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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第二章【アクト=ファリアナの心友】
25/170

―24―


※本作品は、PC仕様の横書きスタイルを前提にして部分的にセンタリング表現を用いておりますので、スマホなどでご覧の場合には『横向き』で読むことをお勧め致します。




「カルロス技師長が勾留(こうりゅう)された、というのは本当ですか!?」


 アヴァインは衛兵長官室へ入るなり、衛兵長官にそう食って掛かるかのように聞いていたのだ。

 ベンゼル衛兵長官は両手で両耳を押さえ、迷惑顔に言う。


「ああ、そうだ」

「どうしてですか!? カルロス技師長が一体、何をやったというのですかッ!!」


 ベンゼル衛兵長官は再び耳を押さえ、迷惑顔にアヴァインを見つめ言う。


「まあ、とにかく落ち着け。私も実のところ、そこまで詳しい話は知らないんだ。どうやら私も、カルロス技師長側の人間だと、思われている様子でなぁ……」

「はぁ……そうでしたか」


「『はぁ、そうでしたか』じゃないぞ、アヴァイン! そう思われたのには、君に責任がある!」

「私が!? ですかぁ……?」

 どうも反応の鈍いアヴァインに対し、ベンゼル衛兵長官は片方の手で顔を押さえ、困り顔にため息をつく。


「君は何かとカルロス技師長の肩を持ち。この私を、ちょくちょくと巻き込んでいただろう?

この件では、私だけじゃないぞ。ルナ殿だって、例外ではないんだ。マルカオイヌ・ロマーニ評議会議員だって、どうだか知れん。このままでは、カルロス技師長だけではない、この私も、近々どこへ飛ばされるか分かったモンじゃない……どうしてくれる?

今更この年齢で辺境へなんか飛ばされてでも見ろ。たまったもんじゃないぞ。

……さっきから他人事の様な顔をしているが、当然、お前もだからな。アヴァイン!!」

「ルナ様も……そうでしたか」


「……あぁ。まったく、お前ってやつは……どうしていつもそうなんだ。

上官であるこの私ではなく、そして自分自身でもなく。ルナ殿のことを気遣うとはなぁ……」


 ベンゼル衛兵長官は呆れ顔にそう言い、深い溜息をついたかと思えば、またこちらを困り顔に見つめ、更に繋げてくる。


「全く、お前に関わった者は皆、ことごとく不幸になってゆくな。そういう意味では、カルロス技師長も迷惑だったのかもしれん……」

「はぁ……なんだか、どうもすみません……」


 ベンゼル衛兵長官はこう言ってはいるが、カルロス技師長を個人的にすごく尊敬している人だった。だからこそ、これまでも協力的に動いてくれていたのだ。


「まあ、幸いというべきなのか……まだなんとも言えないがなぁ。この件が表沙汰になる前に、お前には良い話しが飛び込んで来た。

だからな、アヴァイン。分かっているな?」

「はい?」


「近頃と言わず、お前は随分と、ルナ殿の屋敷へ頻繁に出入りしているそうじゃないか?」

「はぁ……まぁ……その通りですが、それが何か?」


 そんな自分の反応に、ベンゼル衛兵長官は再び深いため息をついている。


「全く、ルナ殿も良い迷惑だろう……。この事も、色々と噂になっているぞ。何故だか分かるか?」

「と、いいますと?」


「あぁ……まったく…。いいか、アヴァイン。遠征中のフォスター将軍の屋敷に、独身の衛兵隊長が頻繁に出入りしている。とくれば、だ……それを面白がって噂にする(やから)が現れる、って事だよ」

「そんな! 私とルナ様は、何事もないですよ!!」


「そんな事は分かっているっ!! お前に、それだけの器量も度量もあるものか! お前のことだ。どうせビビって、手出しも出来ずに居るのはわかっている!」


 一瞬、嬉しかったけど……その理由はあんまりだ! 

 なにもそこまで言わなくたって……当たっているけど、ひどいな!


「それもこれも、お前がまだ未婚だからその様な噂が立つ。そこで、だ……」

 言うとベンゼル衛兵長官は、一枚の肖像画を見せて来た。

 そこには、どこかのご令嬢らしき若い十代半ばほどの少女の姿が描かれていた。


「スティアト・ホーリング貴族員のご息女で、リリア様だ。見ての通りの美人で、もう間もなく十五歳になられる。お前にはもったいない位の良縁だよ。羨ましい話だ」

「あのぅ……つまり早い話が、この方と?」


「ああ、そうだ! 明日の晩、このパレスハレス最上階五階のダンスホールで開かれるパーティーに招かれ、この度来ることになっている。

まあ、流れとしては……だ。お前の方からリリア様へダンスの誘いを申し込み、リリア様がそれを快く受けてくれれば、晴れて《成立》って訳だ。いいな?」

「え? しかし……」


「いいなッ!?」

「あ、はぁ……分かりましたよ…」


 余り気乗りはしなかったが、これ以上ルナ様に迷惑を掛ける訳にもいかないだろうし。これを受けることで、少しでも状況が良くなるのであれば、多少の不満くらい我慢するさ。

 そう思いながら、自分は長官室をあとにした。


 それに、色白で美人だったしなぁ~……。


 肖像画を思い出し、今さらだけどそう思う。

「あ、だけど。シャリル様には何て説明したらいいんだろう……参ったなぁ……」

 自分はそんな事を考え耽りながら、パレスハレス内の大回廊を歩いていた。

 そうして顔に当てていた右手を降ろそうとし、前に手のひらをやり前方なんかろくに見ないでため息をついていると、急に右手のひらに『ふにゃりん♪』とした感触のいい手触りが伝わってくる。若干、なにやら堅めの手触りも一部ある。


 それで「なんだろう??」と思い顔を上げて見ると。目の前には、赤みが濃い栗毛を腰辺りまで伸ばした綺麗で整った顔立ちの若い少女が立って居て。見るからに、豪華で高価そうなドレスを着た十五歳ほどの女の子が頬を真っ赤に染め上げ、動揺した様子で立っている。


 しかも何故か初対面なのに、どこか凄く困り怒っている様な? それでいて、今にも泣き出しそうな複雑な表情を見せていて……。

 よく見ると、その女の子の左胸に、自分の右手が見事に乗っかっていた。


 自分はそのあまりの感触の良さに、思わず……数度ほど揉んでしまう。



 ──ゴンンッツ☆!!



 目の前の女の子はいきなり自分の頭をド突いて来た。しかも、何度もガシガシ☆と蹴り踏みつけた挙句、突如、息をスーッと思いっきり吸い込んだかと思うと。


「きゃあああああぁああぁあああ────!!」


 と悲鳴を上げた。

 いや、『きゃー!』と叫びたいのはむしろ、こっちの方なんですけど……。




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