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問題となったのはその世継ぎだった。初めに上がったのは、アヴァインだったが、当のアヴァインがそれを断ったからだ。次に世継ぎとして名が上がったのは、カルロスの孫であるルシアン·アナズゥエル(17)であった。カルロスの子であるルシアスは、キルバレスの再興に資金面で尽力を尽くしていた。何よりも先帝カルロスの孫である。それを評価してのことだった。
カルロス死去後、ひと月後、ルシアス·アナズゥエルが第二代の皇帝として就任することになる。
「本当に良かったのか……?」
ファーだ。
今は最高評議会議事堂パレスハレスが見える評議員宿舎の3階で、ファーと互いに椅子に座り、ブドウの絞り汁を頂いている。
「後悔はないよ」
「オルブライト様は残念がっていたぞ」
「ケイリングもね。ずっと怒ってる」
「そりゃそうだろうさ」
「そう言えば、スティアト·ホーリングさんも不満そうにしていたね。随分と嫌味を言われたよ」
「大抵、皆がそうなんだよ。何せ今度の皇帝は実績もない御曹司だ。頼り甲斐なんてないだろうからな」
「大丈夫だよ。今のキルバレスに勝てる国なんてそうない。戦争さえ仕掛けなければ、問題ないさ」
「戦争しかけてもお前がいれば、だろ?」
「どうだろうね?」
アヴァインは肩を竦めて見せている。
「君がいれば安心さ。寧ろ、頼って貰わなければ困るよ」
そのファーの不安はある程度当たっていた。
最高評議会議事堂パレスハレス内にて──。
「先ずは北部の問題です。これまで、話し合いをもって対応してきましたが、以前として解決の目処がたちません。小国同士の小競り合いが続き、死者も出ている有り様。これの解決を求めたい」
「カルロス様の遺言でもある。話し合いを続けていくしかないと思うが……」
「そのカルロス様はもう居ないのだ。もう良いのではないか?」
「攻め入るというのか?」
「圧力を掛けるだけでも良いと思うが……」
「圧力を掛けても攻め入らないと踏んでいる。今や効果が薄い……」
「皇帝はどうか考えておりますか?」
「……話し合いは通じないと聞く。だが、通告無しに攻め入るのもどうかと思う。先ずは通告。それに従わない国に対しては、攻め入る」
会場はざわめいた。
「軍勢は如何程に?」
「小国ばかりだと聞く、3万もあれば十分ではないのか?」
「軍令部、どうか?」
「一番持っている国で1万5千程と聞いております……こちらには聖霊兵器もありますし、それで対応は可能かと思いますが」
「ならばそれで進めるとしよう」
「それから、北部への侵攻は私自らが指揮する」
「皇帝陛下自らが……?」
周りはざわめいた。
「不服か?」
「いえ……わかりました」
「次に南部について話し合いたい」
「前回の対戦で旧キルバレス軍は疲弊している筈です。早急に総力戦を仕掛けるのは如何か?」
「しかし、北部の問題もある……」
「南部に比べれば、北部など大した問題ではなかろう。先ずは南部の追撃がよい」
「疲弊しているのはいえ、まだ4万は居る筈。北部の問題を先ずは解決してからとしては?」
「ふむ……」
「皇帝としては如何でしょうか?」
「……北部の問題を先ずは優先する。南部については、北部の問題が片付いてからとする」
会議は終了した。先ずは北部への通告と、それ次第での戦闘である。南部については、その解決後となった。