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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第三章【キルバレスの大地より育まれ出でし……イモたち】
40/170

―39―


 メルキメデス候が首都キルバレスを離れてから、2週間も経った頃。評議会議員ディステランテ候の元へ、1つの重大な、国を揺るがし兼ねない報告が入った。

「何? ワイゼルとフォスター将軍が!?」

「はい。戦地パーラースワートローム内にて、対峙(たいじ)している、との報告です」

「理由はなんだ? 理由もなく、その様なことにはならないだろう!」

「ハ、それが……両者から書状は参っているのですが、その両者とも意見が喰い違っておりまして……」

「喰い違って、いる……?」

「はい。その書状というのが、コレです」

「……ふむ」

 その両方を読み、ディステランテは吐息をつく。

 フォスター将軍からの書状によれば、ワイゼル将軍が軍規に違反し、パーラースワートロームの王都を不法にも独占的占拠をした。更に、精霊水を独占しようと企てている、と書かれてあった。

 そして、ワイゼル将軍からの書状によれば、フォスター将軍が精霊水を独占しようとした為、仕方なく拠点を上流域にて構え、抵抗している。早急なる援軍を求めたい、と書かれてあったのだ。

「………」

 フォスター将軍の人柄というものをよく知る多くの評議員が、この両方を読めば、おそらくはフォスター将軍の書状の方を重く見て信じることだろう。しかしそれは、ディステランテの(おい)であるワイゼル・スワートを結果として見捨てる、ということになる。

 そもそも精霊水に関する情報を早々と得て、『その権益を手に入れよ』とワイゼル将軍に依頼したのはディステランテ候自身であったのだ。これが明るみに出ては、(まず)いことになる。


 ディステランテは、この書状を持って来た男を鋭い目つきで見た。

「この書状の件は、他に誰が知っている?」

「は、軍令部長官のみです。

このあと、マルカオイヌ・ロマーニ評議員の元へ、お伝えする段取りとなっております」

「いや! それには及ばぬ!!」

「は?」

「彼には……いや、評議員皆には、私の方から誤解が生まれないように伝えておく……。あと、この件については、今後、他言無用に願いたい。よいな?」

「いや、しかし!」

「よいなッ!!」

 ディステランテの高圧的な姿勢に圧され、伝信官は仕方な気に頷いていた。

「はぁ……分かりました。その様に致します」

 それで、伝信官は立ち去っていった。

 軍令部長官ならば何とでも出来る。しかし、やがては噂となり、情報は時期に流れるだろう……と、なればだ。ここは一つ、先手を打つとするか。

 ディステランテはその様に考え、立ち上がると、直ぐ様に行動に出た。時間を掛け過ぎれば、自分の立場も危うくなる、とそう思ったからだ。



 最高評議会の開会は年に4度、それも開催時期は決まっている。しかしそれは、緊急の場合を除いてである。

 この日、このパレスハレスにて緊急の会議が召集され開かれていた。

「では、フォスター将軍が、我々キルバレスに対して『反旗を起こした』と申されるのですか?!」

「ええ……残念ですが。内容は、その書状にある通りです」

 最高評議会会場は一気にざわめき始めた。ワイゼル将軍からの書状の写しが、各評議員の手元に置かれていたのだ。他にも、精霊水に関する報告書も添えられていて、その事態の深刻さを伺わせ伝える演出がなされていた。

 因みに、この最高評議会会場内には、軍令部長官も伝信官も今日に限って不在であった。ディステランテ候の手回しによるものだ。

「この……パーラースワートロームの水を持ってすれば、我々キルバレスにも〝勝てる〟と踏んだのか? あのフォスター将軍が」

「しかし、フォスター将軍は、その様な短慮な考えをなさるお方だったでしょうか?」

「それはそうですが……」

「それほどまでに、この《精霊水》というのは凄いものなのか?」

「この報告書を見る限りでは、それも納得出来るのも、確か……」

「しかしそれは、可能性としては、でしょう?

問題は、あのフォスター将軍がそういうことをされるお方なのか、という点だと私は思います」

「……ふむ」

「確かに。そもそもこの書状の内容……全て、本当のことなのかどうかも分からない」

「ここは一度、閉会し。科学者会の意見も聞いてみるのが良いかもしれませんね?」

「同時に、現地へ伝信官を送り。実態を確認するのも手かと……」

「それもそうですな。今は、一時帰国している評議員も居ることですし……」


 ───ダン!!


 ディステランテ候だ。閉会し、科学者に相談しようとする流れに苛立ち、机を叩いていたのだ。その暴虐(ぼうぎゃく)な振る舞いに、皆が驚く中、ディステランテ評議員は口を開いた。

「今はその様な悠長なことを申している場合ではない!! こうしている間にも、現地では事態が更に深刻化しているのですぞ!

そもそも科学者会、ですと……?

各評議員は、もうお忘れになられたのですかな。その科学者会のグレイン技師。そして、その代表者であるカルロス・アナズウェル技師長が組んでやった、我々キルバレスに対する裏切り行為を!!」

 最高評議会会場はどよめき立った。

「もうこの際です。これまで保留にしていたカルロス技師長に対する処分を、この場にて執り行いたい! その上で、科学者会に相談されるのなら。勝手にそうされるが、よろしかろう!!」

 会場は騒然とし、そんな中、カルロスに対する処分の決定がここに下された。


「科学者会代表である、カルロス・アナズウェルを、本日を()って。3等市民に降格し、無期限の労働奴隷とする。 ───以上だ!」




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