ー9ー
「負けて来ただと!?」
「……」
ワイゼル公国の首都エングラートに帰還した将軍は、ディステランテに叱責を受けていた。
「前後を挟まれ、状況不利と判断し、撤退を余儀なくされましてございます」
「……どういうことだ?」
「どこの軍とも分からない軍勢が、後方から攻めてきまして……その数、5万は居たかと」
「後方から……?」
「もしや……キルバレスではありませんか?」
ワイゼル公が座る傍に居た20代半ば程の女性がそう言ったのだ。
「ルシリエールの言った通りだとすれば、アヴァインか……あの男、この私をどこまで苦しめれば気が済むのだ!」
「例のアヴァイン皇帝ですか……遥々この様な辺境の地に来るとは……しかし、こうなると」
「簡単には手が出せなくなりますわね?」
「折角の機会を……」
ワイゼル公国は、フォスターの要塞街を突破し、城塞入り口まで攻め込んでいた。ディステランテが率いる軍勢とで強引に押していたところを、アヴァインの軍勢に後方から攻められ撤退を余儀なくされたのだ。
ワイゼル公国としては、またとない機会を失っていたのである。
それから3ヶ月、双方特に動きはなかった。その間にアヴァイン側は聖霊兵器を8000増やし、合計一万三千。重装甲の鎧を二万五千増やし、三万三千。戦力としては、合計46000。フォスター国と合わせ、66000もの大軍勢となった。
「戦力としては、互角以上となった。この機に攻めようと思うが、アヴァイン皇帝はどう考えますか?」
「攻め込み、ディステランテを討とうと思います」
「うむ。ディステランテは恐らく、首都エングラートに居ると思われる。此処まで行くのは中々大変だが、お互い頑張ろう」
「はい。あの男だけは許せないので……」
「……ルナのことを思ってくれるのはありがたいが、無理だけはするなよ。アヴァイン皇帝」
「分かっています、フォスター国王」
出撃は3日後となった。その間に出来るだけの準備を整える。
その3日後、軍勢は要塞街キーリング·フィーリアから出撃。難攻不落のグリトール要塞は避け、遠回りに迂回し、ガイデスヘルムの街を目指した。
水の都とも言われるガイデスヘルムは、幾つもの水路が街中を通っている街である。その川の水は、不思議な色をしていた。精霊水である。
そのガイデスヘルムの街から、ワイゼル公国軍が出て来た。数は3万である。
「突撃せよ!!」
「おおおおおおおおおおおーーー!!!!!!」
精霊兵器部隊フォスター軍と合わせ、23000がガイデスヘルム軍に突撃した。それに遅れ、重装甲騎兵も出撃する。
「精霊兵器部隊、一斉射撃後、左右に後方、装填せよ。
重装甲騎兵は精霊兵器部隊を追わせるな! 突撃!!」
パーラースワートローム製の精霊兵器は、致命傷にはならないにしろ拡散性があり確実に相手を倒していた。対し、キルバレス製の精霊兵器は拡散性が無く貫通力がある為、当たれば確実に致命傷となり、鎧も貫通し死に至る。
精霊兵器部隊の戦闘でワイゼル軍が優勢に見えたが、次の重装甲騎兵の突撃で貫通力の無さが災いし、ワイゼル軍の精霊兵器部隊は多く倒され、撤退を余儀なくされた。
「追撃せよ!!」
突撃していた重装甲騎兵がそのまま街まで駆け抜け、相手の精霊兵器部隊を追撃撃退する。そして街の門を閉められる前に突入し、閉めさせなかった。
そのままの勢いで聖霊兵器部隊も突入し、街中を走り回り殲滅していった。
残りのワイゼル軍は街からも撤退し、ガイデスヘルムの街は陥落した。
「うおおおおおおおおおあおーーーー!!!!!!」
兵達から歓声が上がる。
それから1週間、兵達の傷が癒えるまでガイデスヘルムの街に滞在することにした。
アヴァイン達はこの街の上院宿舎2階で寛いでいた。
「それにしても思ったよりも簡単に陥落できたよな」
ファーは鶏肉をつまみ食いしながらそう言った。
「この街自体が防御に特化した作りをしていないみたいですからね。壁も低いし……」
「守りが弱いってことは……この街に居る間は、油断出来ないってことかな?」
「そうなるだろうな」
ファーは鶏肉をおかわりしている。
「警護をしっかりする様、指示はしてますので」
「ありがとう、コージー」
「……1週間で傷が癒えればいいけどなぁ……」
「1週間後に進軍するかどうかは、状況を見て判断するよ」




