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─4─


 翌朝。朝食を食べ、身支度を整え、ケイリングの部屋を訪ねることにした。

 部屋に入ると、ベッドの上でうつ伏せに寝ているケイリングの姿が見えた。おそらく、背中を斬られた為だろう。部屋の中には、15・16歳程の少年と看護の者にメイド一人が居た。少年はケイリングの弟コーリングだ。前に紹介されたことがあるので覚えている。

 アヴァインは、二人に軽く会釈をし、中へと入った。


「おはようケイ、調子はどう?」

「とても良いとは言えないわね」

 ケイリングは、困り顔で苦笑いを浮かべていた。それから思い出したように、頬を真っ赤に染めている。


「どうしたの?」

「なんでもないわ」

 なんでも無いようには、見えないのだが……。


「じゃあ、姉さん。僕はこれで」

「あ、うん。ありがとう、コーリング」

 ケイの弟コーリングが出て行き、遅れて看護の者も気を利かせて出て行った。部屋の中には、ケイとアヴァインの二人だけになる。


 アヴァインは咳払いを一つし、窓辺へと向かい、近くの椅子に座った。

「ところでさ……父様から何か言われた?」

 座った所で、ケイからそう訊ねられ、困ってしまう。


 正直に言った方が、良いのだろうか?


「ケイの事を聞かれた」

「あ、そ、そう………それで?」

 ケイは身体中を真っ赤に染め、クッションに蹲っている。

「別れて欲しい、という話をされて終わり」

「──えっ!!? あ、痛たたた……」

 ケイは驚いて急に起き上がろうとし、怪我したところを痛めたらしい。


「そんな……父様の話では、アヴァインは納得してくれたって……!」

「え? 納得って何を??」

「それは!」

 ケイは言いそうになり、口を手で押さえた。顔は青ざめている。今にも泣きそうだ。


「アヴァインは、父様から私の気持ち……?」

「うん、聞いたよ」

「はわぁ~……」

 ケイは今度は真っ赤になり、クッションの両側を持ち上げ顔を埋めた。青くなったり、赤くなったり忙しいものだ。それからチラリと、こちらを見る。


「それで?」

「ケイと結婚する者に、この国を継がせたいと仰せになり」

「……それで?」

「国を継ぐとか、自分には相応しくない話なので」

「…………それで?」

「他の者に譲るべき案件だと思って」

「…………………それで?」

「オルブライト様もそういうつもりで、別れて欲しさに語ったのだと思って」

「………………………………それで?」

「わかりました、大丈夫です、と答えて終わり」

「……………」

 ケイは、悩み顔のあと困り顔を見せ頭を押さえている。


「アヴァインはさあー!!」

 ケイは急に面を上げ声を上げたが、直ぐに涙ぐんだ。

「ど、どうしたんだよ? ケイ」

「どうしたもこうしたも……情けなくって」

「なにが??」

「アヴァインは私のこと、どう思っているの?」

 急にこちらを向き、真剣な表情で聞かれ、思わず頬が真っ赤に染まった。


「た、大切な友達だと思っているよ」

「友達? それだけ??」

「そうだよ……」

 オルブライト様に言った手前、それ以上のことを言える訳が無い。

 一方、ケイの方は怒った表情を見せている。それから頬を染め、チラリとこちらを見つめ、恥ずかしそうにして口を開いた。


「私は、アヴァインのこと好きだよ……」

 ケイに震える声でそう言われた途端、全身が真っ赤に染まるのを感じた。

「愛してるか、って聞かれたら。はい、って答える自信もある。なのにアヴァインは、私のこと、ただの友達としてしか見てなかったの?」

「それは……」

 目を潤ませて言うケイリングに、愛おしさを感じた。


 正直、意識していないと言えば嘘になる。ケイリングほど、心を許せる女性は他に居ない。ずっと傍に居られたら、幸せだと思う。でも、彼女はただの女性ではない。オルブライト様との約束もある。軽はずみなことを言える筈がない。

 でも、これくらいなら許される筈だ。


「ただの友達じゃないよ……。とても、大切な親友だと思っている」

「──!!? あ、痛たたた……」

 ケイは怒り心頭な表情で、こちらを叩こうとして体を起こし、また傷口を痛めたらしい。


「はあ……何だか急に、バカバカしくなってきた」

 ケイリングは呆れ顔にそう言い、小さく笑んだ。それから指をこちらに差し、うつ伏せのまま真剣な表情で口を開く。


「先ず、言って置くけど。お父様は、アヴァインに別れて欲しいなんて言ってないから。そこは、アヴァインの勘違いだから」

「え? だけど……」

「それで間違いないわよ。お父様も勘違いして、此処に報告しに来ていたし」

「オルブライト様が勘違い?」 

「そうよ。アヴァインが、私との婚約を納得してくれたって浮かれてた」

「──婚約ッ!?」

 身に覚えがないことなので、驚いた。そうなると話が全然変わってしまう。頭が混乱してきた。


 そうした中、ケイリングはわざとらしいツンとした表情を見せる。


「もちろん……アヴァイン自身は私のこと、ただの親友くらいにしか思ってないんでしょうけどね?」

「そんなことはないよ! 大切な親友だと思ってる」

「ここに至って、まだそれッ!? 親友って、言ってくれるのは嬉しいけどさ……」

 ケイリングは困り顔を見せ、それから頬を赤らめながらソワソワして言う。


「改めて聞くんだけどさ。状況が今、解ったでしょ? 色々誤解があった事とかさ。取り敢えず父様は、アヴァインのこと認めているし……。アヴァインがダメってことは全然ないの。それは理解したよね?

それでさ、アヴァインとしてはさ、他に何か言いたいこととか伝えたいこと今になってないのかな??」

「他に、って?」

「──!!? あ、痛たたた……」

 またしても起き上がろうとして、傷口を痛めたらしい。


「もういい!」

 ケイはぷぅーと頬を膨らませ、そう言う。

「出て行って!」

 どうやら怒らせてしまったらしい。


 困り顔で扉を開けて部屋を出ると、そこにはファーとケイの弟コーリングが耳をそばだて立っていた。

 アヴァインは、呆れ顔に二人を見る。


「悪趣味だね……」

「悪趣味というがな、アヴァイン」

 ファーは咳払いを一つしながら、取り繕い言う。

「あれではケイ様が可哀想だ」

「姉さんが可哀想です……」

「そう言われても……」

 なんの事だか分からない。


「お前が色恋事に疎いのは知っているが、あれだけケイ様がハッキリと告白しているのに、お前は何も言って返さないのか?」

「というと?」

「………」

 ファーはガックリと肩を落としている。代わりにコーリングが言った。

「要するに姉さんは、貴方に告白したんです。それに対し、貴方は?」

「…………あ」

「ようやく気づいてくれたんですね」

 言われて見れば確かに、このままではケイリングが可哀想だ。とは言え、今更なんて言う? 

 少し考えたが、答えに迷うばかりだ。

 ともかく、アヴァインは直ぐに踵を返して、部屋の中へと戻ることにした。


 急にどうしたのか、といった様子のケイに対し、アヴァインは頬を紅潮させ言う。

「ケイの気持ちは、凄く嬉しい! それで自分の気持ちなんだけど……これまでケイのことを恋愛感情で考えたことなかったから、正直分からない。でも、少なくとも好きだと思う。それは間違いない。

それで、次に。愛してるか、って聞かれたら今はまだ迷うけど……。これからその答えを見つけて行こうと思う。それで──」

「いいよ」

「え?」

「大体分かったから、いいよ」

 ケイはそう言って微笑む。


「下手な告白だったけど、それが今のアヴァインの素直な気持ちなんだよね?」

「え、うん。まあ……」

「その答えが見つかるまで、ずっと待つから」

「……」

「いつまでも待つから」

 その時に見せたケイリングの優しい微笑みに、アヴァインはドキッとし頬を染めた──。



第二部 第13章 【下手な告白】終


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