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それから、首都キルバレスへ到着したのは、10日後のことであった。
「アヴァイン、お疲れ様!」
馬車の中からケイリングが顔を出してくるなり、笑顔でそう言ったのだ。
アヴァインは馬から即座に降り、そのケイリングの手を取って、ケイリングが馬車から降りるのを手伝う。
「あなたの警護、お父様がつくづく感心していたわよ♪」
「ハハ。それは恐縮だね。
でも、今回の警護は衛兵の人数も多かったから。私としては、大変、楽をさせて頂いた位だよ」
「いや。誠に相変わらずの、素晴らしき警護であった」
オルブライト候だ。
「あ、ハッ。恐縮です!」
緊張の面持ちで、敬礼するアヴァインを見て。オルブライトはフッと笑みを浮かべる。
「まあ、そんなに頑になるな、アヴァイン殿。ここは、アクト=ファリアナとは違う。そこまで周りを気に掛けることもないのだからな。
お互いに、ここに居る間は、気楽で居ようではないか」
「あ、はぁ……」
確かに、アクト=ファリアナでは、旧臣達の視線や耳が気になり、下手なことは言えない空気があった。だから、ケイリングとファーだけが居る時にだけ気軽にケイリングのことを『ケイ』とも呼べたが。彼らの前では、『ケイ様』と様を必ず付けていた。それもここでは必要がない、ということなのだろう。
それからオルブライト候とケイリングは、貴族用の邸宅内へと入っていった。
アヴァインはその後の雑務をこなし。残りはファーに任せ。直ぐ近くに見える、共和制キルバレスの最高評議会議事堂であるパレスハレスへと足を向けることにした。
カルロス技師長のその後を、確認する為にだ。
パレスハレスの向こう側に沈む夕日が、今日はやけに赤く頬に感じる……。
コンコン。
「はい、どうぞ」
扉をノックすると、衛兵長官の懐かしい声が聞こえた。良かった、左遷されてなかったらしい。
「ン? なんだ、誰かと思えばアヴァインじゃないか!」
「お久しぶりですね、長官♪ お元気でしたか?」
「ああ、それなりに元気だ。
それにしても、随分と久しい気がするが……あれからもう、どれ位ぶりになるか……。
まあ、兎に角そこを閉めて、中へと早く入りなさい」
「ええ、そうさせて頂きますよ」
扉を後ろ手に閉めて、アヴァインは室内のソファーへ言われるままに座った。
「そう言えば、確か。メルキメデス様の警護だったな、今は」
「はい。この度の緊急招集で、私もそれに従いついて戻って来たのです。つい、先ほど到着したばかりですよ。ハハ♪」
「ああ……なるほど、そういうことか…」
気持ち、衛兵長官の顔色が曇った気がしたが……?
「あの、長官? 何か、あるのですか??」
「何、って……逆にお前は、何も知らないで、ここへ来たのか?」
「え? それは一体、どういう……」
「……あぁ」
衛兵長官はそこで、頭を抱え、吐息をついた。それから真剣な表情で、アヴァインを見る。
「まあ、いずれはお前の耳にも入ることだろうから。今の内、言っておくことにするか……。兎に角、落ち着いて聞くんだぞ。いいな?」
「あ、はぁ……」
これはどうも、余程のことらしいなぁ~?




