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「いきなり、なにをするんだよ。ファー?!」
「なにをするんだよ、じゃないッ!! だからさっきも、言ったばかりだろう───?!」
「なにを、『さっき言った』のよ、ファー?」
ケイリングだ。どうにもこうにも、その表情は見るからに不愉快そうである。
「二人して、なぁ~にコソコソとやっているのよッ?!
まさかアンタ達……最近流行の、BLって奴じゃないでしょうねぇ~??」
BLとは……ボーイズラブのことである。つまりは、同性愛。少年愛?
アヴァインとファーは互いに顔を見合わせ、赤面し、一気に数メートルも離れた。
「そ、そ、そ、そんな訳はないですよッ!!」
「違う! 絶対に、違うからなぁーっ! ケイッ!!」
そんな慌てふためく二人の様子を、ケイリングは両腕を胸の辺りで組み。怪しんだ目つきで半眼に見る。
「───それでぇ~? なんの話をやっていたのよ?
言っとくけど、ここで素直に言わなかったら。アンタ達二人、BL確定だからねぇーっ♪ 噂にして広めちゃうけど、OK?」
「いや……(汗)」
「B……L、って……(汗)」
そんな訳で、ケイリングに事情を全部、スッキリと素直に話すことにした。
「そう……キルバレスへ……」
「うん。カルロス技師長の件、凄く気になるから。出来たら一度、戻りたいな、と……」
湖がよく見える広いテラスにあるテーブルに、見合う形でケイリングとアヴァインは座り、話をしていたのだ。
間もなくファーも紅茶を持って来て、二人の前にそれぞれ置くと。自分も同じテーブルに座り着いた。
「いいけど……さ。戻って、どうする気? 今更、取り決められたことを覆すことなんて出来やしないのよ」
ケイリングは、特に感情というものを見せることもなく、淡々とそう言い。ファーが淹れてくれたお茶を、一口飲み。アヴァインを伺い見る。
「それは分かっているけどさ……。だからって、放っても置けないし」
「ケイ様が言う通り、行くだけ無駄なんだ。だからな、アヴァイン!」
「でも───!」
「ファーは黙ってて!」
ファーの言葉に対し、アヴァインが言い返そうとすると。当の本人よりも先にそれを制したのは、ケイリングの方だった。それでファーは、このテラスの隅の方へ行って……その場で、のの字を書きながらブツブツとイジケている(汗)
「あれ……いいのかぁ? 放っといても??」
「いいのよ、全然。いつものコトなの。
私がちょっと強く言うと、直ぐに拗ねるんだから、アイツ。子供なのよ。
それよりも、アヴァイン。今のキルバレスへ……それを目的として行くのは、ちょっと危険なコトよ。ちゃんと分かって、理解した上でそう言ってる?」
「うん、分かってる。だから、注意はするし。何があっても、ケイやオルブライト様に迷惑を掛けるようなことだけはしないよ!」
「……」
ケイリングは、それには直ぐに答えず。ファーが淹れてくれたお茶を一口飲むと、軽く吐息をついて。そっぽを向いて言う。
「……いいわ、分かった。だったら、勝手にそうなさいよ」
「本当に、いいのか? ありがとう、ケイ!」
「別にお礼を言われる程のコトじゃないわよ……。
実を言うとね。明日の朝から、お父様も急遽キルバレスへ行くことになったの。
なんでも、緊急招集が掛かった、ってコトでさ。だからアヴァインも、それにくっついて行くと良いわ。その方が、何かと安心だし。そう、なさい」
「え? オルブライト様が、キルバレスに……そうだったんだ……」
「うん。私もついさっき、聞いたばかりなのよ。お父様本人から」
それまでそっぽ向いたように話していたケイリングが、そこでアヴァインの方を横目でチラリと見る。それから、何かを思い出したようにして。
「───あ……そうだわぁー♪ 私もそろそろ、ここでの生活に退屈して来ちゃったしぃ~。キルバレスのセントラル科学アカデミーにでも、ちょっと行ってみようかしらぁ~? なぁあ~~んて、ねっ♪」
最後の辺りからティーカップの角を撫で回し、そう言い。ケラケラと楽しそうにして笑っている。
「うん。別に良いんじゃない?」
「………(汗)」
アヴァインのあんまりな反応の薄さに、ケイリングは瞬間、残念な思いのあと呆れ顔を見せ。次に、肩の力も抜ける思いで長く深い吐息を、「ハアぁア~~」とついていた。
「あー……でも、そうか!!」
「───え? えっ、えっ?? 『そうか』って、何があッ??!」
ケイリングは全身を真っ赤に染め、焦ってる。アヴァインはそんなケイリングを「急にどうしたんだろう?」って表情で見、言った。
「大丈夫だとは思うけど。キルバレス内の政情次第では、危ないかもしれないし。
うん。今は、あまり近づかない方が懸命かも知れないよ?」
「………(汗)
ふん! なによっ!! だったら、アヴァインがキルバレスへ行くって話しも、無しね! さっきの、きゃあ~~っか(却下)!!」
「え?! なんでぇー!!?」
「なんでぇー、じゃないわよっ! 私がダメで、アヴァインはOKとか、意味が分かんないもの!! そんなの不公平でしょ! 理不尽、ってモンよっ」
「不公平とか理不尽とか……コレってさ、そういう問題?(汗)」
「そういう問題なのっ!」
ケイリングは両腕を組み、フン! とばかりにそう言い切った。
その夜、オルブライト様からも、アヴァインから言われたことと同じ様なことをケイリングは言われていたが。「お父様が行くのに、私が行くのはダメとか。そんなのは不公平だし、理不尽よ!」と言い切り倒し。オルブライト様を散々困らせた挙句、結局、一緒に行くことになった。
もちろん、不満気だったファーも一緒にだ。ファーはまたしてもそこで、のの字を書いていたのである。




