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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第二章【アクト=ファリアナの心友】
28/170

―27―


 その夜、パレスハレスの4階は、賑やかにも華はなやいでいた。

 首都キルバレスのパレスハレス4階は、政治的社交の場として。時折、有力な諸侯や、各地の元・領主などを招き入れては、今晩のような催しを行っている。

 豪華な食べ物や高級な各地の酒なども並び。その中央では、この場の雰囲気を盛り上げる為に奏でられている音楽に合わせて、艶やかに異性を誘っては踊る者も居た。


 この会場には、招待された者かこのパレスハレスの衛兵しか入るのを許されていない。衛兵といっても、この日のために選ばれた一部の信頼ある衛兵のみである。そしてアヴァインはその、一部の選ばれた衛兵の責任者としてここに居た。衛兵長官の手回すによる、人選の結果によるものだ。


 アヴァインは着慣れていない赤い衛兵の正装で身を包み。適当に見回っては、軽くつまみ食事をしていた。一応、仕事中なので酒は飲まないでいる……というか、そもそも飲めないのだが。ここの4階までの入り口や今日のパレスハレスを中心とした周辺は、普段の数倍もの数の衛兵が警備をしているので。ここに居て、この会場の中で何かが起こるということは、この招待された中の者同士くらいでしか考えられないので。そうした意味での緊張感はこの場に居る限りにおいては余りなかった。


 何かあるとしたら、先ずは、このパレスハレスの外で起こるだろうからなぁ~。


 普段は女性が立ち入ることがほとんどないこのパレスハレスも、この日に限っては違っていた。

 各有力な諸侯の娘なども、この日だけは〝お披露目〟とばかりに来ているからだ。勿論、娘ばかりではない。息子も来ている。つまりここは、政治的意味合いばかりではなく、そういう出会いの場でもあった。

 色目を使う若い男が居れば、それを見て、澄すましている若い娘も居る。逆に、それを快く受けている娘も居る。そうしたやり取りをアヴァインは遠目に見て、ため息をつく。

 いつもならば、そうしたものも気にならないのだが。今日ばかりは、いつもと違っていた。今日は自分も、その〝やり取り〟とやらに参加しなければならない当事者だったからだ。

 まあ、流れも段取りも既に決まっているので、自分はその通りにやるだけなのだが。どうにも気乗りがしない。


 今更だけど……こんな感じで、自分の生涯の相手を決めてしまってもいいのだろうか……。


 アヴァインは、そんな事をふと思ってしまう。肖像画で、どんな人なのかは確認していたが。どんな感じの人なのかは、まだ会ったこともないので、本当にこれから好きになれるかどうか。正直なことをいって、自信がなかったからだ。

 例えば、この前出逢ったケイリングとかいう女の子みたいな性格の人なら最悪だ。見た目がいくら良くても、あれはいやだ。精々、友達までがいいトコだろう。


 そうは思ったところで、今さら『やっぱり嫌です』なんて言える訳もないよなぁ……。


 アヴァインはそう思い、吐息をつく。と、そこへ。衛兵長官がやって来た。

「衛兵長官、お疲れ様です」

「おお、アヴァインか。お前もそういう格好をすると、なかなかそれなりに様になって見えるもんだなぁー、ワッハッハ♪」

「それは一体、どういう意味なんでしょうかぁ……? 長官」

「まあ、気にするな」

「気にしますよ……」

「それよりも、今日はちゃんと。段取り通りうまくやるんだぞ、アヴァイン。分かっているな?」

「はい……分かっています」

「ならばよし。相手から断られるならば、仕方ないが。下手を打って、相手の不興を買うことだけは最低でも避けろよ、いいな」

「相手が断る、って……そんなことも有り得るのですかぁ?」

「そりゃあー、そうだ。

お前が誘って。それで相手のリリア様がお前を気に入らなければ、それまでだ」

「なんだか……自分ばっかり恥かく感じで、損した気分ですね」

「それはそうだが……損得なんか言ってると、色恋沙汰なんて出来やしないぞ、アヴァイン」

「はぁ……」

「ではな。頑張ってこい!」

 長官はそういうと、移動をし。近くに居た有力な諸侯の一人に声を掛けていた。


「あれ、あの人って……」

 長官が声を掛けた人物は、先日、アヴァインが会った貴族員の男だった。なんとも相変わらず威厳漂う、風格のある人だ。


 そう思ってるアヴァインの背中を、誰かがトントンと指先で軽く数度突いて来た。振り返り見ると、そこには昨日のあのケイリングとかいう女の子がニッ♪とした笑顔で立っている。

 今晩はまた、見事に飾られたドレスの衣装を身に着けている。アクセサリーがこれまた豪華なものだ。流石に貴族員の娘だけのことはあるよなぁ。

 そんなケイリングを困り顔ながらも正面見据えていると、近くの若者たちはみんな遠目に自分の方を羨うらやまし気に見つめてきた。


 まあ、外見的な見た目は確かにいいのは認めるけど。ちょっと話せば、そんな恋心もあっという間に冷めてしまうことだろうさ……。

 アヴァインは密かにそう思い、そんな若者たちを哀あわれに思い、見渡す。


「こんばんは、アヴァイン。調子はどう?」

「はい、こんばんは。今のところは何事もなく平和で順調ですよ、ケイリング様」

 アヴァインはケイリングの質問に対し、あくまでも儀礼的な言葉遣いで返した。

 好き嫌い以前に、相手はあの貴族員の娘だ。下手に不興を買うようなことだけは避けなければならないだろうからな。少なくとも、失礼なことだけは言えないし、出来ない相手であるのは間違いない。

 それなりに相手をして、それ以上は無闇に近づかず。距離を置いて離れているのが懸命だろうさ。馬も合いそうにないしね?


 アヴァインはそう思い、判断したのだ。


 そういうアヴァインの様子に気付いたのか。ケイリングの方は露骨にも、なんだか不愉快そうな表情を見せている。それから澄まし顔をして上体をこちらの方へとずらし、横目にも顔をアヴァインの傍まで近づけ、嫌味ったらしくこう言ってくる。

「昨日はイキナリ、私の胸を〝掴んでさわって〟来た男にしては、随分と礼儀正しい言葉使いだこと♪」



 ──ブふぅ──ッ!!



 思わずアヴァインは、途中まで飲んでいた水を全部、吹いてしまった! しかも見事なまでに、ケイリングの全身へとぶちまけてしまう。


 ──ぶわきゃあッツ☆!!


 み……見事な、右ストレート!? これは、避け切れねぇ──っ!!

「あなたって! 本当に、つくづく最低な男ねーッ!!」

「お前がそこで、〝変なコト〟言ってくるからだろうー!」

「あなたが先に、〝変なコト〟して来たからでしょうーっ?!

それよりも見てよ、コレ。あなたのおかげで、この日の為に用意したドレスも髪も、濡れちゃったじゃない。もうビショビショよ。どうしてくれるのよ!?」

「そんなモン、その内、勝手に乾くだろ!」

「──ぬ、ぬわあああぁあーーッ!?」

「それを言うなら、私のこの顔のアザはどうなるんだよ?! これから、大事な人と逢うことになっているんだぞっ!」


 そう言うと、途端にケイリングはそこで何かハッとした表情をし、次に困り顔を見せ、

「それについては……まあ、ちょっと悪いコトをしたかな? とは思っているわよ…」

と意外にも素直に謝り言う。

「でも、ホラ! 男の人の場合はさぁ~。そういうのだって勲章ってことで済むんだから。別にいいじゃない♪ あはは!」

「よくあるかよ! 相手は事情も知らないんだから、一目見て、びっくりしちゃうだろ。『普段からそういう素行の悪い人間だ』なんて思われたら、どうするんだよ?!」


 それを聞いて、ケイリングはプイッ!と横を向き、

「実際、イキナリ人の胸を〝つかんで触ってくる〟ような人間なんだから。そこはそう思われても仕方がない、ってモンだわよ」

とイジワルに言う。


「…………」

 アヴァインは昨日のことをそれで思い出し、頭を抱えた。言い返しようもない件だからだ。

「あーあ! リリアが可愛そうよ。まさかこんな男ひととだ、なんてさぁ~。きっと、がっかりするわね」

「え? リリア様とお前、知り合いなのかぁ?」

「知り合い、というか……友達よ」



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