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『パラド=スフィア物語』 -カルロス-(オリジナル)  作者: みゃも
第二部 第15章 【火蓋は切られた】
133/170

─2─

 翌日、朝から湖畔の町サリシュへと馬を走らせた。町といっても、人口五千人程の小さな町だ。多くは漁業を行い生計を立てて暮らしている。


「ここでも有力者と話すのか?」

「そのつもりだよ」

「小さな町だし、気にしなくても良いと思うけどな」

「少しでも死傷者を出さないに越したことはないからね」

「……なるほど」

 ファーは感心した表情を見せ、納得した。


 その後、数人の有力者と会い、半々で味方に付いてくれる方向に固まった。旧コーデリアの領地とはいえ、キルバレスを簡単には裏切れない風がやはりあるようだ。


 とはいえ、それも初戦の戦況次第なのだろう。

 小さな町ではあったが、十日間もの滞在を余儀なくされた。


 

 湖畔の町サリシュの次に、少し北にあるデリー村へと向かった。デリーでは火薬の原料が取れるので、重要だと考えてのことだ。およそ半日程で辿り着く。早速、有力者と会い話は纏まったが、面倒なことを依頼された。


「盗賊退治って……この村には自警団すらないのか?」

「数人で向かったけど、返り討ちにあったらしい」

「マジか!? そんな相手に、オレたちだけで勝てるのか?」

「難しいだろうね。だから、村の中に協力者が居ないか募集はしてみるよ」

 

 直ぐに募集をしたが、集まったのは三人だけだった。


「少ないな……」

「とりあえず、明日の朝から向かうことにしよう」


 その日はそのまま泊まり、次の日、盗賊が居るらしい山岳地帯へと向かった。


 居場所は、焚き木の煙で直ぐに分かった。まだ日は高い。

「奴ら、バカみたいに油断しているな……」

「好都合だよ」

「どうする?」

「とりあえず情勢を掴み、策戦を立てる」


 先ずは、相手盗賊の人数を調べさせた。そしてこの辺りの地形を調べさせ、簡単な地図を作り、実際に見て回る。 


「盗賊の人数は二十五人か。意外と少ないな」

「それでも、オレたちよりは多いけどな」

「そこは策戦と戦術で何とかするさ」

「期待しているよ」

 ファーは、まるで他人事のように言う。

「この場所は使えるな。此処に誘き寄せて、一斉に……いや、それだけだと怪我をするか」

「油を撒いて、そこを火薬付きの弓矢で襲うというのはどうだ?」

「それは良いね」

「じゃあ、一旦村まで戻るか」

 策戦も整ったので村へと帰り、村長に話して道具を揃える。


 策戦決行は、翌朝早朝のまだ日が上がり切らない時間に決めた。誘き寄せる予定の土地に油を撒き、滑り易いのを確認する。

「ここへ入ったのを確認したら、直ぐに火薬付きの弓矢を放つ。その後は普通の弓矢で距離を取って連射だ。良い? 

あと、単独で盗賊を追い掛けるのは禁止だ。危険だからね」

「わかった」

「その時点で数が優位なら、相手に投降を呼び掛ける」

「断られたら?」

「また、戦うまでさ」

 今の時点で想定される状況と策戦を練り、決行開始する。


 警備隊員の一人が女装をして、盗賊団の隠れ家付近で叫び声を上げる。その黄色い声は微妙だったが、飢えた盗賊達は直ぐに反応して我先に追い掛け始めた。

 予定の誘き寄せ場所へと向かい、女装のけいは油の撒かれていない印の場所をトントンと飛び乗り越え、奥へとゆく。それを見て、盗賊達は相変わらず我先にと誘き寄せ場所へと突き進んでいき、見事に次から次へと滑りまくりハマってくれた。


「よし!」

 アヴァインの合図と共に、火薬付きの弓矢を放ち、それは火花を散らし忽ち燃え広がってゆく。盗賊達は驚き、逃げようとするも弓矢に倒れ、服に火がつく者も居た。そんな中でも何とか逃げ切る者も居たが、そこを弓矢で射って倒した。


 暫くして状況が落ち着いて結果を見ると、生き残った盗賊は僅か十五名だけとなっていた。それも傷を負い、最早戦える状態ではない。

 アヴァインがその首領らしき男に投降するよう言うと、項垂れながらもそれに従ってくれた。


 盗賊団の手首に縄を巻いて村まで連行し、村人達から拍手喝采で迎えられる。そして、村長に彼等の処分を託すことにする──。




 その夜、盗賊団を捕らえたアヴァイン達を招いての祝宴が開かれた。それぞれに女性を宛てがわれたが、アヴァインはそれを断った。

 ぶどうの搾り汁を飲んでいると、程なく十六か七歳ほどのスラリとした少女が隣に座る。


「イイ男は、女の子を大事にするものだよ」

「……粗末にした覚えはないけど?」

「そっちにそのつもりが無くても、相手にされずに傷付く女の子もいるってこと」

 何のことかと思ったが、間もなく女性を断った件だと気付く。


「生憎、もう決まった女性が居るもんだからね」

「あらあら、それはご馳走さま」

 そう言って、女性はお酒を一口飲む。まだ未成年だろうに……。


「その人って、美人なの?」

 そう聞いてきた。

「とても素敵な人だよ」

「ほんとに? それって、美人でもない人によく使う言葉だよね?」

「……美人さ」

「はいはい、そうですか。ご馳走さま」

 少女はそう言って、身体をアヴァインに近づけてきた。それをアヴァインは困り顔で押して戻す。


「……つれない人ね」

「お生憎様。もうコレくらいにしてくれる?」

「…………」

 少女は不快げに立ち上がり、去って行った。


「おい、アヴァイン。良かったのか?」

「良いに決まってるだろ」

「そか。可愛いかったのに、勿体ないなー」

「そういう問題じゃないだろ」

「はいはい」

 

 その日は遅くまで飲み明かし、次の日の朝を迎えた。アヴァインが目を覚ますと、隣に人の気配を感じ、布団を引き剥がす。するとそこには、昨晩出会った少女が裸で寝ていたのだ。よく見るとアヴァインも裸で、否応もなく嫌な予感がする。


「あら、起きたの? 昨日は、とても激しかったわね♡」

「…………」


 まったく記憶に無かった。



  ◇ ◇ ◇

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