなかに、巧い手を打って来るものです」
なんとも拍子抜けするほど冷静な物言いで、それも的を射たことを言うオルブライトをスティアト・ホーリングは見て、思わず吐息をついてしまう。
「はぁ……あのディステランテ議員は、その様に、国是を前に置いて考え動く男なのかね?
国是を盾に利用して、私欲を貪っている様になら、見えるがね」
それを聞いて、オルブライトは思わず吹き出し笑った。
「ハッハ! 上手いことをいうな」
それから次に、半眼で、考え深気に言う。
「しかし……今回の件で、アナハイトがディステランテ評議員側についていることがハッキリと判明したので。周辺諸国を含む、キルバレスの南部は、彼の元でまとまったと考えたがいいでしょうね?」
「ふむ……となると。つまりは、アレか?
我々の様な北部に居る、ディステランテにいつまでも尻尾を振らない貴族顔のデレのないツンツン子狐は、ディステランテにとっては邪魔……。
強いては、キルバレスの国是とやらの点からいっても、邪魔……と?」
「ツンツン子狐……ですか。ハハ。それは言えてますね!」
スティアトの冗談を折角受けたのだが、当のスティアトの方は、「そんなことは、どうでもいいから」といった具合で、顔の前で右手を左右に振って呆れ顔だ。
それを見て、オルブライトも話の続きを始めることにした。
「まあ、ディステランテ評議員の件を抜きにしても。属州国、というのはこのキルバレスにとって。妥協の産物に過ぎませんし。将来的には、無くなることが、最も望ましいのでしょうから。
遅かれ早かれ、やがてはそうなる……と、私は思っていますよ」
「ふむ……。しかしだな、それは流石に、今はまだ性急というものではありませんか?
私も含め、そこまでキルバレスという国に馴染んだ者ばかりではないのだし……」
「まあ……それはそうなのですが。
思うに、あのディステランテ評議員は、叶うのならば。その時代を、自分の目で、可能なら自らのその手で作り出してみたい……と思って居られるのではないでしょうか?」
「……ふぅ。なるほどね。そう捉えるのが、一番に分かり易いあの男に対する評価、って気がしますな。
しかし、オルブライト殿……あなたはそれに、黙って、素直に従えるのですか?」
「……」
従えるか、従えないか、と問われれば。『従いたくはない』というのが本音の答えだが。そんな感情で動いて良いものではないから、難しいのだ。
オルブライトはそう悩み、眉間に皺を寄せ、吐息をつく。




