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『カルロス技師長! また戦争が始まる、というのは本当でしょうか!? 自然を壊し、人を殺し、それで更に何を得ようというのか――コメント願います!』

『いや。ワシは……。

ワシはただのぅ、君たちが住みよく生活する為に……。そして、誰しもが同じ条件で出来得る限り幸せになってほしいが為に。これまで、多くのモノを犠牲にして生きて来たつもりじゃよ。決して他意は無い』

『なにを自分に都合のいいことを……後悔くらい、カルロス技師長。アナタにだってあるでしょう? 違いますか』

『後悔? それに対しては、後悔など、何もないな』

『後悔が、無い? この国は再び、自然を破壊そうとし。侵略により、更に国土を広げている。その為に犠牲となる人々……なのにアナタは、その当事者でありながら『後悔が無い』というのですか?

腐っていますね。アナタたちは』


『──!!』



〝……ああ、確かに腐っている。腐ってきておる……。

       全てが形骸化し、腐ってきておる……〟



 更に、数日前の評議会内での議論の内容が、脳裏を掠めていた──。



『問題を拡大解釈した所で、局所的責任論は薄まるばかりであろう。本来の責任者や問題点が分かり難くなるばかりではないのかね?

大事なのは、だ。同じ間違いを繰り返さない為の《是正対策》。それを正しく行う為の、《根本的原因の追及》じゃとワシには思える。

別にそれで、責任者に罰を与えよ、と言うつもりなどない』


 この時のカルロスの最後の言葉を聴いて、その場に居た多くの評議員がホッと胸をなでおろしている様子が窺えた。

 そうした様子にカルロスは呆れ、思わず目を細め、更に言葉を繋ぐ。


『それ故に……この件の責任者に、事情を詳しく問う必要があるのではないのかね?

このまま議論を闇雲に進めては、全てが曖昧なもので終わり、結果として、《集団的無責任》ともなり兼ねぬ。前にも同じことがあった。

 再びこの件を忘れた頃に、新たな被害者と加害者を生むことに繋がるとワシは思うが……これについてはどうじゃな?』

『しかし、それでは時間がかかり過ぎます!』

『そうです! 今は現実に被害者が困っているのです。そちらを優先し、早急に対策を講じるべき時。そうしたものは後から問えば、それでよいでしょう?』


『しかしのぅ……その順番で、本当に後からこの件を真面目に議論するのかね? 過ぎたこととし、また曖昧に終わらせるのではないか?』

『だとしても、それがなんだというのですか。当面の問題さえ解決すれば、それで国民も納得します』


『それはわかる。ワシはただ、「もっと詰めろ」とそう言っておるのだ』

『詰めろ? なにを詰めろ、と仰っているのですかな? カルロス技師長』

『……』


 ……人は、自らの欲を満たすのに懸命であるようだ。

 その為になら、なんでもする。なんでも言う。その後の事になど、目もくれないで……それで何か問題があれば。また、他人がやる事と責任を取りはしない……。



 あの日、あの時、目の前に居たあの者達の様になぁ。



『少なくとも今は、被害当事者達の心情を何よりも重んじるべきではありませんかな?』

『ええ、まさしくその通りです!』


 この分かりやすい《被害当事者達の心情を重んじるべき》の言葉に、多くの評議会議員が賛同した。人は楽な方へと流れ易い生き物である。それはまるで、川の流れのように……。

 その大河の流れは、小川の清涼な流れなど、簡単に飲み込んでしまうが如く激しいものだ。元の状態に戻すのは、決して頭で考えるほど簡単なことではない。

 同じ理由で詳細な事情などわからぬがまま……その後、ようやく法的仕組み自体に問題があったことが発覚した。しかし――。


〝それが発覚する前に、国民感情が動き、マスメディアも呼応し、暴走を始めていた〟



『市民運動を起こそう!』

『あのギルドに、責任を取らせろ!!』

『そうだそうだ! あんなギルド、潰してしまえ!!』



  〝人の正義心は、暴走するのか……?〟 



『……うちは潰れたよ。すまないな、みんな』

『う、うわああああぁああぁああ───!!』

『この責任は一体、誰が取ってくれるというの……?』


『自業自得さ。そんなの知ったことかよ!』

『まさか、このような結果になるなんて……』



『これは、あなた達が(あお)った結果だわ!』

『なにを言う! これは報道の自由だ! それをどう捉えるかは、国民の意識次第だ。

我々は報道者としての権利を果たしただけで、我々自身に責任など何も無い!

そんな事で、いちいち責任を取っていては、誰も自由な報道をしなくなる! そうだろう? その方がむしろ問題だ!』



 それは、ある意味で正しい。ああ、きっと正論なのだろう……しかし。



  〝責任の転嫁……集団的無責任……〟



 ワシはこの時、その様なモノがあるのだというコトを痛感させられていた。



 そしていま再び、彼女の言葉がこのワシの脳裏を掠める。


   ──……腐っていますね。アナタたちは──



〝ああ、そうだとも。そうじゃよ、全て君の言う通りだよ!〟


『その通りよ! 腐っておる――。

しかし人はのぅ……人って奴はなぁ……そう言うアナタですらもじゃ。

自分の犯した罪でない、「関係ない」と心のどこかで思おうとする。そして、罰を受けるつもりも、罪の意識を高め、反省するつもりがなくても……』



    〝早く、何とかしろっ!〟



 『「言えば――誰かが何とかする」と思い』

    


     〝非道い、可哀想よね……〟



『「自分の心は、手を汚さずとも、救われる」と錯覚をし』



     〝ああは、成りたくないわ!〟



『「自分の心は満たされ、解放される」と心のどこかで願って生きておるのさ……。

誰しもが、自分の事として振り返り見ようとはせず……他人に、端から頼り。そこに知らず知らずのうちに、責任が生まれているなどとは想像すらしない。いや、しようとしない。気付くのを恐れ、目を反らそうとさえする。

それが悪いことだとは言いはせん。それが、《人》というモノだからのぅ……。

しかしなぁ、それだから……そんなだからな。いつまでも人は……こんな言葉を、ついつい叫んでしまうのだろうよ……』



  〝アナタたちは、それでも人間ですか?〟



『──ああ、そうだとも。人間だわいっ! 

だからこそ、こんな非道いことだって平気でするのさ。やってのけるのさ! 自分が生きる為ばかりではなく。生活に、みんなの幸せを求めるには、それなりの物量が必要だったのだよ。今思えば、過ぎた力がなぁ……。

何かを犠牲にせねば成り立たぬ程の、力をな。

 


 ――それが仕方のない事だったとは、言いはせん!――



だが…しかしのぅ……ワシには、こうすることしか出来なかったのだ。頭が悪いでのぉ…。



 ――それが、いけなかったか? 

       それが、問題だったか――!?



 それならば何故、君たちはこれで、それに気づくための努力をして来なかったのじゃ……?



 ――どうして今の今まで、

    知ろうとさえして来なかったのだ――?



 過ぎた実に悪気の無い過失に対し、利便性というモノの《代償》として知らぬ内に起きていた過失的問題の罪に対し、そしてこれからその対策を講じようと寝る間も惜しみ努力し続けている者たちに対し、もし君が言うような生涯消えることのなき許されざる重き罪があるのだとすれば。

 そのことに気づきながらも、今の今まで見過ごし。更に気付いた今現在に至るまで代替え燃料を貪欲に求め利用し続け、豊かな生活を安穏と過ごそうとしている君ら自身にも、変わりなき罪があるとは思わんのかね?


 君達が、これまで生活に支障なく生きて来られたのも。裕福な生活の中で横臥(おうが)してこられたのも、全て。今、君が言っている問題が土壌にあってのことであろうに──!!』



 相手である女性記者は、その時に激高するカルロスの言葉を受け。呆けるように、その場にてガタガタ身を振るわせ膝から崩し落とし、顔を天井へと向け、まるで気でも狂ったかのように泣き笑い出していた。


 しかし、そんな彼女に、カルロスは我を忘れ今にも掴み掛からんとばかりに吼え続けていた。が、そこで周りの者たち多数からほぼ同時に、強行なまでに取り押さえられたのだ。



 カルロスはその時のことを改めて思い出し、後悔を感じながら深いため息をつく。


「……ハハ。ワシはなんで、あんなつまらんことを言うてしもうたのじゃろうなぁ……。

グレイン……お前の言うとおりだ。今後は気をつけることにするよ……」




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