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5日後、キルバレス軍は撤退し始めた。情報によれば、カナンサリファに侵攻していた軍も同様である。凡そ10万の軍勢がキルバレスに帰還している。中には投降する者、道半ばで倒れる者も居た。
「追撃しますか?」
「いや……このままでいい」
ここで追撃など残虐過ぎるだろう……。
だが、北部ではそれが現実に起きていたという……悲しい現実だ。
3日後、オルブライトの軍も合流したことでアヴァインはカンタロスからキルバレスへ向けて出立した。
それに遅れて、皇帝ディステンテがキルバレスから逃げ出したとの報告が入った。
「逃げて何処へ行く気なのかね、彼は……」
「……連れられてゆく兵士も居ると聞きます。再起を果たすつもりでしょう……」
2日後、到着すると首都キルバレスの門は開けられていた。抵抗するつもりはない。そういうことなのだろう。様子を窺うが、待ち伏せもない。それを確認し、オルブライト様を通した。
アヴァインは早速、最高評議会議事堂パレスハレスへと行き、ベンゼル衛兵長官を訪ねた。聞けば今は軍令部長官らしい。
「まさかこんな形で再開するとはね、恐れ入ったよ、アヴァイン。いや、今はアヴァイン将軍か」
「ハハッ。相変わらずですね、ベンゼル長官」
お互い懐かしさに笑顔が溢れた。
「見た通り、キルバレスはもう終わりだ。これからどうするね?」
「恐らくコーデリア国とカナンサリファ国を中心に、立て直しされると思います」
「ほう……オルブライト殿が統治するのかな? しかしそれにカナンサリファや北部の者たちが黙っているのかね? キルバレスの国民も黙ってはいまい。無視は出来んぞ。
いっそ、君が統治してはどうだ? 今や君は英雄だ。キルバレスの人間でもある。もしかすると上手く行くかもしれんぞ」
「いえ……私はそれよりも、誰もが納得する人物を知っています」
「ほぅ……それは誰だね?」
軍令部長官は、その名を聞いて納得した。
翌朝、アヴァインは豪華な黄金の馬車を中央に1000名の重装甲騎兵を引き連れてある場所へと向かっていた。
そこでは鉄格子が張られ、中では白毛の老人がクワを振りかざし土を耕している。
辺りがざわめく中、アヴァインはその中へと入って行き。その白毛も老人の前で膝をついた。
「お迎えに参りました。カルロス技師長」
「……誰かと思えばお前さんかい。アヴァイン」
「はい。お元気そうで何よりです」
「さて、まだ元気が残っておるかのぉ……」
「はは、大丈夫ですよ。私が見た限りは、ですがね」
近くの小屋で着替え、カルロスは黄金の馬車へと乗り込み、一路キルバレスへと向かった。首都キルバレスへ着くと大喝采が上がり、カルロスの名が歓喜の声で叫ばれていた。
数日後、戴冠式を受け、斯くして、再統一されたキルバレス帝国の初代皇帝として、カルロス·アナズゥエルが選ばれたのである。
それから暫くして、ケイリングがキルバレスへとやって来た。
「アヴァイン……もうこれ以上待てないわよ」
「ハハ、わかってる」
ひと月後、アヴァインとケイリングの結婚式が行われた。それは英雄として相応しい盛大なものであった。
シャリルやメルも参加し、ファーも祝ってくれ、ハインハイル交易ギルドの面々も参加し、ロゼリアばあさんを始め、パウロ技師、ポルトス技師、バリエル技師 ニキータも居て、会場に入りきれない程の人が集まり、実に幸せな時であった。