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翌日、食事を頂き直ぐにポルトス技師達の元へと向かった。途中、キルバレスの兵が行き交い緊張が増す。
昨晩調べに行かせた警備員の話しによれば、いよいよアクト=ファリアナとの交戦が近いことが噂となっていて、この街を逃げ出す者や、逆に徴兵に来る者が後を絶たないとのことだ。対アクト=ファリアナとなると前線になるこの街としては、当然の成り行きであった。
「おや、これは珍しいお客人が来たわい」
ロゼリア婆さんの家の中へと入るなり、バリエル技師がそう言い迎えてくれた。
「お久しぶりです。バリエル技師」
「うむ。今回はまた、客人が多いものだな」
状況が状況なだけに、宿屋には誰も残さず此処へとやって来ていた。コージも、当然ニキータも初顔合わせになる。
それぞれに挨拶し、用意して貰った椅子に座り、お茶を頂いた。本当はぶどうの搾り汁が良いのだが、無いものは仕方がない。
「それで今回は何用で来たんじゃい?」
「近々、キルバレスとアクト=ファリアナが戦争になります。なので、聖霊兵器と弾薬を出来るだけ多く用意して欲しいのです」
「……それは唯ならぬ話じゃな」
「作るのは良いが、それを敵に渡せば、我々は裏切り者ということになるわい」
「さよう、腐ってもワシらはキルバレスの者じゃからな」
「………」
考えてみればそうだった。ポルトス技師達はキルバレス側の人間だ。こうなるのは予想出来たことなのに、うかつだ。
「それで、コレは幾らくれるんじゃな? 高くつくぞい」
そこで三人は、ニッと笑んだ。ポルトス技師達もひとが悪い。
とりあえず持ってきていた銀貨8000枚を渡した。
「直ぐに欲しいとなれば、材料も揃えねばならん。ワシらだけでは大変じゃから、手伝って貰えるかの?」
「わかりました。後で必要なものを書いて置いてください。揃えさせますので」
「出来ればその娘も置いていって欲しいの」
バリエル技師が、ニキータを指さしてそう言った。当のニキータは顔を真っ赤にして口を開く。
「嫌だ、冗談じゃない!」
「話によれば、凄い学者さんらしいから、此処で学ぶのもありかもしれないよ?」
「お前バカじゃないのか!」
コージのひと言に、ニキータは顔を真っ赤にしてツッコんでいた。
「ふぉっ、ふおっ♪ その元気が良いのがまた良い。実に助手向きじゃな」
「助手?」
早い話し、人手が欲しいとのことだった。少しでもいやらしい意味だと誤解した自分が恥ずかしいとニキータは思う……。
「まあ、助手ということなら……アーザイン、それで良い?」
「ああ、ニキータが望むのなら何も言うことはないさ」
「コージは?」
「ちょっと寂しくはなるけど……それで、ニキータが幸せになれるのなら」
ニキータはコージの言葉を聞いて、微笑む。
「幸せになるさ! って、お前もなっ!!」
そう言って、コージの背中をバシバシと叩く。
「では、前回貰った銀貨で用意したモノをだそうかい」
ミカエル技師がそう言って、奥から色々なモノを持ってきた。
「携帯型の聖霊銃じゃ。弾は専用に用意する必要がある。当然、威力も殺傷能力も飛距離も聖霊兵器よりか劣る。が、護身用としては申し分無しの筈じゃ。で、弾はコイツを使う」
「ありがとうございます。凄い」
片手で持って使える大きさ形だった。これなら服の中に忍ばせて置くことも出来そうだ。
「問題は弾の中身じゃ。前に腐って使えないからと譲って貰った精霊水は、そろそろ底をつく。代わりとなるものを見つけて用意するか、パーラースワートロームから取り寄せるかする他にない」
「見つけるといっても簡単ではないぞ。そもそも精霊水自体が珍しいモノじゃからの」
「現地へ行って取り寄せるのが、やはり早いのかもしれぬの」
「現地といっても……」
パーラースワートロームまでは、数千キロも離れていると聞いている。今からそんな遠くからなんて無理だ。時間がない。いや、待てよ……珍しいと言えば……。
「最近、アクト=ファリアナでも大変珍しい水が出ると聞きます。あと鉱山都市アユタカにもありました。それらと掛け合わせれば、或いは……」
そう言えばメルという娘もそうやって掛け合わせ、精霊水を作り出そうとしていた。魔晶石という不思議な石が反応していたのを考えると、ほぼ出来ているのかもしれないな。
アヴァインはパレス=フォレストでの事を思い出し、そう考えた。
「不思議な水がここ以外にもあるとは初耳じゃ。ならば是非、それを運んでくれ」
「届き次第、研究しようじゃないか。ふあっ、ふあっ」
「そうします」
次いでに、メルにも沢山送り届けることにしよう。
そう考えた矢先だ、外から門番が家の中へと勢いよく入って来て口を開いた。
「大変だ! キルバレスがアクト=ファリアナへ攻め込んだそうだぞ!!」
「──!!」
状況は、こちらが準備を整える前に走り始めていた。
第二部 第15章 【火蓋は切られた】終
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