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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第三章【キルバレスの大地より育まれ出でし……イモたち】
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 その翌日の午前中から、パレスハレス内の最高評議会会場では、白熱した議論が交わされていた。

「この資料と報告書を読む限り、フォスター将軍の背信行為は明白であります。

よって、本日も()って、フォスター将軍討伐の軍令を発するべきであると、私は考えますが。他の評議会議員の皆様は、如何に?」

 前回同様の精霊水に関する資料と、フォスター将軍に関する報告書が、その場に居た全評議会議員の手元に置かれ。それを見ては、近くの評議員や親しい貴族員などの者同士でヒソヒソと囁き合っている。

 そんな中、ディステランテ・スワート評議員に忠実な評議員の一人が代弁し、その様に言ったのだ。

 それは実に白々しく、それに反発心を掻き立てられる者も中には居た。

「しかし……前回でも同じ意見が出ましたが。フォスター将軍は、その様なお方なのでしょうか?

せめて、あと1ヶ月……いや、2ヶ月もあれば。より正確な現地の情報が届く訳ですから……」

「そうさな……そんなにも、急がせることなど……」

「しかし、この報告書通りなら。そんなにも長い期間、放置して置くのも危険ではないのか?」

 会場はざわめき、前回同様の様子を見せ始めていた。


 その様子を見て、ディステランテ・スワート評議会議員は吐息をついていた。

 同じく、オルブライト・メルキメデスも吐息をつき。目の前で両手を組み、周りの様子を伺う。

「今回は、その精霊水のサンプルがあると聞きましたが……?」

 それを受け、ディステランテ評議員は目配せをし、その精霊水サンプルが入った小瓶を中央の壇上に置いた。それは実に、不思議な青白い輝きを放つ。この世のモノとは思えない水の色であった。

「おお! これは、凄い……」

「本当に、この様な水が。現地では、当たり前のように流れているというのですか?」

「資料によれば、この水を飲み続けるだけで。魔法さえも、使えるとか」

「そればかりではなく。この水を使った、新兵器も既にあるのだろう?」

「なるほど……これは、フォスター将軍でなくとも。つい欲を出してしまいそうな程の、魅力よ……」

 精霊水の神秘的な輝きは、フォスター将軍の人格がどうこうという、それまでの議論自体をささやか問題程度に思わせ感じさせるほどに曇らせ、その価値意識を落としてしまっていた。それほどまでに、それを初めて目の当たりにした者達からすれば、精霊水は魅力的なモノとしてその瞳の中で、まさに輝いて映っていたのだ。


「確かにこれは、早急に手を打った方が良いのかもしれんなぁ……」

「取り敢えずは軍令を発し、先発させ。追って、早馬で指示を出す。というのは、如何ですか?」

「なるほど。それならば、それほどの問題も生じなさそうだ」

 ディステランテ評議員は、そこでニヤリと笑む。


 そんなディステランテ評議員を遠目に見て、オルブライト・メルキメデス貴族員は軽く手を挙げ、仕方な気に口を開いた。

「しかし、仮にもし、それが間違いであった場合には。フォスター将軍は果たして、その事に対し、どう思われることでしょうか?」

 普段、滅多な事では口を開かないオルブライト・メルキメデスの言葉に、多くの評議会議員や貴族員が注目をしていた。これまで、その影響力故に、極力発言を最大限控えめにしていたオルブライト貴族員がここで発した、ということに、皆、興味を抱いたのだ。

 その議会会場内の様子を見て、ディステランテ評議員は小さく舌打ちをし。その相手である、メルキメデス貴族員を厳しい表情で睨みつける。

「本来、謀反人ではない彼を、謀反人に仕立て上げたとなれば。その気のなかった彼を、その気にさせる可能性も生まれるのではありませんか?」

「それは……確かに。ふむ……」


 再びそれで、最高評議会会場はざわめき始めた。


「もし、そうなら。困るな」

「では、今回も延期に……?」

「いや、しかし……」

 そんな中、一人の貴族員が手を挙げた。

「皆様、今一度、手元の資料に目を通しては頂けませんか?」

 それまで評議会内では見たこともなかった、小柄で神経質そうな男が口を開いていたのだ。

「フォスター将軍、6万。カスタトール将軍、3万……。

対し、ワイゼル将軍、5万。アナハイト駐留軍と先遣軍を合わせて、8万。

これへ再び、今回の軍令で大軍勢を送りさえすれば。例えそうなったとしても、先ず、数の上で負けるなどという事は考え難く。また、仮に、フォスター将軍が本当に謀反を起こしていた際の保険にも成り得るのではないか? と思われるのですが……如何ですか?」

「……なるほど」

 評議会議員の多くが、その意見に賛同をし始めていた。

 ディステランテ評議員も、それに満足し頷いている。そして、先ほど発言した男もそんなディステランテ評議員の反応を見て、口元で薄く笑みを零していた。間違いなく、この二人は繋がっている。


 オルブライト・メルキメデスも、それには渋い顔をし。目を閉じる他なかった。

 彼の手元にある情報など、彼らディステランテ評議員側からすれば、取るに足らない程度のものであるだろうからだ。

「あの、今の男は?」

 オルブライトは、近くの評議員に聞いたのだ。

「ああ、今度新しく属州国として併合された、アナハイトの貴族員で。キルク・ウィック殿ですよ」

「……なるほど。そうでしたか、ありがとうございます」

「いやいや」

 つまり……アナハイトは、ディステランテ評議員の側についた、という事か。

 あの者の背後には、今後、沿海属州国アナハイトの影有り……か。


 オルブライトはその事を感じ取り、これは手強い相手だ、という印象を抱き始めた。

 と、なれば……尚更に、このまま評決されては(まず)いな。兎に角、ここで引く訳にもいかない。そう判断した。

「しかし、悪戯(いたずら)に。内紛の火種にも成り得る事態を、生み出すというのは、如何なものでしょうか?」

「内紛……?」

 ディステランテ評議員だ。ようやく、本丸のご登場といった所か。

「今は、国難の時ですぞ! オルブライト貴族員。そもそも、その内紛とやらを匂わせ、この最高評議会を騒がせているのは、フォスター将軍の方でしょう。違いますかな?」

「……」

 相変わらず、相手の揚げ足を取るのにかけては、巧みな御仁だ。

「そういえば……あなた様の元には、元・フォスター将軍の副官だった男が居ましたね?」

「───!?」

 そう来たか。これは……(まず)いな。

「内紛、といえば……メルキメデス家こそ、果たして本当に信用してもよろしいのですかな。

まさか、実はフォスター将軍と裏で繋がっている、なんて事はないのでしょうね?」

 ……この男。実に大した、策士だ。小賢(こざか)しい、という意味での、な。自分に逆らう者は全て、逆賊に仕立て上げるつもりなのか?

 もっとも、その言葉、そのままそっくりディステランテ評議員殿へお返ししたい所ですが。それを言ったところで、この場に、私の味方となってくれる者が何名居るものやら……。


 最高評議会会場は、その話題で今度はざわめき始めていた。


「他にも、実は、居るのではありますまいな?!

まあ、見なさい……あの精霊水の輝きを……確かに、あの水の輝きを見れば、そうした野心が生まれるのも致し方なき事。理解だけはしましょう。

しかし、その野心は……きっと、その身を滅ぼすことでしょうなぁ。オルブライト貴族員殿」

「……」

 何も言い返して来ないオルブライトを見て、ディステランテ評議員は満足気に笑み。再び口を開く。

「今回の案件では、もう一つ、挙げねばならない重要事項がありそうですなぁ……。

フォスター将軍と繋がりのある者の、徹底調査。これを是非、書き加え願いたい!

それから……一度、ルナ殿にも、ここへ来て頂きましょうか。その方が、手っ取り早いでしょう」


 ここは最早、評議会会場などと呼べる場所ではない。彼、ディステランテ評議員の独壇場だ……。

 オルブライト・メルキメデスは諦め顔に、そこで身を引くことにした。

 この件でこれ以上、悪戯(いたずら)に言及した所で、身を危うくしてしまうばかりだ。そう判断した為だ。正直、場が悪過ぎる。

 オルブライトには、何よりも先ず、メルキメデス家を守らねばならない責任と立場というものがある。彼、個人の意思のみで考え決め。更には、軽はずみな行動を起こすなど、許される立場ではなかった。


 アヴァイン殿……すまないな。全ては、この私の力不足だよ。許してくれ……。




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