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次の朝、アヴァインは陣営のことをファーに任せ、メルの居るパレスフォレストへと向かった。そこの責任者に事情を話し許可を頂いたが、問題はメルの方だった。彼女が助けようとしていた不思議の少女フィオーネ・カランが、つい数日前に亡くなったのだ。
屋敷の離れにある小屋に行くと、メルが机に突っ伏して泣いていた。その傍で、シャリルがどうしようもなく困り顔で佇んでいる。
アヴァインは後ろ手で扉を閉め、奥へと入り、メルの傍まで行くと口を開いた。
「メル……こんな時で申し訳ないけど、頼みがあるんだ」
「……」
声を掛けると、メルは泣くのを辞め、何も言わず黙ってしまった。隣を見ると、シャリルが頭を左右に振り、「今は何を話しても無駄だと思う」という様子を見せている。
気持ちは解るが、でもこれで帰る訳にもいかない。
「君の協力次第で、この屋敷の者やメルキメデス家の命運が決まる。是非、フィオーネに使おうとしていた秘薬を作って、分けて欲しい。頼めないだろうか?」
「……それを何に使うの? 戦争?」
その言い様は、憎悪が込められているようだった。それから顔を上げ、睨みつけるようにこちらを向き、泣いて赤くなった目を擦りながら口を開く。
「フィオーネを連れ去ろうとしていた人達も、フィオーネを戦争に利用しようとしていたわ。
彼女が何をしたというの? フィオーネはただ、幸せに暮らしたかっただけなのに。それを無理やりに……」
「……」
メルはまた突っ伏して、泣いてしまった。
今の彼女に何を言っても無駄だろう、そう悟ったアヴァインは仕方なくそのまま帰ろうとした。何しろ、事実、戦争にそれを利用しようとしていたのだ。言い訳のしようがない。が、
「メル! あなたの今の気持ちは解るけど、このままだとそのキルバレスの兵に、この屋敷の人もケイリング様も酷い目に合うかもしれない。それでもいいの?」
「……」
「残酷なようだけど、勝たなければ、今のメルと同じ思いを沢山の人がしなければならなくなる……。それでもいいの?」
メルは流石に感じ入ったのか、シャリルの方を少しだけ見た。
「わたしは嫌、これ以上知ってる人達が傷付くのを見たくない。大事な人を失いたくない! 辛い思いをしたくない……」
そう言ってシャリルが泣き出すのを見て、メルは慌てた。
「ごめん、シャリル! わたしが悪かった!!」
それからメルは、アヴァインの方を見る。
「約束をして欲しいの」
「約束?」
「うん。この秘薬を使って、戦う意思の無い人を傷つけたり、巻き込まないで。あと、出来るだけ無駄な血は流さないで。それから、早く戦争の無い世の中を作って。それが守れるのなら作るわ」
「責任重大な課題だね……。わかった、自分も望むところだ。約束するよ」
「絶対よ! ──わっ!?」
そう言ったメルに、シャリルが喜び抱き着いたのだ。
「メル、ありがとう。メルなら、そう言ってくれると思ってた!」
結果的にシャリルのお陰で、弾薬の素となるものを手に入れることが出来た。あとはこれを弾薬として使える形にするのだが……それはグランチェ技師にお願いする。
夕方、パレスフォレストを出て、陣営に戻ると大荷物が届いていた。《ハインハイル交易ギルド》ギルドマスターブリティッシュからの贈り物である。と言っても……有料だが。とても有り難いモノだった。
「新型の聖霊兵器100丁に弾薬、これだけの量をよく今のカルタゴから運べましたね」
「そこがうちのギルドの凄いところで、必要とあればどこからでも何でも運びますぜ。コレ次第で!」
しっかりとしている。
その男の情報によれば、ラグーナからこちらへ1500程の兵が向かっているらしい。あと二日で着くそうだ。着々とアルデバルへの侵攻準備が整いつつあった。
◇ ◇ ◇