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─3─

 気を失い倒れてから、アヴァインは丸二日ほど眠り続けていた。今もベッドに横たわり、窓の外をぼんやりと眺め、数日前のことを思い出しては、溜息をついている。


 間もなく扉をノックする音がし、オルブライトが部屋へと入り、ベッドサイドに来て話し掛けてきた。


「アヴァイン殿……いや、今はまだアーザイン殿が良いのかな?」

 アヴァインは、オルブライトの冗談めいた言い方に軽く微笑み、困り顔に言う。

「そうですね。今暫くは、その方が良いのかも知れません」


 オルブライトは、近くにあった椅子に座る。

「傷は、まだ痛むのか」

「まだ、少しばかり」

「そうか……治るまで此処で安静にしていなさい。その方がケイリングも喜ぶ」

 ケイリングの名を聞き、三日前のことを思い出し、急に恥ずかしくなった。思わず頬が赤らむ。


 それよりもよくよく考えてみると、罪人と実の娘がキスするのを間近で見せられたのは、父親として、複雑な気分の筈だ。なんというか、申し訳ない気分になる。

「いえ……これ以上、御迷惑をお掛けする訳には参りませんので、明日の朝にでも此処を出て行きます」

 そこで起き上がろうとするアヴァインを、オルブライトはそっと肩に手を乗せ、再び寝かしつける。


「無理はしなくて良い。どの道、帝国が今回のことで疑惑を掛けて来るのは間違いあるまい。向こうは、その機会を窺っていたのだ。あの君の偽物も、キルバレスで雇われたと先程白状した。君を差し出した所で、おそらく状況は変わらんだろう」

「……」

 なるほど、あのディスランテならやりそうなことだ。


「旧臣の話では、北部ガルメシアとの初戦でキルバレスが敗戦したという。直ぐにこちらに手を出して来ることはあるまい」

「キルバレスが敗戦?」

「うむ。戦況は、膠着状態だそうだ。既に増援の要請も来ている」


 敗戦続きともなると、ディスランテも相当に焦っている筈だ。戦果を得るため、国内の引き締めの為にも、どんな無理難題を押し付けて来るかわかったものでは無い。


「増援はどの位の規模なんですか?」

「一万を要求されている。だが、度重なる増援と派兵で、此方にもそのような余裕はない。直ぐに用意するのは、困難だ」

「一万も……」

 これは策かも知れない。

 それだけの兵を要求し、弱体化したアクト=ファリアナを今回の件を理由に攻めとる。

 もし増援を断ったなら断ったで、離反の動きありと決めつけ、それを理由に各属州の協力を得て攻め入る。


 ディスランテなら、考えそうなことだ。


 そう考えていると、オルブライトがわざとらしい咳払いを一つし、口を開いてきた。

「所で…… アヴァイン殿は、ケイリングのことをどう考えている?」

「え? どう、と言われましても……」

 唐突にそう聞かれ、頬が赤らみ、困ってしまう。


「あの子は、アヴァイン殿のことを好いておる」

「え?」

 それは初耳だ。


「その前に聞いておいて欲しい事がある。

我が愚息コーリングは、国を背負う器ではない。気が弱いのだ。なので、ケイリングの相手次第では、その者に跡を継がせようと常々考えている。その事を踏まえた上で、真剣に答えて欲しい。

つまり……解るかね?」

「……はい、わかります。大丈夫です」

 だから、娘を……ケイリングを渡す訳にはいかない、ということなのだろう。父親としては、当然の判断だ。


「解ってくれたか。返答次第では、君を縛り上げキルバレスに差し出すつもりであったが、そうせずに済んでなによりだ。ハハハ」

「怖いことを言いますね」

 オルブライトが笑う中、アヴァインは頬を引き攣りながら、苦笑う。


「先々のことは、追々話すことにしよう」

 オルブライトは、そう言って立ち上がる。


「明日の朝にでも、ケイリングを見舞って上げてくれ。あの子も喜ぶ」

「え? 見舞って良いのですか?」

「当然だ」

 そう言い残し、扉を開け去って行った。


 今、別れて欲しいと言われたばかりなのに、妙な話もあるものだとアヴァインは考えた。



  ◇ ◇ ◇


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