表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第三章【キルバレスの大地より育まれ出でし……イモたち】
47/170

―46―


「ガストン。場所を変えよう……ここは、ちょっと(まず)い」

「ン? なんでだよ……」

 既に、殺気立った者が数名、アヴァインとガストンのテーブルの近くに座り。こちらの様子を伺っていた。

「兎に角、ここを出よう! 話の残りは、私のところで聞くから」

「……そうか? なら、そうしようか。ヒック。それにしてもよぅ……あのディステランテってのはよぅ~……」

 そうして立ち上がった所へ、ガストンの肩をイキナリ掴む男が居た。

「ほぅ……ディステランテ候が、如何したのかな……?」

「あ、なんでもありませんよ! コイツ、ちょっと飲み過ぎちゃったみたいで!!」

「ぶわぁあ~か♪ こンの位で、飲み過ぎって言うかよ、アヴァイン。

でぇ~? アンタ、誰? ディステランテのボンクラの、飼い犬かなんかかよ?」


 ───ガンンッツ!!


 ガストンがそう言った途端、男は、ガストンをいきなり殴りつけていた。

 それでガストンは、一気に酔いが覚めたのか? さっきまでとは違い、ハッキリとした視線で、その男を睨みながら立ち上がった。

「この俺に手を出すとは、良い度胸の奴も居たモンだ……なぁあ──ッ!!」

 ガストンはその男に飛び掛り、男はそれを鮮やかに交わした。しかし直ぐに、ガストンは振り返ると、相手にまた近づき。素早く避ける相手のマントを掴み、強引に引き寄せ、足を払い倒し。更に蹴り付け様とした。が、相手はそのガストンの足を捕らえて掴み、そのガストンを今度は逆に倒し転がしていた。

 それから互いにその場で、殴り合いの掴み合いとなり。結果として、力だけは物凄いガストンが相手をのしていた。

 しかし、そんなガストンを、他3名の重装備で身を包んだ兵士が、剣をサッと抜き、そのガストンの首根っこに向ける。

 流石のガストンも、それで動けなくなった。下手に動けば、いつ首が飛んでも不思議ではない状況と気迫の様なものが、その3名からは感じられたからだ。

 アヴァインもそれを感じて、下手に動けなかった。

「フン! 拳で勝てない、となったら。お次は、コレかい? 恥ずかしい奴らだぜ!」

 それでもガストンは、負けじとそう言う。

 度胸があるのはいいが、この状況では無謀だぞ。ガストン! 相手が開き直ったら、それで一巻のお終いだ。

「……。おい、お前たち。その剣を引っ込めよ!!」

 誰か? と思えば、先ほどガストンと腕試しをしていた者だった。

 その者の声を受け、3人の兵士は、仕方な気に剣を下げていた。どうやら、ガストンと腕試しをした者が、この中では一番に力ある人物であるらしい。

 少なくとも、最低限の恥というものを知る相手で、助かった。騎士道精神も何もない相手なら、今ので終わっていた可能性があるからだ。

「私の名は、ルシリエール・スワート。我が叔父の名を、汚されたのでな。つい、カッとなったのだ。許しておくれ」

 そう言い、その者は……兜を脱いだ。驚いたことに、その者は女性であった。それもブロンドの髪と美しき蒼い瞳を持った女性だったのだ。

 それには、流石のガストンも驚いていた。

 もちろん、アヴァインも一緒にだ。


 

「あっはっはっは! それにしても、お前っ。気に入ったぞ。

名は、何と申す? わたしは名乗ったんだ。そちらも名乗るのが、礼儀というものだろう?」

 どう見ても自分たちよりも若干年下に見えるのに、随分と上から目線な物言いだ。礼儀どうこうというのなら、先ずは、自ら律するのが順序だろうと思うのだが……。

 アヴァインとガストンは、互いに顔を見合わせ吐息をもらす。

「ガストン……ガストン・オルレオールだ」

「へぇー。ガストンさん、か。で、アンタは?」

「アヴァイン……アヴァイン・ルクシード」

「アヴァイン?」

 途端、ルシリエールの顔色が緊張した様にして曇り始めた。

「そうかい。アンタが、アヴァイン・ルクシード……元・フォスター将軍の副官だった、っていう」

 ……なるほど、そういうことか。

 今のこの時期だ。フォスター将軍と関わりが深い、というだけで余り良い顔をされないのも仕方がない。もっとも、その『この時期』というものを演出し描き出したのは、この人の叔父にあたる人なのだが。

「悪いが、アンタとは仲良く出来そうにないね。

でも、ガストン……アンタとなら、仲良く出来ない事もないだろう?

ねぇ、どうする? わたしとこれから一緒に、どこかで飲み直さないかい?

それとも、この人と男同士で、不味い酒でも飲み続けてるのかい?」

「……」

 なんとも明らさまな誘いで、ガストンの体を触りながら、ルシリエール・スワートはそんな事を言っていたのだ。

 ガストンはアヴァインの方を向いて『これ、どうすりゃあ~いいんだぁ?』って顔を向けてくる。

 アヴァインは、肩を(すく)め。『好きな様にしてくれよ』って風に目配せをした。

 それを受け、ガストンも肩を竦ませ。ため息をつき、ルシリエールを見る。

「えーと、る、ルシリエールさん?」

「ルシルでいいよ、ガストン♪」

「そ、そうかい? じゃあ、ルシル。

この俺には、ちょっと勿体無いくらいに、魅力的な誘いなんだが……。今晩はコイツと、とことん飲むって決めてたんだ。

悪いけどよ。それはまた、今度、ってコトにしてくれや。なっ?」

「……そうかい。なんだ、案外つまらない男だね。分かったよ。

ちょっと残念だけど……また今度、いつか機会があれば遊びましょう。ガストン」

 そう言い残し、ルシリエール・スワートはくっくっと笑いながら3人の兵士を連れ、この酒場を出て行った。

 それまであった緊張ある場の空気が一変し、アヴァインはほぅとため息をつく。

 隣をみると、ガストンも同じ様子だった。

「マムシの子は、マムシ……ってかあ~?

あんなのに掴まって、噛み付かれでもしたら、ちょっと大変そうだなぁー」

 ガストンのその言葉を聞いて、思わず吹き出し笑ってしまった。

「悪いがな、アヴァイン。今日はもう、飲む気分じゃなくなった。俺はもうこれで、帰ることにするよ。また今度、飲み直しといこうや!」

「ああ、私もそうしたいと思っていたところだ。そろそろ、門限だしな」

「門限? なんだい、そりゃあ??」

「うちの上司は厳しいお人でさ。あんまり帰りが遅いと、たちまち機嫌が悪くなるんだよ、いつも」

「ふぅん……なんだか分からないが、お前も大変みたいだな?」

「ハハハ。それほどでもないさ。結構、楽しみながらやってるよ」

 それでガストンとは別れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ