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―15―

 その翌々日、日も上がって間もない早朝から早速、五十騎もの《重装甲衛騎兵団》と共に出発することになった。


 実に仰々(ぎょうぎょう)しいことだわい。


 前方に二十騎、左右に十騎、後方に二十騎で固められ、アヴァインはカルロスが乗る馬車の右脇辺りに張り付き、常に周りを警戒している。


 意外にも真面目な男だのぅ。


 それにしても、これだけの数のエリート騎士団がたかが馬車一つを守る為だけに着いて行軍するのは、そうあることではなかった。流石のキルバレス市民も、その威容な様子に気づき始めたのか、それを遠目にも珍しそうにざわついて眺めている。


 カルロスはそうした市民の様子を、同じ様に遠目で眺めた。その道中、一人の子供が両親に支えられながら笑顔でこちらへ大きく手を振っている。

 カルロスはそれに気がつき、少しばかり遠慮しながらも手を振りそれに応えてみた。すると途端に、歓声が沸き起こり、周辺からカルロスを讃える声が聞こえ始めた。


 思いがけないことではあったが、なんともありがたいことよ。



 カンタロスまでは馬でならば急げばその日の内に辿り着ける距離だが、重装甲衛騎兵団が伴う行軍である為、一日半も要してしまった。

 カンタロスの貯水池まで残り十キロ程の地点から、道は急な斜面の坂ばかりとなり、しかも細い。更に右側は険しい絶壁の渓谷が続くようになり、皆の緊張感が伝わってくる。やがて、ここを監視している宿舎が見えてきた。皆一様にホッとする。


 少々早くはあるが、残りもあと僅かなので、今晩はここで夜を明かすことにしよう。別に急ぐ旅ではないからのぅ?



 ここの宿舎には三十名もの守備兵が居り、定刻が来ると異常がないか各八箇所もの宿舎同士と連絡を取り合い常に警戒をしている。それだけこの先にあるカンタロスの貯水池はこのキルバレスにとって、やはり大事な地であるということなのだ。


「そりゃあ、そうさ! このカンタロスの大水源があってこその、キルバレスなのだからな!」

「そう……なのかぁ?」


 アヴァインがここの責任者である男と話していたのだ。ここの重要性をどうやらアヴァインは余りよく理解してなかったようだ。

 そんなアヴァインの気の抜けたような返答を聞いて、ここの警備責任者は呆れ顔を見せている。


「ここへ来る途中、渓谷の谷底を流れる川の水の量を見ただろう? 物凄い水量だった筈だ。その流れる水の量は、この上流にある貯水池の水門によって調整され流されているんだ。何も考え無しに流している訳じゃあ~ないんだぞ。

その日の天候や時期に応じて、流す量を決めている。

今は水が大量に必要な時期であるから、水門は多めに開け、下流域の穀倉地帯を潤しているって訳だ。

そればかりじゃなく、工場や人々の生活水としての水も、ここから水道橋を通り、首都キルバレスの人々の喉を潤している。

どうだぁ、少しはここの重要さが分かったか?」


 そうだ……そしてその水門を造ったのが、あのグレインだ。

 カンタロスの水門は、彼の設計により造られた。グレインはおそらく『そこを目指せ』とこのワシに言いたかったのだろう。


 気のせいかもしれんが……そこでこのワシにグレインが何をやらせたいのか、ここに来てもうから想像出来てきたわい。

 グレイン……それは流石に無理というモノだよ。拙い、このワシには荷が重た過ぎる……。



「へぇー! となると、万が一にもここを他国に抑えられると、キルバレスはかなり大変なことになる、って訳ですね?」


「ああ、そうだ! 大変どころの騒ぎじゃないさ! だからこそ、俺たちの様な信頼される者達だけで、この貯水池一帯は守られている。

知ってるかぁ? 俺の名は、ガストン・オルレオール。俺の親父は、元・評議会の議員だった。

ここには、そういった履歴のハッキリした者しか居ないのさ!」

「そりゃあ、凄いな! なるほどねぇー」


 アヴァインがそう関心していると、ガストンとかいう男が急にこちらの方を向いた。


「それにしましても……カルロス技師長。何用があって、ここへ参られたのですか?」


 なんとも実に不信そうな目で、こちらを見ておるわい。まあ彼の立場上、無理もないがな。


「単なる見聞の為じゃよ、深い意味などない。足腰がまだ動く内に、噂に聞く、この地を一度この目でしかと見ておきたくてのぅ……ふぁっは!」

「……そうでしたか、なるほど。確かにこの先にある水門と水源となる山々は、一見の価値があります。折角ですからじっくりと見られて行かれるのがよろしいでしょう。

しかし、重装甲衛騎士団の装備は、この先から解いて頂きます。あと、お連れする者も、三人までに絞って頂きたい。それがここの決まりなので」

「ちょっと待て! このお方は──!!」


「よい! もっともな話だ。下手なことをこの先でされては、困るからのぅ。

ここはな、それほど《重要な地》という訳なのじゃよ。アヴァイン」


「あ、はぁ……分かりました。カルロス技師長がそう言われるのであれば、それに従います」

 アヴァインは不服そうながらも納得してくれた。


 正直、ここで人が減るというのは寧ろこちらとしちゃ助かるやもしれんな。この手紙の端に落書きの様に記してあるこの目印……少なくとも、ここへ行く時にはワシ一人の方が良いだろう。

 水門の端、手前……ここに一体、何があるというのか? 少々不安な点も多い故、そこで下手に騒がれても困るからのぅ…。


 カルロスは夕食後、ベットで疲れた体を休めながら薄明るいランプでその手紙を改めて眺め、その日の夜は手紙の中に記された目印を遠目に見つめながら静かに目を瞑った。




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