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首都キルバレスへと帰還したリシウスは、皇帝ディスランテに呼び出されていた。その皇帝執務室内には、スカンク貴族員も居る。
「リシウス憲兵長、御苦労であった」
「ハハッ」
「話は既に聞いている。やはり、アクト=ファリアナにアヴァインは匿われていたのだな」
その言い様にリシウス憲兵長は少し不快感を感じた。
「いえ、噂の盗賊は偽物でした。
ただ、その者とは別に、その地で大商人として名を馳せているアーザインという者が、おそらくはアヴァインかと思われます。本人はあくまでもアーザインだと最後まで言っておりましたが……」
その言葉に対し、皇帝ディスランテはニヤリと笑みを浮かべた。
「その商人が、アヴァインに違いない。つまり、アクト=ファリアナが謀反人アヴァインを匿っていた証拠になる。そうだな?
更に、オルブライト貴族員が特別に育てた、不正の商人でもある。
そうであろう? リシウス憲兵長」
「それは分かり兼ねます」
「分からないではない。事実、不正をしているのだ。その証拠にアーザインなる者の財力は、異常なまでに短時間で大きくなったと聞いておりますぞ」
スカンク貴族員が、捲し立てながらニヤニヤ顔でそう言う。
それは確かにそうなのだが、不正の証拠はない。証拠が無い以上、その罪を問うことは出来ない。リシウスはそう考えた。
「アーザインがアヴァインであるのかについては、更に調査することに致します。あと、不正があったかどうかも同じく調査を……」
「その必要はない。あとは此方でやる」
「は?」
「皇帝陛下は、調査など必要ない、と言っておるのだ。リシウス殿、分からんのか?」
「分かり兼ねます。証拠も十分でない者を評議会に掛けるなど、あってはならないことです!」
「もう良い。御苦労であった」
皇帝ディスランテの合図で、表に居た衛兵が執務室へと入りリシウス憲兵長の両腕を抱え、連れ出して行った。
「全て予定通りでしたな、皇帝陛下」
「うむ」
スカンク貴族員の言葉を受け、皇帝ディスランテは窓辺に立ち、ワイングラスを片手に祝杯をした。
◇ ◇ ◇