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アヴァイン達は、デリー村から湖畔の町サリシュへと向かっていた。その後を例の少女ニキータが馬に乗り付いてくる。その理由は、一度でも身体を許した男性に身を捧げるのがこの村の習わしだから、ということだった。彼女の年齢は十六歳らしい。
「このままアクト=ファリアナまで付いて来られたら、大変なことになるぞ。アヴァイン」
「分かっているよ……」
「本当に覚えてないのか?」
「覚えてない……」
最悪だ。気をつけていたのに、こんな事になるなんて………。
困り顔で後ろを振り向くと、ニキータはにこやかに微笑んで手を振っている。
見た目が可愛いだけに、小悪魔に見えてきた……。やれやれ。
アヴァイン達は、街道の町ラグーナに到着した。人口五万人程が住む町である。早速今夜泊まる宿屋を確保し、食事をして、それぞれに別れ部屋に籠った。
「とうとうこの町でコーデリアの殆どの町を回ったことになるけど、このあとどうするんだ?」
窓辺でぶどうの搾り汁を頂いていると、ファーがワイン片手にそう聞いてきたのだ。
「カルタゴに行こうと思ってる。弾薬が必要だからね」
「そうか。聖霊兵器自体も、もっと造って貰ったがいいかもな」
「どのくらい必要かな?」
「とりあえず百丁は要るんじゃないか」
「百か……弾薬も相当必要になるね」
ポルトス技師達に、当分頑張って貰うことになりそうだ。
それから数日掛け有力者と話しをして、次の日から鉱山都市カルタゴに向かうことにした。
その日は早く目が覚め、飲みかけのぶどうの搾り汁を窓辺で頂いていると、誰かが大きな荷物を背に裏の馬小屋に向かっているのが見えた。
「まさか泥棒か……?」
アヴァインは不審に思い、細身の剣を手に下へと降り、馬小屋へと向かい様子を覗う。どうやら馬を盗み出そうとしているようだ。気づかれないように近づき、スラリと剣を抜いて、その者の背後から首筋に剣を置き、声を掛けた。
「おい、何をやっている?」
「うわっ!」
驚き馬にしがみついている者をよく見ると、ニキータだった。
「ニキータ? 此処で何をやっているんだ?」
「あ、えと、それは……その………」
明らかに動揺し、わたわたとしている。
「朝から、この子のお世話をしようと思って!」
「……そんな大荷物抱えてか?」
ニキータがいつも持つ、荷物以上の大荷物を背中に抱えていて不自然極まりない。
「これは!? つまり! その……」
「………ちょっと見るぞ」
とにかく、背中の荷物の中身を覗いてみる。中には、アヴァインが途中途中の町で売り買いしてきた貴金属類と五十枚ほどの銀貨が入っていた。
「これを、どうするつもりだったんだ?」
「う……」
ニキータはそこでドッと座り、開き直った様子で口を開く。
「ああ、そうだよ! 盗んで売って、生活の足しにしようと思ってしたんだ」
「どうして、こんな事をしようとしたんだ?」
「デリーみたいな田舎で、生涯を終えたくなかったからだよ。だからアンタを嵌めたし、それで村からも出られたし、コイツも盗もうとした。これでいいか?」
「……嵌めた? って、どういうことだよ?」
『コイツはしまった』という表情をニキータはして、仕方なく白状した。
「要するに、私はアンタに抱かれてないし、アンタは私を抱いてない。そういうこと」
デリー村での事件は、ニキータが村から出たさが故の自作自演だったそうだ。それで上手いこと村からは出られたものの、今後の生活の事とか色々と考えている内にいい感じのこの町に着き、それで今になって決行したらしい。
アヴァインはホッとし、大荷物を取り上げて言う。
「どうしても行きたいというのであれば止めはしないけど、これは返して貰う」
「あああっ、困るよ!」
ニキータは半泣きしながら懇願しているが、今後のこともあるので返して貰う。
「イジワルっ! ケチ! 裸見たクセに!! セクハラ!」
「見たくて見た訳じゃないよ」
「なんだよっ、魅力無いって言いたいのかあっ!?」
「そんなことは無いよ。ニキータは可愛いし、十分魅力的だ」
「……え」
言われ、ニキータは頬を真っ赤に染めている。が、
「へんたいっ! セクハラっ!!」
「…………」
再び、そう言われてしまった。
◇ ◇ ◇