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それから、ここまでの経緯を簡単に話し、今に至る。
「そうですか……コーデリア州へ。この〝方〟と」
「はい。まあ……急遽そういう事になりまして……」
今はリビングの大広間にて、窓からの眺めが良いテーブルを囲み、3人でお茶をしていた。
「あ、あのぅ~……」
ケイリングが、隣でルナ様のことを気にしている。そういえば、ケイリングにはまだ、ルナ様のことを詳しくは話してなかったな。
「ケイ。この方はね、フォスター将軍の婦人で。私が普段から大変、お世話になっているお方なんだ」
「あ、え? あのフォスター将軍の!?」
「改めまして、よろしくね。ケイリングさん」
「あ、はいッ!! 改めまして、よろしくお願い致します!」
流石のケイリングも、フォスター将軍の名には、頭が上がらないらしい。
「それにしても、私がお世話だなんて。それはちょっと、口が上手過ぎよ、アヴァイン。
いつもお世話になっているのは、私たち親子の方なんですもの」
「いやいや、そんなことはありませんよ」
アヴァインのその言葉を聞いて、ルナ様はケイリングの方を微笑み見て言った。
「ケイリングさん。アヴァインはとても、頼りになるお人ですよ。大事にしてあげてね」
「あ、はいっ!!」
はい、ってなぁ~……それ、本気で言ってないだろう? どんだけ緊張してるんだか。
「それにしても……あなたが遠くへ行ってしまうのは、ちょっと寂しくなりますね……」
「はぁ……どうも、すみません…」
「ちょっ、ちょっとぉー!」
ケイリングが隣から、不機嫌顔にアヴァインの腕を掴み言ってきた。
「どうしてさ! そこで、あなたが謝ったりするのよっ!?
そこは普通さ、『仕事ですから』とか『この方をお守りするためですから!』とかさぁー。言い様ってモンがあるでしょうにぃ!!」
……本人は小声でそう言っているつもりの様だが。今のは完全に、ルナ様にも聞こえていたみたいだ。ルナ様が口を押さえて、『失言してしまったかな?』と自身を思い、苦笑しておられる。
それからそのあと、何かを納得された様な顔をルナ様は急に見せ始めた。
「そう、ね。アヴァインみたいな人と話していたら。誰でもそんな気持ちに自然となるのは、仕方ないのかなぁ……」
……それは一体、どういう意味なんだろうか??
「ケイリングさん。アヴァインってこういうタイプの人だから、ちょっと大変かもしれないけれど。アヴァインとは、これからもずっと仲良くしてあげてね♪」
「あ……はいっ!!」
大変って……なにが大変なんだろうか……。ちょっと気になりはしたが、怖くて聞けなかった。あまり良いような意味には聞こえなかったから。
それから暫くして、フォスター邸をあとにしようと馬車へと乗り込んでいたところへ。シャリルが飛び込んで来て、そのままの勢いでアヴァインに抱きつき言った。
「絶対。いつかわたしを迎えに来てよ、アヴァイン!! 絶対によっ!」
少し驚いたが。アヴァインは間もなく、微笑み。
「……。はい♪ いつか必ず迎えに来ますよ、シャリル様」
グスングスンと泣いてしがみ付くシャリルの頭を優しく撫で、なだめながらアヴァインはそう言ったのだ。
そうして、フォスター邸をケイリングと共にアヴァインは後にした。
そこから貴族用の邸宅へと向かう馬車の中で、ケイリングは似つかわしくないほどに静かだった。
なんか、あったのかな……? とアヴァインが思う間もなく、ケイリングはふいに窓の向こうを眺めたまま、こちらを見る訳でもなくこう聞いてくる。
「アヴァインがさ、好きだった、って人……もしかして、ルナさんじゃないの?」
「……え?!」
「やはり……ね。途中から、そんな気はしていたのよ。凄く綺麗だったし。くやしいくらいに……優しい人だったもの」
くやしい、って……なんだよ、ソレ?
「ぅん……。でも、この事は他の誰にも言わないでくれよ。ルナ様にもシャリル様にも迷惑は掛けたくはないんだ」
「……わかってるわよ、そんなの。絶対に言わないから、安心をして。
わたしもルナさんは、人として好きになったもの。だからそれは、ちゃんと守るわ」
それからケイリングは、吐息なんからしくもなくついて。パレスハレスの向こう側に沈む夕日を、虚ろな瞳で眺めていたのである。




