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─2─


 それよりも数日前、アクト=ファリアナ城内では激論が交わされていた。


「オルブライト様。直ぐにでも、あの男をキルバレスへ差し出すべきです! でなければ、我がアクト=ファリアナが謀反の疑いを受け、キルバレスに攻め込まれる事になり兼ねません」

「いや、この際だ。かつて受けた屈辱を、今こそ果たすべきである! 先に敵対的挑発極まりない策を仕掛けて来たのは、向こうだ。此処は正々堂々と受けて立とうではないか!」

 旧臣を中心に、それに呼応し声を上げる者が半数は居た。


「キルバレスは大国、今や州都アルデバルもキルバレスの傘下となっております。無謀な戦いには、賛同し兼ねます!」

 若手の臣下を中心に、これに呼応する者も半数ほど居た。


「その大国キルバレスだが、南部のフォスター軍との敗戦。更に最近では、北部ガルメシアにも初戦敗退したとのこと。今やキルバレスも、沈みゆく太陽なのではありませんかな?」

 まだ噂でしかその事を聞いたことの無かった臣下の中から、動揺の声が上がる。話は、キルバレスから離反の方向にやや傾き始めた。


「北西のガルメシア、西のカナンサリファ、このアクト=ファリアナが同盟を組めば、きっと今のキルバレスになら勝てましょう! 今こそ立つべき時ですぞ!!」


「……」

 熱を帯びた臣下達の声が上がる中、しかしオルブライトは悩んでいた。何を決めるにも、今はまだ確証がないのだ。


「先ずは、カナンサリファへ使者を送る。以後のことは、その結果次第としよう」

 今は、キルバレスの出方も見極める必要があるのだ。


  ◇ ◇ ◇


「アヴァインに会わせてよ!」

 ケイリングが眠る寝室へと入ると、中から大声が聞こえて来た。看護の者がそれに困っている。ケイリングは背中から肩を斬られていたので、うつ伏せに寝かせられていた。


「無茶を言わないで下さい。そのお怪我です。出歩くなんてとんでもありません」

「だったら、アヴァインを連れて来て!」

「アヴァイン殿も怪我で発熱し、今は寝込んでいる。無茶を言うな、ケイリング」

「お父様……」


 今朝までは同じく寝込んいた筈の娘が、今ではこの有様だ。オルブライトは、呆れると同時にホッとした。この三日間、ずっと熱にうなされ眠り込んでいたからだ。


「お父様、アヴァインをキルバレスに差し出すって本当?」

 今朝まで眠り込んでいた娘が、知る由もない話だ。これはどう言うことかと看護の者を見た。看護の者は「申し訳御座いません」と謝る。恐らくは、噂で聞いたことを娘に話してしまったのだろう。

 オルブライトは、この部屋から出るよう指示し、看護の者は出て行った。

 それから窓辺へと向かい、外を眺める。

 

「アヴァインを差し出したら、許さないから!」

「ケイ……アヴァイン殿のことを、好きなのか?」

「えっ」

「図星だな。実にわかり易いな」

「べっ、別に……ちょっと気になる、ってだけで……」

「それだけで、キスまでしてしまうのか?」

「えっ!?」

 本人はその事を覚えていないのか、びっくりし顔全体どころか身体全体が真っ赤に染まっている。まさに、分かりやすい。

「大臣や旧臣の前で、公然とやったのだ。間違いでしたでは済まないぞ」

「わ、わかっています……」

「どう分かっているのだ?」

「勿論、け……婚約、出来たらな、とは思うけど…」

「思う、けど?」

「アヴァインが私のことを好きなのか、自信がないんです」

「……ふむ」

 驚くほど正直な娘の言葉に、オルブライトは微笑む。

「だったら、聞いて見たらいいではないか」

「自信が無いって言ったでしょ」

「言ってみなければ、何も始まらないではないか」

「もし、それで振られたら?」

「ぐるぐる巻にして、キルバレスに差し出すことにしよう」

「──!!? あ、痛たたた……」

 驚いて身体を動かし、傷が痛んだらしい。

「そういう冗談は嫌いよ」

「冗談に聞こえたか? 大事な娘を振るような男だ。それくらいしてやりたくもなるさ」

 それを聞いて、ケイリングは驚いた表情のあと笑っている。

「何だったら、私の方から探りを入れてみても良いが、どうする?」

「……ぅん」

 オルブライトの提案に、ケイリングは頬を染め小さく頷く。

「ならば、善は急げだ。早速行って来るとしよう」

「えっ、ちょっと!? 本気??」

「ああ、先程目を覚ましたと報告があったのでな」

「はわぁ……」

 ケイリングはまたしても身体全体が真っ赤に染まり、クッションを頭の上にして被る。それを見て、オルブライトは笑いながら部屋を出た。



  ◇ ◇ ◇

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