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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第二章【アクト=ファリアナの心友】
35/170

―34―


 その翌々日。早朝から、オルブライト・メルキメデスとケイリングが乗る予定である豪奢な馬車を中心に、重装甲衛騎兵15騎と機動力のある軽騎兵35騎が列を作り並び、その二人が現れるのを貴族用邸宅前にて、待機していた。


 これから属領国であるコーデリア州内にあるメルキメデス家が治める領地《アクト=ファリアナ》へと向かうのだ。今はその、出発直前の準備中である。


 《アクト=ファリアナ》は、この首都キルバレスから北東へ1000キロも先にある。そこからコーデリア州の州都アルデバルまでは、200キロほどしか離れていない。州都アルデバルは、キルバレスに次ぐ第二位の大都市で200万人が住んでいる。元々は、メルキメデス家が代々領主として支配し育ててきた都市なのだ。


 属州国コーデリアはかつて、共和制キルバレスとの数度に及ぶ戦の末、話し合いによる併合という形でキルバレスに組み込まれ併合された国であった。それは、キルバレスから北にあるカンタロスの北西部に位置する《カナンサリファ》も同じで。実は、カナンサリファが先にそうした形で降伏したのを受け、国力・装備・兵力そうしたものを見据え考えた末に、《コーデリア国》のメルキメデス王家もまたそれに習い従ったのである。


 当時のキルバレスの勢いを止めるには、相当な痛みを覚悟しなければならなかったからだ。


 オルブライト・メルキメデスは、それをヨシとはせず。キルバレスとの交渉に全力で命懸けの思いであたり。戦争にこそ負けはしたが、交渉内容としては満足となる結果を得て現在に至る。


 そのオルブライト候の定期帰国に、ケイリングもついて帰ることになり。その専属警護となったアヴァインもまた、それに随行する形となったのだ。それに加え、アヴァインは更にメルキメデス家での《警備隊長》にもこの時、任じられていた。


 アヴァインとしてはため息の出る思いである……。


 これは、メルキメデス家内が独自に保有する、警備部隊の1隊長ということであったが。今回は、この定期帰国での全責任者、という位置付けになる責任重大な役割を担うことに繋がっていたからだ。

 アヴァインは、共和制キルバレス本国からの任命と。更に、メルキメデス家からの任命との両方を受け、この日を迎えていたのだ。


 本来であれば、そのメルキメデス候の乗る馬車を警護する為に、馬上へ騎乗し。列に加わるのが当たり前なのだが。アヴァインは、ケイリングの命によりオルブライト候やケイリングが乗るその馬車の中へ乗るようにと勧められていた。

「大丈夫よ。警護は、副隊長のファーがちゃんと指揮してやってくれてるんだから。あなたはこの中で、堂々としていなさいよ」


 ファー・リングスは、アヴァインが着任する前まで、警護隊長をやっていた男だ。24歳ながらも、勘と経験は、アヴァインなど相手にもならない程に優れた男だ。そんなファーは、あからさまなほどではないが、突然にやって来て自分の上官となった年下の男アヴァインに対し、あまり良い感情は抱いていない様子であった。そりゃそうだろう。アヴァインとしてはため息の出る思いである……。


 アヴァインは、ファーやその周りの他の警護の者たちの表情を伺い見て、ため息をついた。


 どうやら私は、好まれてないらしい。ここでうっかり馬車なんかに乗り込んだりしたら、それこそ今後の居場所にも困りそうだ。

「そうは参りませんよ。私も、アクト=ファリアナまでの道のりを、この目と足で確かめておきたいですしね」


 そう言い、騎乗すると。間もなく屋敷の方に気配を感じ、それを確認するとその右手を、高々と上にサッと上げる。すると、キルバレス本国からアヴァインが()りすぐり選び連れて来ていた重装甲衛騎兵団は、それを受け一斉に、剣をシャッと抜き。それを馬上にて両手に持ち変え。胸元へカシャンと音を鳴らしあて、剣先を天に向けて(かか)げた。貴族屋敷から丁度姿を現したオルブライト・メルキメデスを出迎え、敬服と忠誠の念を実に分かり易い形で表していたのである。

 それを見てオルブライト候は、『ほぅ…これは』と、その新しき指揮官であるアヴァインを見つめ、馬車へと乗り込む。


「さあ、ケイ様も早く。中へ───」

「う、うん……」

 意外なほど様になっていた指揮官としてのアヴァインを見て、ケイリングは思わず頬を赤らめ、乗り込む。


「ではこれより、出発をする───!」




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